長谷川豊祐

「学びを愉しむインターネット」運営 http://toyohiro.org/

長谷川豊祐

「学びを愉しむインターネット」運営 http://toyohiro.org/

最近の記事

「本と大学と図書館と」-51- やりがいの「搾取」と社会の「軋み」 (Fmics Big Egg 2023年9月号掲載)

 家庭・教育・仕事には循環関係があります。教育への入口としての家庭,教育の出口としての仕事です。学校を卒業して,安定した職に就き,順調に収入も増え,家族をもって,子どもを育てます。高度経済成長期から1990年代初頭まで,3つの領域は上向きに循環していました。しかし,90年代半ば以降,好循環に亀裂が入りはじめています。貧困と過重労働という過酷さや,精神的な絶望感や空虚さなどです。社会の「軋み」と表現されています。本田由紀『軋む社会:教育・仕事・若者の現在』(双風社 2008)(

    • 「本と大学と図書館と」-50- 本の神話性 (Fmics Big Egg 2023年7月号掲載)

       先月号に書いた通り,SFと時代小説などの小説類44.65m(約2,500冊)を,5.2mを残して処分しました。旧職の知り合いの古書店に紹介してもらった,隣の市のサブカルチャー系古書店にお願いしました。自宅の保存場所から搬出してもらえる点が決め手でした。当初考えていたブックオフでは,玄関まで自力で運び出さなければならないらしく,体力的に大変そうなので諦めました。  査定総額は3万3千円,1冊13.2円でした。蔵書印を捺してあるものが大半で,古書市場での交換会では商品価値がない

      • 「本と大学と図書館と」-49- 個人蔵書と今後の読書傾向 (Fmics Big Egg 2023年6月号掲載)

         最近の読書傾向は,若者向けの軽い内容の娯楽小説のラノベが多くなりました。会話が多く,文章は短く,気軽に読めます。AmazonのKindleで買って,病院の待合室など,タブレットがあれば,いつでも,どこでも気軽に読めます。スマホの契約時にオマケでもらったiPadが便利です。コミック(マンガも読書)も愛読し,アニメ(ラノベやコミックのアニメ化が多い)も視聴します。  こんな読書の最中に,在職中の読書イベントの際に女子学生から薦められたバーネットの『秘密の花園』が出てきました。ち

        • 「本と大学と図書館と」-48- 公共施設の再整備 (Fmics Big Egg 2023年5月号掲載)

           老朽化した公共施設の再整備が,全国の自治体で盛んに行われています。単独での建て替えではなく,他の公共施設との機能集約と複合化,長寿命化と維持管理コストの縮減による枠組みで進行しています。地元の藤沢市でも,生活・文化拠点再整備事業に4市民図書館のひとつが含まれ,進行状況と計画内容を注視しています。図書館の社会的な価値が拡大することが期待できます。  複数回参加したアイデア出しのワークショップでは,市の事業に深い関心を示す,意識の高い住民の多いことに気づく機会になりました。市民

        「本と大学と図書館と」-51- やりがいの「搾取」と社会の「軋み」 (Fmics Big Egg 2023年9月号掲載)

          「本と大学と図書館と」-47- 知的機動力 (Fmics Big Egg 2023年3月号)

           アフターコロナを契機に,社会の変化にどう対応すべきか考える機会が増えました。打ち合わせや,買い物の多くは,リモートで代替えできるようになって,交通費や移動時間の節約になり,生活習慣も変わりました。円安,インフレの進行,人口減少など,個人生活に大きな影響を及ぼす多くの事象が控えています。  現代人が情報や知識を得る手段は,インターネット後に大きく拡大しました。テレビの報道情報番組,紙の新聞や既存メディアがネット上で発信するニュース,そして,個人によるSNSでの書き込みまであり

          「本と大学と図書館と」-47- 知的機動力 (Fmics Big Egg 2023年3月号)

          「本と大学と図書館と」-46- 大学の反省 (Fmics Big Egg 2023年2月号)

