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本と大学と図書館と-42-所属と電子資料 (Fmics Big Egg 2022年9月号)

 企業や団体主催の講演会やイベントの参加申込に際しては,申込フォームの所属欄が必須になっています。退職して勤務先がないので,「その他」を選択するか,「なし」とします。何かの記入がいる場合は,「図書館笑顔プロジェクト」(私的な勉強会である任意団体名を入れています。社会的な活動を継続していても,NPOにするほどの経済的・公的活動を伴わないので,法人格のない私的団体である任意団体は便利です。名刺にもプロジェクト名を入れています。
 所属がなくなって大いに困ることが,一つだけあります。所属組織の契約している電子資料が使えなくなることです。論文査読を引き受ける場合や,網羅的な先行研究調査では,Google Scholar やオープンアクセスジャーナルでは不十分です。退職して,大学院にも在籍してないと,自宅から自由に論文を入手できる環境はなくなります。数点だけならば出版社サイトから数千円で購入できます(便利な時代になりました)が,大量の文献の調査・入手は,個人の経済状態と情報環境では手に負えません。
 研究者を続けるなら(現在は気楽な在野研究者ですが),研究成果である新しい事実や発見を,学術雑誌に論文として最初に発表し,その発見の名誉を得る必要があります。今回は,論文執筆に役立つ良書の紹介です。水島昇『科学を育む査読の技法+リアルな例文765』(羊土社 2021 4620円)。執筆に直接の関係がないようですが,「査読者による5つの審査項目」は,論文が備える必須項目といえるでしょう。
1)正当性:正しい方法で実験され,データの解釈・加工が適切か
2)論理性:主要な結論が論理的にサポートされているか
3)新規性:主要な結論が新しいものであるか
4)重要性:インパクトや興味深さ
5)論文の体裁:論文の長さ,引用文献が適切か
 査読付きの学会誌に論文投稿する際には,投稿する側にとって,執筆の際の参考にできます。「査読の技法」となっていますが,査読を通るための「執筆の技法」とも言えます。例えば,執筆中に,執筆者と査読者としての立場での自己対話を繰り返すことで,論文の質や了解性が向上します。また,論理的展開の必要性,インパクトや興味深さなどの項目の解説,後半の大量な査読例文集は,学術論文だけでなく,一般的な文書や,仕事の報告書にも十分適用可能です。もっと早く出会いたかった本です。

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