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原点回帰 ― バフェット氏の日本商社買い ― 【9月4日付投資日報巻頭記事完全版】

Youtubeで記事を動画にして公開してます。

https://youtu.be/BEqm87GbOoo

安倍総理辞任ショックで揺らいだ日本の株式市場において、かのウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイが、日本の代表的な5つの商社株式を既に5%以上購入し、更に9%程度まで買い進む用意がある―との発表は、まさに「青天の霹靂」ともいうべきサプライズであった。

最近バフェット氏は、アップルなどを購入。いささかハイテク株にも興味を持ったかのように見えたのだが、この投資は見る人が見れば「原点回帰」「正しいバリュー株投資への道標」にもなるものだという。それは何故だろうか?

ここで初期のバフェット氏の哲学を簡単に振り返って、日本の商社を買った意味をもう一度考えてみよう。

バフェット氏の哲学で有名なのは、理解出来る事業を運営している会社しか買わない―という事だ。その代表例があのコカ・コーラである。しかし、日本の商社はどうだろうか。

バフェット氏が投資した5大商社で最大規模の三菱商事は、コークス用炭の主要生産者であるほか、日本の大手コンビニエンスストアチェーンの1つを子会社化している。三井物産と伊藤忠、住友商事なども事業は多様で、病院経営からタイヤ販売まで多岐にわたり、焦点が見えず批判を集める事もある。

日本に住む我々でも「商社」といえば「ダボハゼ」のようなイメージがある。つまり、儲けのあるところを必ず嗅ぎつけて、一丁噛みしてくるのだ。

だが冷静に考えれば、これらの商社は収入の大部分を「エネルギー」と「資源」というバークシャーが熟知する産業から得ている、ともいえる。丸紅は、収入の90%余りを農業と金属、エネルギー、化学品で得ており、三菱商事は資源からが42%強、他の商社も同セクターに30%以上依存…。これは、オールドエナジーの復活を想定しているであろうバフェット氏の見通しと合致している。

実際、氏は他地域でもエネルギーと資源への投資を増やしている。7月にはドミニオン・エナジーの天然ガスパイプラインと貯蔵資産の大部分を購入。バリック・ゴールドにも投資した。5月の年次株主総会で氏は「私は常にエネルギービジネスについて話してきた。それは本物の金持ちになる方法ではない。本当の金持ちのままでいる方法だ」と発言。つまりエネルギーを抑える事は、投資家として成功し続けている証左である―という事だ。

またバフェット氏の哲学では、短期的には苦境でも長期的に必ず明るい見通しが必要だ―と述べている。

商社はどうだろうか。実際、日本の商社は世界で最も長い歴史を持つ業種の1つ。戦前から日本の殖産興業に大きな力を振るってきた。更にその過程で、事業を幅広く多様化させてきた。逆にいえば、何度も不況を乗り越えるほど多角化に成功してきた―という点を鑑みると、近い将来に経営破綻する可能性は低い。三井物産と住友商事のルーツは17世紀に遡り、三菱商事と伊藤忠は100年以上の歴史がある。

その上、商社が多くのモノを扱う―という意味で、「物流全体の復興」に関して最大のメリットを受ける事が出来る、という。つまり、バフェット氏は新型コロナウィルスの感染拡大や、米中貿易戦争で生じたダメージから、商品価格と世界の貿易の流れが回復していく―というシナリオを描いているのだ。

一方で、想定通りに資源価格が回復出来ない場合でも、商社は情報技術(IT)やヘルスケア、宇宙分野など新たな成長セクターに事業を多角化させているため、立ち直る強さがある。コロナ禍の中での減収でも、商社大手3社は年間配当を維持もしくは増やしたのである。

実際バリュー株としても配当がかなり多いため、利回りは良い。7月6日での株価でみると、三菱商事が5.9%、住友商事が5.6%。三井物産で5%だ。

財務上の問題も少ない。日本に信頼できる会計の評判がある事が一因かもしれない。過去多くの不祥事を引き起こした頃とは日本の会計監査も別物となっている。

そして最後のポイントは、何と言ってもその価格であろう。バリュエーションはバフェット氏にとって大きな要因だ。商社株はコロナ危機で急落し、殆どの銘柄で株価が純資産価値を下回っている。住友商事の株価純資産倍率(PBR)は最も割安な0.69倍。伊藤忠は1.2倍。これに対し、日経平均株価のPBRは約1.8倍だ。如何に商社が割安に放置されているかわかる。

こうみると、バフェット氏の日本の商社への投資は、氏の哲学からみても原点回帰といえる。本質的価値があり、歴史があり、氏が有望と考える分野に強みを持ち、割安に放置されている。5%の配当利回りならば上昇するまでいつまでも待っている事が出来る。

考えれば考えるほど、バフェット氏が日本の商社に投資したことは「必然」ですらあった―と思えてくるのである。


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