           猪木武徳『大学の反省(日本の<現代>11)』(NTT出版 2009)をやっと手に取りました。“覚えるだけでなく,知りたいと,人間は欲する。知りたいという欲望には,「私的な欲望」というレベルと,知ることの社会的な(公的な)効果という2つのレベルがある。・・・知的な自由と,思想の自由が確保され・・・意図と結果の齟齬を許す自由が人類の知識を生み出した”(Ⅱ 知識の公共性 p.98-103)は印象的です。これは,個々の大学の使命を超えた上位概念の哲学や精神といえます。大学の構成員を

          「本と大学と図書館と」-46- 大学の反省 (Fmics Big Egg 2023年2月号)

          本と大学と図書館と-45-インターネット市民革命 (Fmics Big Egg 2023年1月号)

           1996年は象徴的な年でした。米国のインターネット事情を紹介した,岡部一明『インターネット市民革命:情報化社会・アメリカ編』(御茶の水書房 1996)には,固定料金制の市内電話による「オンラインで話す」という生活パターン,街の公共図書館に設置されたインターネット公共端末からインターネットが無料で使える情報化社会の現状,草の根市民活動が活発な民主主義の国,この3つが詳しく紹介されていました。インターネットが普及すれば,日本も米国のように,図書館が情報アクセスの拠点となって多く

          本と大学と図書館と-45-インターネット市民革命 (Fmics Big Egg 2023年1月号)

          本と大学と図書館と-29- スモールワールドなBOOK PARTY (Fmics Big Egg 2021年3月号)

           スモールワールド・ネットワークという用語に出会ったのは,ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク:世界を知るための新科学的思考法』(2004年 阪急コミュニケーションズ)においてです。理論的には,世界の人々が,それぞれ100人の友人を持っていれば,六次のつながり(100*100*100*100*100=100億)のうちに,地球全体の人口と自分を簡単につながります(p.40)。“人間関係のネットワークで,知り合いを数人程度たどれば,世界の誰とでもつながりがあるという,

          本と大学と図書館と-29- スモールワールドなBOOK PARTY (Fmics Big Egg 2021年3月号)

          本と大学と図書館と-44-飛躍の好機 (Fmics Big Egg 2022年12月号)

           図書館における経営・管理・運営は,教育とメディアとの関係性を活かし,図書館単独よりも広範囲なサービスを展開できます。  大学図書館は,大学設置基準等の改正に伴い,新たな高等教育サービスへの対応が必要です。公共図書館は,首長部局との関りが強まり,業務範囲が拡張し,公民館・博物館・美術館などの文化・芸術・スポーツを含んだ社会教育から,生涯学習や地域づくりともつながります。学校図書館は,初等中等教育のGIGAスクール構想により,ICTを活用した教育環境が整えられ,授業における情報

          本と大学と図書館と-44-飛躍の好機 (Fmics Big Egg 2022年12月号)

          本と大学と図書館と-43-研究資料の入手 (Fmics Big Egg 2022年11月号)

           退職後も「大学図書館発展の時代」をテーマに研究を継続しています。対象期間は,設置者である大学が発展する戦後から,電子ジャーナル普及に至る2000年まで,対象内容は,学術情報政策,蔵書構築,総合目録,書誌ユーティリティ,機械化,情報検索です。大学図書館の職務や自分の仕事について,何だったのか,どんな成果が達成できたのかを,振り返りたい,明らかにしたい。単純に,何よりも知りたいという個人的な興味なのでしょう。既にライフワークです。  資料の入手に関して,必要な大学図書館関連資料

          本と大学と図書館と-43-研究資料の入手 (Fmics Big Egg 2022年11月号)

          本と大学と図書館と-42-所属と電子資料 (Fmics Big Egg 2022年9月号)

           企業や団体主催の講演会やイベントの参加申込に際しては,申込フォームの所属欄が必須になっています。退職して勤務先がないので,「その他」を選択するか,「なし」とします。何かの記入がいる場合は,「図書館笑顔プロジェクト」(私的な勉強会である任意団体名を入れています。社会的な活動を継続していても,NPOにするほどの経済的・公的活動を伴わないので,法人格のない私的団体である任意団体は便利です。名刺にもプロジェクト名を入れています。  所属がなくなって大いに困ることが,一つだけあります

