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「愛と法」上映会@豊岡劇場

豊岡映画センター上映会 vol.02では、ドキュメンタリー映画「愛と法」を上映。豊岡劇場での上映後、監督の戸田ひかるさんにお話を伺った。

<あらすじ>
カズとフミは大阪の下町で法律事務所を営む弁護士夫夫(ふうふ)。仕事も生活も二人三脚のふたりのもとには、全国から"困っている人たち"が相談にやってくる。セクシュアル・マイノリティ、養護が必要な子どもたち、戸籍を持てずにいる人、「君が代不起立」で処分された先生、作品が罪に問われたアーティスト…。それぞれの生き方と社会のしくみとの間で葛藤を抱える人たちだ。ふたり自身も法律上は他人同士のまま。そんなある日、ふたりの家に居候がやってくる。突然居場所を失った少年・カズマくん。三人の新しい生活がはじまった…

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監督:戸田ひかる(とだ・ひかる)
10歳からオランダで育つ。ユトレヒト大学で社会心理学、ロンドン大学大学院で映像人類学・パフォーマンスアートを学ぶ。ロンドンを拠点にディレクターとエスノグラファーとして活動し世界各国で映像を制作。前作『愛と法』(17)で第30回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門 作品賞、第42回香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞。現在は大阪在住。

1)その時代の中にあった物語として

はじめに出演者である南弁護士からのビデオメッセージが上映されました。

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(以下、南弁護士)
本作を撮影していたのは2015年頃、今から6年程前だと思います。今振り返ってみると、自分が若くて顔も体もシュッとしていて、ビックリする一方で、例えば仕事のことで言うと、すごくバリバリ頑張ってる姿にハッとするんです。もちろん今も頑張っているんですが、例えば弁護士の経験年数で言うと、あの経験年数だったから、あの仕事のやり方ができたのかなと思ったり、今と全然違ってる自分に驚いたり、懐かしかったりします。

「愛と法」は映画としてもすごく好きで、”君が代不起立裁判”で辻谷先生が出てくると、「わあ、すごいな!辻谷さんみたい、学校の先生良いな!」って思うし、ろくでなしこさんの劇中での言動にハッとさせられることもある。

ドキュメンタリー映画なのに、しかも撮られていたのは僕自身なのに、今僕が映画を見たときに、自分とはちゃんと切り離した映画の作品として、楽しめるのが何か不思議で。それを作り出したのは、戸田さんの技術であったり、発想であったり、こだわりであったり、探究心であったり、熱意というかパッションなのかなと思います。

ドキュメンタリーって、時代が違うと違いすぎるということもあるのかもしれないけれど、この映画は2015年頃の日本をとらえた、その時代の中にあった物語として、ずっと沢山の人に楽しんでもらえたらなあと思います。

映画って90分くらいで、ただ観て楽しむというのも良いと思うんですが、映画を観たことが次の自分の行動の原動力になったり、支えになったり、影響を受けたり。そういうことができる豊岡での上映会の活動なども、中々簡単に出来ることではないと思うので、ずっと続いていって欲しいなあと思います。

実はこのメッセージ動画は、5、6回取り直していて、パートナーの吉田さんが「いい加減にしなさい!」って、呆れて言いにきたので、そろそろ終わりにします(笑)。それでは、皆さんトークイベントも楽しんでください〜!


2)見えにくい部分から見えてくる社会を描く

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(以下、戸田ひかるさん)
この映画は2018年にも豊劇さんで上映して頂いたんです。でも、その時は来場できなくて。。。だから、完成して4年経って、初めて豊劇さんに来ることが出来て嬉しいです。実は上映会自体が久しぶりなんです。コロナで全て中止になっていたので。フィジカルな上映会で皆さんとお会いできることって嬉しいなと改めて感じます。

私はロンドン大学で映像人類学を勉強していました。自分自身が海外で育ったアジア人女性というマイノリティの意識を持っていて、映像人類学という学問を通して、自分の環境を理解する為に、人々の営みや文化を研究したいと考えていて、その延長でドキュメンタリーを撮りたいと思うようになりました。

元々、私自身が欧州に住んでいたこともあり、「日本は同調圧力が強くって、みんな同じで当たり前」という環境を来日する度にひしひしと感じていました。

そんな折に、二人と出会ったんです。南さんと吉田さんは、ゲイカップルとして自分たちの関係が法的に認められていない中、弁護士として法律を作って困ってる人を助けようとしていらっしゃいました。そして、カップルとしてすごい仲が良く、すごく魅力的でした。撮影を始めてすぐの頃、南さんが「日本では枠から少しでも外れるといない存在にされる」と仰いました。弁護士として活動する二人と彼らの周りの人の生き様を通して見えにくい日本が見えてくるんじゃないかなと思って、ぜひドキュメンタリーを撮ってみたいと思いました。それが制作のきっかけです。


