半導体の性能を測定する・新開発ホール測定システムレジテスト8400について

2015年1月時点の内容です

レジテストは何を測定するのですか?

この装置はホール効果を利用して半導体の電子輸送能力を測定します。研究者が作った半導体の試作品がどれほどの能力を持っているのかを調べるのです。いきなりこう言われてもピンとこないかもしれませんね。そこで道路の輸送能力に例えてみたいと思います。道路の輸送能力はそこを走る車の台数とその速度の積で表すことができるでしょう。たくさんの車が渋滞せずに高い速度で走れたら、その道路は高い輸送能力を持っていることになります。

実は半導体でも同じように考えることができるのです。LEDから出る光の強さは半導体の内部を流れる電子の量に比例しますから、強い光を出したいときはそれこそ高速道路のように沢山の電子を速く移動させることのできる高性能な半導体を使う必要があるわけです。磁場の中に置かれた半導体に電流を流すと、半導体内部の電子がローレンツ力という力を受け、半導体の表面にホール電圧を作り出します。この電圧を分析すると半導体中の電子の量と移動の速さがわかります。これを測定するのがレジテストです。このように半導体の性質を知る上で基本中の基本といえる情報ですから、半導体材料の研究者は必ずホール測定をします。青色LEDの開発者を含め、すでに200セット以上のレジテストが全国の研究所で使われています。

半導体とはどんな物質ですか?

導体と不導体(※1)の中間の導電性を持った物質です。それに光や熱、電圧、磁場などの外部の環境に対してとても敏感です。例えば、温度。半導体の電気抵抗は温度に反比例しますので、温度センサー(※2)として使われています。また、電圧にも敏感です。うまく電極を配置して半導体に電圧を掛けると電気抵抗が大きく変わります。この性質を利用すると電流をON-OFFするスイッチができます。これがトランジスタ(※3)で、コンピューターのCPU(中央演算処理装置)ひとつには4 億個ものトランジスタが使われています。LEDや太陽電池、磁気センサーなど様々な電子デバイスに応用されています。

※1. 絶縁体とも言う
※2. サーミスタ素子という部品名で体温計に使われている
※3. これは電界効果トランジスタ

キャリアのタイプ・濃度・移動度の意味は?

電気を運ぶものをキャリア(※4)と呼びますが、ここまでは説明を簡単にするため、キャリアは電子であるとしてきました。実は電子の他に正孔(※5)というキャリアがあります。電子がキャリアの半導体をN型、正孔の半導体をP 型と呼びます(※6)。キャリア濃度(※7)は文字通り半導体中のキャリアの濃さのことです。この値が小さいほど電気を運ぶ粒子が希薄だということですから電気が流れにくくなります。実はトランジスタはキャリア濃度を変化させることで、電流の流れる量を変えているのです。そのための電圧をかける電極をゲート電極といいます。移動度(※8)はキャリアの動きやすさです。この値が大きいほど電気抵抗は小さくなります。

※4. Charge carrier、電荷担体とも言い、電流を担う粒子
※5. Electron holeとも言い、電子で満たされるべきところで電子が一つ欠けたもの。比喩として水中の泡や映画館の空席に例えられる。
※6. P 型とN型の半導体を接合するとダイオードという整流素子ができる
※7. キャリア密度とも言い、単位は[cm-3]
※8. 易動度とも言い、単位は[cm2 V-1 s-1]

良い半導体の条件とは?

半導体の用途によりますが、普通は移動度が大きいこととキャリアのタイプと濃度を狙い通りの値にできることです。例えば、半導体をスイッチ(トランジスタ)として使おうとしたとき、スイッチをオンした時には大量に電気が流せて、スイッチをオフしたときにはまったく電気が流れないようにしたいですね。もしそうするなら、移動度はなるべく大きく、キャリアの濃度は外部の電圧で濃くも薄くもできるような適度な濃さに作れると良いわけです。研究者達はこういった条件を狙い通りの値にするためにしのぎを削っています。そして試作した半導体をレジテストで測定しているのです。

温度を変えて測定する意味は?

実はレジテストには試料の温度を変えて測定するためのオプションがあります。これを使うと移動度とキャリア濃度の温度変化を観察できます。半導体は温度が上昇すると抵抗が下がることが知られていますが、この装置を使うとキャリア濃度と移動度の変化から抵抗が下がった理由が分かります。またその変化を分析すると伝導電子の活性化エネルギー(※9)の大きさや不純物の影響もわかります。

※9. 電子が価電子帯から導電帯に励起するために必要なエネルギーの大きさ。この値でLEDの発光色が決まる。単位は[eV]

レジテストの市場は?

半導体として有名なシリコンだけではなく、青色LEDに使われる窒化ガリウム、赤色LEDの砒化ガリウム、省エネルギーのキーデバイスとして期待されている炭化珪素(シリコンカーバイド)、光の影響を受けない透明なトランジスタIGZOなどを含むすべての半導体が測定対象です。AC 磁場を利用した(当社特許技術)ホール測定アルゴリズムを搭載しているため、この装置でなければ測定できない試料も多くあります。特に測定の難しいワイドバンドギャップ半導体のホール測定はこの装置の独壇場といっても過言ではありません。

新規開発のきっかけは何ですか?

それは新しい材料に対応するためでした。旧モデル8300シリーズを発売してから15年が経過し、その間に、単原子膜グラフェンや太陽電池材料CIGS、透明トランジスタ材料IGZOなどの測定しにくい材料が増えてきました。そうしてユーザーはさらに高い感度を持った装置を求めるようになったのです。私たち開発チームはそれに対応すべく感度向上を目的として開発プロジェクトをスタートしました。

共同開発の効果は?

レジテスト8400システムは東陽テクニカと米国Lake Shore 社の共同開発プロジェクトによって開発されました。Lake Shore社がハードウェアメーカーの本領を発揮して、私たち東陽テクニカが考案したノイズ低減のアイデアを実際の製品に仕上げてくれました。この共同開発によって我々は既存の機材を組み合わせただけでは達成することのできない2桁もの感度向上を得ることに成功しました。それだけではありません。この開発プロジェクトを通じてLakeShore 社と私たちはメーカーと代理店という単純な枠組みを超え、パートナーと呼ぶにふさわしい関係性を持つに至りました。

8400シリーズの社会貢献

私たちはノイズの発生源を徹底的に排除することで感度を従来モデルより2桁高くすることに成功しました。この効果によって測定できる材料の範囲が大幅に広くなりました。特に開発初期の材料は結晶性が悪く高感度な測定が必要になるため、多くの先端研究者に8400の発売を喜んでいただきました。高感度なレジテストは照明に革命をもたらしてノーベル賞を受賞した青色LEDの開発にも使われています。高感度な測定を通じて社会に貢献してきたことは私たちの大きな喜びです。

画像1

レジテスト8400 型

画像2
画像3

筆者紹介
株式会社東陽テクニカ 営業第1部 山口 政紀
1993年4月入社。高感度DC計測器、低温測定機器のアプリケーション担当、ホール測定システムの販売及び開発に従事。2014年より計測アドバイザー。

画像4