戸谷洋志

1988年生。関西外国語大学国際英語学部、准教授。博士(文学)。専門は哲学・倫理学。ハ…

戸谷洋志

1988年生。関西外国語大学国際英語学部、准教授。博士(文学)。専門は哲学・倫理学。ハンス・ヨナスを主要な研究対象としながら、「責任」・「未来」・「技術」・「対話」をキーワードに、研究・実践しています。

最近の記事

犬目線の桃太郎

多分、ある集団のなかで誰かを「推す」ということは、その集団の中心をその誰かに置くということ、その集団を、「推し」によって意味づける、ということを意味する。 たとえば『ONE PIECE』でサンジを推すなら、その物語はサンジを中心としたものとして再構成される。サンジが紙面に登場していないときも、「サンジはこのときどこにいるんだろう」「サンジはこの発言をどう受け止めているんだろう」と、パースペクティブの変換が起こる。 そういうコンテンツの受容の仕方を可能にしているのは、視点が

    • 春の虫

      春の虫が苦手だ。 多分、虫の量だけで言うなら、夏の方がたくさんの虫が飛び交っているのだろう。 しかし、春の虫と夏の虫は、なんだか少し違う。どこが違うのか。それはすなわち、テンションだ。春の虫はテンションが高い。長い冬を越えて久しぶりに再会したメンバーとの旧交を温めるかのように、はしゃぎまわっている。 それはまるで、同窓会のようですらある。「おい!ひさしぶり!しばらく見ない間に太ったなお前!いま何してんだよ!」「いやいや、それはお互い様だろ!いまはフリーランスのパーソナル

      • おかか閣下

        頭の中でイメージが結びついている言葉というものが、いくつかある。 僕のなかでの筆頭は、「おかか」と「閣下」。多分、おかかはおにぎりの文脈で知って、閣下は『天空の城ラピュタ』か何かで知った。そしておそらく、ほぼ同時期に知ったのだと思う。しかも、日常生活での登場頻度がほとんど同じくらいなのもよくない。閣下という言葉を聞くと、なんだか口のなかでおかかの味がする。あるいは、おかかを食べていると、脳裏に閣下の姿が蘇る(名前のない、概念としての閣下、閣下のイデア)。 まだそういう経験

        • コロシアム

          古代ローマの円形闘技場(コロシアム)では、各地の奴隷が集められて剣闘士として育成され、血なまぐさい戦いがショーとして営まれた。賭け事の類も行われていたらしい。また、ショーは一対一の決闘の形式だけではなく、史実の戦争を再現した模擬戦や、動物との戦い、さらには闘技場に人工の湖を設け、模擬海戦が行われることもあったという。 「パンとサーカス」と言われるときの「サーカス」は、現代のサーカスを指すのではなく、円形闘技場の残酷ショーを指していた。両者はともに、ときの皇帝がローマの国民か

        犬目線の桃太郎

          ハザードランプ

          僕は通勤にバイクを使っている。バイクは事故を起こすとこちらが大けがをするので、極めて慎重に運転するようにしている。とりわけ、前方の車がハザードランプを焚いたときには、全神経が研ぎ澄まされる。 なぜなら、ハザードランプは多義的だからだ。それは、「これからバックしますよ」という合図かも知れないし、「先に行ってください」という合図かも知れない。あるいはもしかしたら、こちらに何かの合図を送っているわけではなくて、つまり、向こうはこちらを認識していないかも知れない。そうした様々な可能

          ハザードランプ

          イルカの話

          バーチャル・リアリティという言葉は、1931年にアントナン・アルトーという思想家が作り出した言葉だと言われている。当たり前だけど、彼が念頭に置いていたのは、テクノロジーによって構成された視聴覚的な疑似空間のことではなく、演劇のことだった。彼は「錬金術的演劇」という評論のなかで、演劇をある種の錬金術として説明し、そして両者はともにバーチャル・リアリティを作り出そうとするものである、と述べている。 錬金術というのは、ものすごくざっくりと言えば、石を黄金に変える技術のことだ。その

          イルカの話

          格闘技の技を道場の外で使用するのはやめましょう

          僕は大学生のときに、大学の近くにある空手の道場に通っていた。大学でフルコンタクトの空手部に入っていたのだが、練習が激しすぎてやめた。何かめちゃくちゃな稽古やトレーニングを強いられたわけではないのだが、先輩が強すぎて、ゲーム性が崩壊していたのだ。 大学近くの道場はライトコンタクトだった。これは、組手のときに本気で相手を強打するのではなく、いいタイミングで技が入ったらポイントを取って、そのポイントの合計点で競うというルールだ。相手にダメージを与えてもいいけど、それよりも早く正確

