前回読んだ『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』の解説で、次に読む本として『ファスト&スロー』が薦められていた。ということで文庫本2冊に分かれているこの本を読んだ。
人間の思考を、直感的思考のシステム1と熟慮熟考のシステム2に分け、いかにシステム1が素早く、だが時に勘違いや置き換えによるミスを犯すのかを様々な事例をもとに紹介していく。
・ありふれた身体的な動作が私たちの思考に強く影響する
→論説番組を首を縦に振りながら聞くか、横に振りながら聞くかで賛否に違いが出る。
・WYSIATI…「自分の見たものがすべて(what you see is all there is)」。私たちは少ない情報で自信満々に判断する。
この指摘に限らないが、身に覚えがあり、耳が痛い。社会は複雑であり、そう簡単には判断できないことが多いが、どうしても私たちは結果をある一つの原因に求めてしまいがちだ。NHKのドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」では、社会が複雑で、単純じゃないというメッセージが繰り返し発せられていた。
・少数の法則…標本が小さいときは極端なケースがより標本が大きいときより多く起きるということ。それを私たちは何か別の原因があるのではと勘違いしてしまう。
・アンカリング効果…これは『予想どおりに不合理』でも述べられていた。ある判断をする前に示された数字に、私たちは無意識に影響を受けるというものだ。
このアンカリングは様々な取り引きで活用されており、概ね提示する側が有利になる。ではどうすればよいのか。以下のように述べられているが、なかなか実践するのは難しそうだ。
・回帰…成功したからといって褒めると調子に乗って失敗する、むしろ失敗したときに叱ることで今度は成功する。これは本当か、実際は平均値に回帰しただけなのかもしれない。
要するに、時間の経過とともに回復する集団の性質を見落としているのだ。本当にある行為に原因があるかは、プラセボを受ける集団との比較が必要となる。
回帰という現象は、見渡してみればそこかしこであるはずだ。だが、どうしても私たちは業績の改善やある人の功績を一つの原因に還元してしまう。その時、回帰という言葉を思い出せれば、もう少しはましな判断ができるのかもしれない。