見出し画像

食欲を科学する


今回のnoteで学べること
・食欲調整の根本的なメカニズム
・満腹中枢と摂食中枢
・食欲を司るホルモン
・食欲を抑制する方法



①食欲を操る視床下部

大脳の下の間脳にある「視床下部」は、体温の維持、呼吸、代謝などを維持する機能があります。そして、食欲を調節する役割もあるのです。

満腹中枢と摂食中枢

視床下部の「腹内側核(VMH)」「外側野(LHA)」には満腹中枢と摂食中枢と呼ばれる摂食を制御する中枢があり、それぞれ交感神経と迷走神経が接続しています。

つまり、VHMが刺激されると”食欲が抑制”されて、LHAが刺激されると”食欲が促進”されるということです。

マウスの実験ではLHAを破壊すると空腹を感じないので、摂食行動をやめて、餓死してしまうとのことです。

この項では、食欲の根本は視床下部で調節されているということだけ覚えていただければ問題なしです。

②食欲に関係する伝達物質

食欲は中枢で制御されているが、食欲中枢や摂食中枢は抹消の組織(消化管や脂肪細胞など)からシグナルを受け取って、食欲を制御しています。

抹消からのシグナル

1.食物の消化吸収によって得られるグルコースや脂肪酸などの代謝産物
2.インスリンやグルカゴン、アドレナリンなどのホルモン
3.消化管に散在する分泌細胞から分泌される消化管ホルモン
4.脂肪細胞から分泌されるホルモン
5.消化管の拡張や収縮によって発生する神経シグナル
6.小腸や肝臓に存在するグルコースニューロン

①〜④は多くが血液に通じてもたらされる体液性伝達で、⑤〜⑥は自律神経を介する神経性伝達になります。

③糖定常説と脂肪定常説

この説は名前の通り、人間の体は血糖値や体脂肪を一定に保とうとするメカニズムがあるということです。

そして、このようなメカニズムに異変があると、みるみる太っていくということになります。

糖定常説

LHAやVMHにはそれぞれ、「グルコース感受性ニューロン」「グルコース受容ニューロン」があります。名前がややこしいですね。

血糖値が上がるとVHM(満腹中枢)にある、グルコース受容ニューロンが活性化され、摂食行動が抑制されます。
それに対して、脂肪酸が増加するとLHA(摂食中枢)にある、グルコース感受性ニューロンが刺激され、摂食促進が起こります。

簡単にまとめると、血糖値が上がると満腹中枢が刺激されて食欲が低下する。脂肪酸が増加(空腹時)と摂食中枢が刺激されて食欲が増加するメカニズムがあるというわけです。

そのため、日常生活で血糖値を乱高下させると、食欲が増加して、カロリー摂取が増えるというわけです。

脂肪定常説

この説は強制的に過食あるいは減食によって体重を変動させても、それを止めると元の体重に戻ることから、考え始められました。

この現象は本格的にトレーニングしている人は体験したことがあるのではないでしょうか?増量してても気を抜くと、体重が落ちてしまう。過激な減少後にすぐにリバウンドしてしまう。
つまり、なんらかのシグナルによってカラダは適正体重に戻そうとしているのです。

このシグナルを送っているのが、脂肪細胞から分泌される「レプチン」になります。このnoteを読んでいる方はもうご存知でしょう。
レプチンは満腹中枢を刺激する作用があります。

このレプチンは脂肪細胞の肥大に従いその生産量は増加します。
つまり、過食をして体脂肪が増えてくるとレプチンの増加量が増えて、食欲が抑制されるということになります。

逆に減量して、異常に体脂肪が減少するとレプチンの生産量が減少するため、満腹中枢が刺激されず、食欲が増加するということになります。

しかし、太りすぎるとレプチン抵抗性(※1)を引き起こすので、過激な過食や増量には注意が必要です。

④摂食行動に関するペプチド

レプチン以外にも摂食行動を制御する物質は多く存在します。
今回はざっくり摂食行動に関係するペプチドを紹介していきます。

摂食を制御するペプチド

レプチン
前述の通り、脂肪細胞で合成され、血流を介して視床下部に到達し、VMHに働いて摂食を抑制し、エネルギー代謝を亢進します。エネルギー制御の中心的な役割を担っています。作用するのに約20分を要するため、ゆっくり食事すると食べ過ぎを防ぐことができます。

インスリン
膵臓のβ細胞から分泌される血糖を下げるホルモンで、グルカゴンと共に血糖値のホメオスタシスに中心的な役割を果たしている。
基本的にはレプチンと同様摂食抑制の作用がありますが、抹消ではレプチンと反対にエネルギー蓄積に働きます。

コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)
ストレスに応答して、副腎皮質からグルココルチコイドの分泌を促進する。
中枢では食欲を抑制し、抹消では異化作用を亢進して、貯蔵エネルギーを放出する働きがあります。

コレシストキニン(CCK)
十二指腸から放出される消化管ホルモンで、摂食を抑制する。
消化管では胆汁と膵液の分泌を促す働きもある。つまり、抹消では栄養素の消化吸収を促進し、中枢では食欲を抑制する働きがあります。

