本と大学と図書館と-38- 日本社会のしくみ (Fmics Big Egg 2022年3月号)

 『日本社会のしくみ:雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社現代新書 2019 601p)を,年明けから2ヶ月かけて,やっと読み終えました。長年の疑問,1)日本では学んだ内容・学部より大学名が重要なのは何故なのか,2)仕事のやり方を変えるのが大変なのは何故なのか,この2つの解明に一歩でも近づける予感がしました。

 人生の類型として,大企業型,地元型,残余型の3つを提示しています。大企業型は,大学を出て大企業や官庁に雇われ,正社員,終身雇用の人生をすごす人たちとその家族。地元型は,地元の中学や高校に行ったあと,農業・自営業・地方公務員・建設業・地場産業などで働き,地域や家族間の相互扶助のなかでの生活。残余型は,長期雇用とは無縁で地域社会につながりもない,都市部の非正規労働者がその一例,残余にマイナスの意味はなく「カイシャ(職域)」「ムラ(地域)」に帰属しない人たちの生き方。

 この類型には納得で,新潟から首都圏の大学に進学し,実家の家業を継がず,就職浪人1年を経て,私立大学に就職し,図書館への配属となりました。家業の地域型から大企業型への転身といえます。卒業した理工学部とは全く異なる職種ですが,経営工学という経済と理工を合体した学科だったので,情報を扱う図書館との親和性は悪くありませんでした。

 企業の社員は,職種が固定されず定期異動が一般的で,遠い地域への異動もあり得ます。従って,職種は重要でなく,地域に愛着も持たないのが通例です。そして,同じ会社に入ってしまえば,社員は基本的には平等で,学歴などよりも「社内のがんばり」が評価されます。

 欧米では,新卒一括採用ではなく,欠員募集が基本で,欠員になった職務(ジョブ)の学位や経験をもつことが採用条件になります。そのため,大学名より,そこで学んだ学位が重要になります。日本と雇用慣行が異なるため,職務の専門化と学位の専門化が呼応して,大学名より学んだ学位が重要になります。これが疑問1)の解です。

 疑問2)の解のおおもとは「慣習の束」です。終章“「社会のしくみ」と「正義」のありか”では,500ページ以上に及ぶ1章から8章を要約しています。要約が「慣習の束」の正体なのでしょう。そして,読者も社会の一員なのだから,本を読んだ後で,自分で考え,周囲と話し合い,その過程を通じて結論をつくりましょうと,突き放されます。疑問は一部解消しましたが,新たな課題を背負うことになりました。読書は面白いです。

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