          格闘技の技を道場の外で使用するのはやめましょう

          ミニマリストについて

          ミニマリストには二種類いると思っている。一つは、最適化されたミニマリスト、もう一つは、反時代的なミニマリストだ。 最適化されたミニマリストは、その都度の状況に応じて、必要最小限の道具だけを持とうとする人である。こうした人は、実は、たくさんの商品を買っては、そのほとんどをろくに使いもせずに廃棄したり、転売する。なぜなら、どのように最適化するかはその人が置かれた状況によって左右されるのであり、最適化が実現されるまで、試行錯誤が繰り返されるからだ。   たとえば、一見すると一つの

          ミニマリストについて

          反出生主義のこと

          ダ・ヴィンチ恐山こと品田遊さんと対談させていただいた。 今回のテーマは反出生主義で、僕の『親ガチャの哲学』と、品田さんの『ただしい人類滅亡計画』を交錯させる内容だった。 対談の内容としては、相当にボリューミーで、少し時間をかけて消化していかないといけないな、と思いつつ、二つだけ振り返っておきたい。 一つは、品田さんの『ただしい人類滅亡計画』における、議論と共鳴の関係。この本のなかでは、途中まで徹底して論理的な議論が展開されるが、終盤で議論という営みそのものがひっくり返さ

          反出生主義のこと

          三軒茶屋的風景

          出張で東京に来るたびに思うが、ホテルの高騰がひどい。出張先から賄われる宿泊費では完全に赤字になる。1万円台で泊まれるところなんて、カプセルホテルくらいだ。どうにかしてくれ。 そういうわけで、東京に来るたびに、1円でも安いホテルを探すことになる。場所にこだわることなんてできない。だから毎回違うホテルを取ることになる。今回は三軒茶屋の宿を取った。 考えてみれば、三軒茶屋に来たのは初めてだった。おしゃれな飲食店が立ち並ぶ、雰囲気のいい街だ。のんびり散策してみたいが、出張で来てい

          三軒茶屋的風景

          虫の話

          宮沢賢治の童話に、『よだかの星』という小品がある。よだかは実在する鳥であり、空を飛びながら虫を食べる。物語のなかで、彼は鷹からいじめられている。その被害に苦しみながら、いつものように虫を食べていると、はたと気づく。自分もまた虫を食べている。虫にとっては自分もまた加害者である。結局自分は、鷹が自分をいじめ、自分が虫を食べるこの加害と被害の連鎖に巻き込まれており、そこから抜け出せない。そのことに深く絶望した彼は、一切虫を食べることをやめ、星になることを決意する。 バイクに乗って

          授業で木魚を導入した話

          今年度、大学の授業で新たなアイテムを導入した。「木魚」だ。 もともと僕は授業で頻繁にグループワークをする。グループワークは時間管理が命だ。制限時間を予告し、その時間がきたら強制的に議論を打ち切らせる。時間管理を徹底しなければ、グループワークは有効に機能しない。 そのときに問題になるのは、どうやって議論を打ち切らせるかだ。「はい、やめ!」と言うのでもいい。しかし、それではなんだか命令口調になって、高圧的である。それに、数百人規模の授業だと、一回言っただけでは伝わらないことも

          授業で木魚を導入した話

          未来が見えるガラスの玉があったら、どれくらいの間楽しめる?

          未来が見えるガラス玉があったら、とりあえず、とてつもなく未来を見るのであれば楽しめると思う。たとえば一万年後。そこに人間がいるのかどうかは分からないけど、もしいたら生活様式はずいぶん違っているだろうし、反対に別の生物が地球を支配していても面白い。 荒野になっていても不思議には思わない。でも、地上が燃え盛る火の海になっていたら、何が起きたんだろうと思う。どれくらい長い間、火の海になっているのかも気になる。そしてそれが人間によってもたらされた出来事なのかどうかも気になりそうだ。

          未来が見えるガラスの玉があったら、どれくらいの間楽しめる?

          現象学入門的な何か(1)

          現象学に関する入門的な講座を文章にまとめました。よろしければぜひご覧ください。

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          現象学入門的な何か(1)

          ドライフラワーについて

          今年度まで、本務校の「哲学」という授業で友情を扱っていたのですが、来年度から恋愛を扱うことに変えました。学生から、ぜひそうしたほしいという要望があったためです。 それで、いつものように、ポピュラー音楽を活用しようと思っていて、このところラブソングというラブソングを聴き倒しています。昨日、ようやくすべてのリストが固まりました。疲れた。 トップバッターとして紹介するのは、優里さんの「ドライフラワー」にすることにしました。2020年に発表され、一躍彼の名を世に轟かせた有名曲です

          ドライフラワーについて

          ポケモンSVをやった感想

          ポケモンSVを(とりあえずストーリーだけ)クリアしました。相棒は今回から加わったソウブレイズにしていました。かっこいいし強いです。進化させる手間も適度な感じでおすすめです。 それはそうと、今回、プレイしていてずっと思っていたことがあります。伝説のポケモンとして登場するコライドンとミライドンについてです。 ポケモンには、これまでどの作品にも伝説のポケモンが登場しています。伝説のポケモンには、微妙な例外があるにせよ、共通する特徴があります。それは、その世界の歴史の形成と深く関

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