グルカゴン
空腹時など血糖値が下がった時に分泌され、血糖値を上げる働きがある。
メカニズムは未だ不明ですが、食欲を抑制する働きもあります。

ニューロメジンU・S
視床下部に多く存在する生理活性ペプチドである。
サーガディアンリズムにの乱れによって低下するため、ある程度生活リズムは整えた方が良い。

摂食を促進するペプチド

ニューロペプチドY(NPY)
脳のいくつかの部分で発言しており、視床下部でも生産され、食欲を亢進する働きがある。また、交感神経を抑制するため、エネルギー消費も抑制する。絶食時や激しい運動時など、エネルギーバランスが負になると、生産が亢進する。レプチンとインスリンによってNPYの発現と放出は抑制されます。

グレリン
主に胃で産生され、その発現は絶食時で増加し、摂食で減少する。
NPY遺伝子の発現を増強し、レプチンで誘発される摂食低下を抑えることから、グレリンとレプチンは摂食行動に関しては拮抗的に作用します。また、ストレスを感じると分泌量が増えるため、ストレスを抑えることは減量において重要である。

アグーチ関連タンパク質(AGRP)
副腎や視床下部で発現し、レプチンに対して拮抗的な作用を持っている。

オレキシン
食欲や睡眠、体内リズムに関わるホルモン。
摂食を促進するペプチドではあるが、同量のカロリー摂取でも筋肉での糖の利用を活発にし、血糖上昇を抑える働きがある。

⑤食欲を抑制する方法

1.血糖値の変動を少なくする

血糖値が大きく変動してしまうと、血糖値が下がった時に空腹感を感じやすくなります。また、急激に血糖値を上げると、血糖値の低下のピークも大きくなるので注意が必要です。
対策としては、低GI食品や食物繊維を積極的に摂取するのがよいでしょう。

2.睡眠時間を確保する

睡眠時間も侮れません。
睡眠時間が短くなるとグレリンが増加して、食欲が増加します。
筆者もダイエットの指導の際には必ず睡眠時間をヒアリングします。
最低6時間は確保したいところです。(ショートスリーパーは除く)

3.ゆっくり食事をする

基本的ですが、非常に重要です。
先程も解説しましたが、レプチンが作用するのに約20分程度時間を要します。そのため、ゆっくり食事をすることでレプチンが効き始め、食べ過ぎを防ぐことができます。

4.ストレスを発散する

ストレスが増えると、グレリンが増加して食欲が増えてしまいます。
そのため、ストレス発散方法を持っておくのも非常に良いです。
ベストボディ大会で優勝経験のある方に減量の秘訣を聞いた時は、ストレス発散だと仰っていました。特に、対物(登山や海、ドライブなど)のもで1つ見つけると、いつでもストレスが発散できて良いとのことです。
栄養素的にはマグネシウムと御嶽百草丸がお勧めです。

5.生活リズムを固定する

ニューロメジンU・Sはサーガディアンリズムの乱れによって分泌が低下します。そのため、ある程度生活リズムを固定することが重要でしょう。

6.タンパク質を多めに摂取する

実際にタンパク質を全体のカロリーの30%にするだけで、レプチンの感受性が高まり、食欲が低下することが報告されています。(※2)
筆者は食事前にプロテインを飲むことをよく勧めています。

7.インスリ感受性を上げる

インスリン抵抗性はレプチン抵抗性を引き起こしてしまいます。
そのため、インスリン働きを維持することによって、食べ過ぎを防ぐことができます。
インスリン感受性を上げる栄養素して摂取したいものは、タンパク質、亜鉛、αリポ酸、アルギニン&シトルリン、ケルセチンあたりです。


まとめ

  • 視床下部は食欲を制御する働きがある

  • 腹内側核(VMH)が刺激されると食欲が抑制され、外側野(LHA)が刺激されると食欲が亢進する

  • 人間は体型を維持する機能が備わっている

  • 血糖値が上がるとVHMが刺激され食欲が抑制され、脂肪酸が増加するとLHAが刺激されて食欲が亢進する

  • 肥満とインスリン抵抗性はレプチン抵抗を引き起こす

  • 摂食を制御するペプチドとしては、レプチン、インスリン、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)、コレシストキニン(CCK)、グルカゴン、ニューロメジンU・Sなどがある

  • 摂食を促進するペプチドとしては、ニューロペプチドY(NPY)、グレリン、アグーチ関連タンパク質(AGRP)、オレキシンなどがある

  • 食欲を抑える方法としては、血糖値の変動を少なくし、生活理リズムを整え、タンパク質を多めに摂取することが重要である

    人間には様々な摂食を制御するシステムがあることが分かったと思います。これらを理解することによって、どこに問題が生じると摂食制御のバランスが乱れるのかを理解することができると思います。

    逆に減量の期間などは、ある状態を想定すること(例えば、ストレスが増えるとグレリンが増加する)で先回りして対策(例えば、抗ストレス効果のある栄養素を多めに摂取するなど)することで、メカニズムを知らない人よりも楽に減量できるようになります。




参考文献

(※1)Vasselli JR. The role of dietary components in leptin resistance. Adv Nutr. 2012 Sep 1;3(5):736-8. doi: 10.3945/an.112.002659. PMID: 22983859; PMCID: PMC3648762.
(※2)Yadav A, Kataria MA, Saini V, Yadav A. Role of leptin and adiponectin in insulin resistance. Clin Chim Acta. 2013 Feb 18;417:80-4. doi: 10.1016/j.cca.2012.12.007. Epub 2012 Dec 22. PMID: 23266767.

ここから先は

0字

Molecular Nutrion(分子栄養学)

¥1,500 / 月 初月無料

実践で使える”周りの人と差がつく知識”を提供することを約束します。 月に4記事以上読む人はマガジン購読の方がお得です。 配信内容🔻 ・基…

僕に学ばせてください。