「バブル入社組」を悪者にするな。

「役職定年に適応できない バブルおじさん2人の生態」。この記事は、人事コンサルタント・相原孝夫さんの著書「バブル入社組の憂鬱」をベースにしたもの。ご自身もバブル入社組である相原さんは、同世代にもっと元気になってもらいたいと考え、この本を著しています。

バブル入社組の評判は、「今すこぶる悪い」のだそうです。それも、下の世代から。

残念ながら、その通りだと思います。そして、それは今に始まったことではなく。2000年代に入ったあたりから、そうした状況は生まれていました。

2000年代に入ってすぐのころに、「若手のマネジメントがうまくいかない。かつての若手とは違うのではないか」という、「いつの時代も常にある」ような課題をもとに、調査をしたことがあります。その時に分かったのは、「若手社員の意識は、確かに特色あるものだけど、それ以上に特色があって、組織から浮いている世代がいる」というもの。そう。バブル入社世代です。当時の若手社員にインタビューすると、リーダーポジションで幅を利かせているバブル世代へのクレームの嵐。「相談に乗ってくれない」「うまくいくわけがないような方法を指示する」「勢いだけで乗りきろうとする」などなど。でも、当時は、中核的なポジションにいましたし、まだ「昭和的なノリ」でもなんとかなってしまうような状況にもありました。

そして、今。そろそろ役職定年、という年代に差し掛かり、年下のマネジャーとはうまくいかず、沈んでいるのだそうです。

では、彼らに問題があるのか? もちろん個人サイドにも改めてほしい点はあります。でも、放置してきた会社にも、大きな問題があります。さらに、この問題は、そういうレベルの問題ではなく、社会的なミスマッチの話に起因しているのです。

2005年に「人材マーケットの2015年予測」を行いました。人口減少社会の入り口に立ち、激変する労働市場の今後を予測してみました。そこから、10の未来シナリオを紡ぎ出しました。そのひとつは、

「バブル入社組」「団塊ジュニア」の民族大移動が起きる。

というもの。当時の30代=「バブル入社組」「団塊ジュニア」は、大企業に在籍する比率が高かったのです。そして、大企業のポスト不足が進行するのは自明のこと。その人たちが大企業に留まってしまえば、やがては「お荷物」になることもまた自明のこと。だから、大企業にいる「バブル入社組」「団塊ジュニア」が、自身の活かしどころを探して、ミドルの転職市場が活性化する、というシナリオを描いたのです。

他の未来シナリオは、まずまず当たりましたが、このシナリオは大外れ。大移動なんて起きませんでした。

移動しなかった「バブル入社世代」が悪いのでしょうか。いや、そうではないでしょう。では、やめさせなかった会社が悪い? うーん、本人にきちんと自覚をさせてこなかった会社サイドにはもちろん問題はあります。ですが、会社だけが頑張っても、うまくいかなかったのではないかと思います。ては、労働市場の流動性の問題でしょうか。確かに、大企業から中小企業、大都市圏からローカル圏への人材移動は進みません。ハローワーク、民間の求人情報、人材バンクは進化してはいますが、社会構造の変化に則して変容できているとは言えません。でも、それにも限界があります。

では、何が足りなかったのか。

それは、この国の「21世紀の人材活用ビジョン・キャリアビジョン」が、描かれていなかったからではないでしょうか。

バブル崩壊後、つまりは平成に入って以降も、昭和的な人材活用ビジョン・キャリアビジョンに支配され、束縛され、社会も企業も個人も変われないままだった。そして、その平成は間もなく幕を閉じようとしています。平成という時代を、キャリアの観点から振り返ると、そこに浮かび上がるのは、時代の転換を図れずに喘ぎ苦しむ個人・企業・社会の姿です。そして、その象徴が「バブル入社組」。私にはそう見えます。

でも、さして悲観はしていません。「バブル入社組」の中にも、それより上の世代にも下の世代にも、昭和的なキャリアビジョンから解放されて、生き生きしている人は、どんどん生まれています。

1980年代末。バブル景気が始まる前から、市場は成熟し、消費は鈍化することが予測されていました。生産、消費の基軸はマスから個へ、これからは、個人が力を持つ「個人の時代」が始まる、と言われていました。しかし、バブル景気とその崩壊に伴う余波は、そのような時代の到来を許しませんでした。

雌伏の時を経て、やっと「個人の時代」がやってこようとしています。そして、そうした個人は、既に生まれています。それを加速するのは、平成の世では描ききれなかった「21世紀の人材活用ビジョン・キャリアビジョン」の存在。近年立ち上がっている「働き方改革」の文脈の中には、相変わらず昭和なものも散見されますが、光も見えています。

だから、バブル入社組の皆さん、ご心配なく。皆さんは、決して悪者ではないし、きっと、皆さん一人ひとりが、これからも生き生きと働ける社会はきっと来ます。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO33950720Y8A800C1000000?channel=DF150620184187

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