          本と大学と図書館と-42-所属と電子資料 (Fmics Big Egg 2022年9月号)

          本と大学と図書館と-41-家庭の学びと研究 (Fmics Big Egg 2022年7月号)

          山本周五郎の人情もの現代小説『寝ぼけ署長』の五道署長は,クールな頭脳とホットな心の持ち主。市井に交わり,事件が表沙汰になる前に,更に,起こるであろう犯罪が,犯罪になることのないよう,人情味あふれる方法で穏便に解決してしまいます。転任が決まると,別れを悲しみ,留任を求める市民が押し寄せて幕を閉じます。心の晴れる展開と結末で,爽快な気分になります。ものごとが円滑にはこんでいる限り,この署長が人知れず果たしていた「優れた社会基盤の恩恵」を,我々は全く意識しません。電気もインターネッ

          本と大学と図書館と-41-家庭の学びと研究 (Fmics Big Egg 2022年7月号)

          本と大学と図書館と-40-大学改革の迷走 (Fmics Big Egg 2022年5月号)

           佐藤郁哉『大学改革の迷走』(ちくま新書 2019 478p)は,大学設置基準の改正(1991年)以降の大学改革の奇妙な点や,不可思議さを問い直した結果を,5つの「病根」にまとめています。  1)舶来崇拝の習癖・メンタリティ (1,2章)   :和風シラバス,PDCAの幻想  2)改革の自己目的化 (1~4章)   :面従腹背,過剰同調,形骸化  3)集団無責任体制 (5章)   :日本の宿痾  4)ドラマ仕立ての改革論議 (6章)   :実効性のある改革の妨げ  5)リサ

          本と大学と図書館と-40-大学改革の迷走 (Fmics Big Egg 2022年5月号)

          本と大学と図書館と-39-女性脳の仕組み (Fmics Big Egg 2022年4月号)

           もの事の仕組みには,大いに興味があります。社会がどうして理不尽に動くのか,社会の仕組みをいくらかでも知っていれば,想定外の事態に陥って慌てることがあっても,冷静に対応できる場合があります。先回の『日本社会のしくみ』よりも,身近な存在である「妻」の仕組みに関する本がありました。黒川伊保子『妻のトリセツ』(講談社+α新書2019)です。  退職前から会話が多い夫婦には,二人の会話がかみ合わないことが普通にあります。興味対象や考え方が違うせいもあり,話の構成や組み立てなど,コミ

          本と大学と図書館と-39-女性脳の仕組み (Fmics Big Egg 2022年4月号)

          本と大学と図書館と-38- 日本社会のしくみ (Fmics Big Egg 2022年3月号)

           『日本社会のしくみ:雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社現代新書 2019 601p)を,年明けから2ヶ月かけて,やっと読み終えました。長年の疑問,1)日本では学んだ内容・学部より大学名が重要なのは何故なのか,2)仕事のやり方を変えるのが大変なのは何故なのか,この2つの解明に一歩でも近づける予感がしました。  人生の類型として,大企業型,地元型,残余型の3つを提示しています。大企業型は,大学を出て大企業や官庁に雇われ,正社員,終身雇用の人生をすごす人たちとその家族。地元

          本と大学と図書館と-38- 日本社会のしくみ (Fmics Big Egg 2022年3月号)

          本と大学と図書館と-37- 読書(本を読むこと)の効用 (Fmics Big Egg 2022年1月号)

           ラノベ,コミック,アニメを読んで観る毎日です。学園ラブコメが愛読書なのは,暗い学生時代の反動であり,学びからの逃避なのでしょう。日本のコミックは,海外でも驚くほど多く翻訳・出版され,米国の公共図書館でも所蔵されています。わが国のサブカルは,国内外への重要な文化・戦略資源といえます。日本社会の内実を知らない海外の人たちは,学園ラブコメをファンタジーとして読むのだそうです。FMICSの例会で学生の方から教えてもらいました。なるほど,納得です。他者との対話によるコミュニケーション

          本と大学と図書館と-37- 読書(本を読むこと)の効用 (Fmics Big Egg 2022年1月号)