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本と大学と図書館と-40-大学改革の迷走 (Fmics Big Egg 2022年5月号)

 佐藤郁哉『大学改革の迷走』(ちくま新書 2019 478p)は,大学設置基準の改正(1991年)以降の大学改革の奇妙な点や,不可思議さを問い直した結果を,5つの「病根」にまとめています。

 1)舶来崇拝の習癖・メンタリティ (1,2章)
  :和風シラバス,PDCAの幻想
 2)改革の自己目的化 (1~4章)
  :面従腹背,過剰同調,形骸化
 3)集団無責任体制 (5章)
  :日本の宿痾
 4)ドラマ仕立ての改革論議 (6章)
  :実効性のある改革の妨げ
 5)リサーチ・リテラシーの欠如 (7章)
  :政策を正当化するデータだけつまみ食い

 さて,病の処方箋は,1)から4)までの狭隘な思考回路から抜け出し,エビデンスに基づく政策を立案・実行することです。しかし,現実には簡単ではありません。

 例えば,2013年度から実施されている「私立大学等改革総合支援事業」には,気が遠くなるほど多数の改革すべき項目があります。シラバスの作成,授業内容・方法の改善への組織的取組み,学生による授業評価,履修科目登録の上限設定,厳格な成績評価(GPA制度),FD(大学教員の資質・教授能力の向上)などです。

 その中に,学生の学修時間や教育の成果等に関する情報を収集・分析するIR(Institutional Research)を専門で担当する部署の設置があります。中小規模の大学には兼務でもハードルが高い項目です。また,入試,教務,学生,就職の各業務を統合したシステム導入の経験で,一括運用しようとしても,学内事務組織の縦割りから,学籍IDをキーにした従来の個別業務システムからのデータ統合も大変な作業になります。支援事業への回答期限が迫る中で,十分な準備期間がないままの見切り発車は,現場的にはお勧めできませんでした。

 本書では,病理診断のエビデンスとして,多数の文献と大学改革関連の答申を参照し,綿密に読み解いています。今後の大学のあり方を整理・検討するための必読書で,自身の大学や学生への関わり方を深く再考する機会にもなります。日常業務と並行して,将来へ向けた自分磨きのための一冊です。

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