女子の合格率問題は、医学部だけなんかじゃない

 不正入試に端を発し、女子の合格率を抑えているという事実が明るみに出た東京医大の問題。以下の新聞記事では、主要医学部の男子の合格率を1としたときの女子の合格率を掲載しています。このランキング表は、一見の価値があります。

その数字が最も低かったのは、やはり東京医大。0.34という数字です。しかし、東京医大に及ばずとも、同じようにこの数値が低い医学部は、ほかにもたくさんあります。東京医大以外は、点数の調整はしていないと回答しているようですが、まあそれはそうと回答するしかありませんし、その回答の多くは、信頼できるものではないでしょう。

このデータで、特に注目すべきなのは、しかし、小さな数字ではありません。最も大きな数字にあります。最大スコアは、島根大の1.68。女性の方が、合格率がはるかに高いという数値です。そして、この数字こそは、「点数を調整していない」ひとつの結果です。つまり、「何も調整せずに選抜すれば、女性の方が倍率が高い」という仮説が、この数字からは導かれます。

そして、その仮説は、大学の医学部の選考に限ったことではない。新卒採用に携わっている方の多くは、そう思っているのではないでしょうか。

「普通に選ぶと、女子ばかりになってしまう。だから、男子学生には下駄をはかせて、人数を調整する」

このコメントは、とある有名企業の採用責任者が発したもの。そして、同様の声を、私はいくつもの企業から聞いたことがあります。新卒採用においては、女性の方が優秀であることは、公然の秘密です。そして、女子ばかりでは、ライフイベントによる退職可能性が高まるので、比率を調整しているのも、です。

このような女強男弱の状況が生まれるのを、ある人は「大学卒業前後の年齢時点では、男性より女性の方が精神的に発達しているのではないか」と言います。ある人は、そうした意見を受けて「女性の方が、自身の将来展望を明確に描けている」と言います。そうなのかもしれません。もしそうなのだとしたら、多くの企業は、大学卒業時点で、精神的にまだ発達していずに、自身の未来展望がはっきりしていない男子を、下駄をはかせて採用しているということになります。その男子が、後年になったら精神的に発達し、自身のキャリアビジョンを明確に持つようになっているのであれば、企業の選考としてはまた一定の合理性はありますが、そのような兆候は、私の知る限り、どの企業内にも見受けられません。

この問題は、ふたつの大きな問いを、私たちの社会に問いかけているように思います。

まず、ひとつ。医者の世界はまだ未整備かもしれませんが、一般企業は、女性にとっても働きやすい環境が整備されつつあります。となれば、性差など全く考慮せず、純粋に優秀な人材を選抜し、登用する、ということが企業にとっては合理的な選択になっているということです。そのように、表向きは女性活躍を支援する体制や環境を作っていながら、なぜ、今もなお調整が幅を利かせているのか。

もうひとつ。社会の中核的な役割は男性が担う、という暗黙の了解が、また今も社会全体を覆っているわけですが、そして、その背後には、よろずまつりごとを行う能力は男性の穂が総じて高い、というような認識が横たわっているわけですが、そのこと自体をリセットする時が来ているのではないか。女性活躍、なんていう言葉が蔓延ること自体が、強烈なバイアスが存在する証左です。

就活に臨む女子学生の多くは、就活で各企業と接することで、「ああ、私は女だったのだ」と強く認識するそうです。それまでの人生において、もちろんセックスとしての女性は意識しながらも、ジェンダーという側面での女性性をほとんど認識してこなかった彼女たちは、就活において、男とは違う接し方をされ、キャリア展望を提示されます。私たちは、壮大な社会的損失を、今もまだ垂れ流しているのかもしれません。

企業社会が、いや、企業に限らず、医者や政治家など働くという主要セクターすべてが、まだまだ「男社会」であることを、私たちは強く強く認識すべきなのだと思います。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34614090W8A820C1SHA000/

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