本と大学と図書館と-39-女性脳の仕組み (Fmics Big Egg 2022年4月号)

 もの事の仕組みには,大いに興味があります。社会がどうして理不尽に動くのか,社会の仕組みをいくらかでも知っていれば,想定外の事態に陥って慌てることがあっても,冷静に対応できる場合があります。先回の『日本社会のしくみ』よりも,身近な存在である「妻」の仕組みに関する本がありました。黒川伊保子『妻のトリセツ』(講談社+α新書2019)です。

 退職前から会話が多い夫婦には,二人の会話がかみ合わないことが普通にあります。興味対象や考え方が違うせいもあり,話の構成や組み立てなど,コミュニケーション方式の差もあります。この差の生じる仕組みが本書で解明されます。

 例えば,病院で検査をしたとして,過去のこれまでの病気やその対応などで,妻の話が長くなります。夫は,長引く会話の継続が億劫になります。勝手に要約して「要するに・・・ということ?」としたり,論文を書いているわけでもないのに「結論から先に言ってくれる」などと先を急がせ,話をまとめて,お開きにしようとします。そして,妻の不興を買ってしまい,気まずい雰囲気になります。

 女性脳は目前の問題解決のため,過去の関連記憶を瞬時に引き出し,最適解を導く究極の臨機応変脳です。体験記憶に感情の見出しを付与して収納し,一つの出来事を引き金に,何十年分もの類似記憶を一気に展開できます。

 妻の話が長くなるのは,女性脳だからです。もし,夫が不用意に無神経な発言をしたら,「無神経」という見出しがついた過去の発言が,生々しい臨場感を伴って,すべて妻の脳裏に蘇ります。夫にとっては「たったこれだけのこと」でも,妻から,10年も20年も前の出来事まで含めて,一気に何十発もの怒りの弾丸が飛んできて,夫の命は徐々に削られます。身の安全が最優先です。

 井戸端会議的な様相の会話から事例を収集し,今後のために索引化して収納する作業が重要で,男性脳の求める結論や要約は重要ではないのです。愚痴に対しては「わかる。大変だね」と共感し,頼まれてもいない要約や解決策の提示は無用なものと割り切ります。穏便にも最優先?

 解剖学的に脳は同じでも,処理プロセスに性差や個性があると考えれば納得です。これまで知らなかったコミュニケーションの仕組みが隠されていました。次は『夫のトリセツ』を読みます。

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