3)劇場や自主上映にこだわる訳

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作品が公開してから、改めて”自分の映画が被写体の人生に影響を与えるかもしれない”という意識を強く持つようになりました。作り手として、被写体の肖像をさらけ出すことへの加害性、自分がリスクを負わせる立場にいるのだということをより考えるようになったんです。

この映画は不特定多数が観られる形のオンライン配信やソフト化はしていないんです。カメラで自分たちの生活をさらけだす被写体の人たちにとっては、映画が多くの人に受け入れられることは嬉しい反面、不安な気持ちもあります。例えば、オンライン配信の場合、作品を部分的に鑑賞して、ネット上で誹謗中傷になるようなことを書いてしまう人が出てきてしまう。それは被写体の方が傷ついてしまうことですし、大きな不安要素です。作り手としては多くの人に観てもらいたいという思いはありますが、実際に存在している人たちを描くドキュメンタリーは第一に撮らせて頂いた人たちと向き合うことが大切だと思います。『愛と法』はなるべく守られた環境で上映し、届くべき人に届けたいと思っています。

2018年の東京国際映画祭での上映後、各国の映画祭で上映され、様々な感想に触れる機会がありました。そこでは「日本って、こんな国だったの?」という反応が多くて、LGBTQの面もなぜか日本は進んでいると思っていた人が意外に多かった。でも、映画を観て、日本で同性婚は法的な権利として認められていないということに驚かれる方が海外には多かったです。

”君が代不起立裁判”で言えば、アメリカでも同じような問題が起きています。アフリカ系アメリカ人のスポーツ選手が自分たちへの人種差別や警官による残虐行為に対する抗議の方法として、根底にある白人至上主義を国が容認しているとの主張から国歌斉唱時に起立せず膝をつくことがあります。そういった背景とリンクさせて、「日本でも愛国心とかナショナリズムが進んでいて、そういうことに対して異議唱えている人が日本にもいるんだね」という感想も耳にしました。

4)会場からの声

今回も会場にいる観客から様々な感想や質問が飛び交った。

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Q:この映画には、色々な事情や感情を抱えた方々が映ってますよね。撮影中は被写体の側にいて、どのようにそれらを感じ、処理していたのでしょう?映画を観ているだけでも、心にくる場面が沢山あったので気になりました。特に、実際に相談に来ていた方が亡くなられたことを告げ涙する場面が印象的でした。

戸田:それはすごく難しい質問ですね。一つ一つの場面で違うんです。「ここにいて私は良いのか?」と思う場面もありますし、「カメラの後ろで撮っていて良いのか?」と思うこともある。例えば、アウティングの事件で相談されていた方が亡くなったという話をする場面は、何度観ても、今でも喋るのも涙ぐんでしまうくらいなんです。

現場では、その場で起きていることに追いつくことで精一杯。何が実際に起きていて、自分がどう影響されているのかは、その場に居合わせたカメラの存在がどう影響を与えるのかは、後からわかってくることが多いです。

感情的に追いつくのは、素材を見てから。消化できているかは・・・・どうだろう・・・難しいですね。消化しようとするよりは、自分が観させてもらったものをどう受け止めるか。なるべく自分がそこにいたときの気持ちと近いように、どう繋げるかっていうことは、編集してる時には気を付けていますね。編集して初めて気がつくことの方が多いです。

Q:映画を撮る前と後で、戸田さんの中で変化があれば教えてください。

戸田:変化は沢山ありました。この映画では様々な家族の形を描いています。でも、国が定めた家族という枠組みから外れてしまうと、日本では個としても存在できなくなってしまいかねない。個人として生きることの大変さを、制作中に目の当たりにしました。

それまでの私は、日本のような集団的な統一性を求めるというよりは、個人主義の、自由主義の欧州で個人の権利が当たり前にあって、個人の権利を主張して当たり前というような、表現の自由が日本よりある程度保証された文化で育ってきました。でも、制作を通して、個人の扱い方が日本ではすごく違うなと感じた時に、自分が日本という社会で個人としてどう生きていくべきかすごく考えさせられました。それは作り手としてではなく、一人の人間としてです。

何より欧州から日本に引っ越してきて、この映画を作ったことがすごく大きかった。人生の半分以上アジア系女性として欧州に住んでいたので、私自身が常にマイノリティーとしてカテゴライズされてきて、『愛と法』は「アウトサイダー」として、最初は同じマイノリティーとして共感しながら撮っていたものが、日本に引っ越して6年経ち、日本に住む日本人、健常者、シスジェンダーとして初めて自分のマジョリティー側としての加害性を意識するようになった。これは自分の中ですごく大きな変化でした。自分が他者に向ける視線や、自分の中の潜在的差別意識、撮らせて頂いた方の生活に映画がどういった影響を与えるのかということに、もっともっと自覚的にならなければと思うようになりました。

(レポート作成:歌川達人 / 写真:堀内遥友・友金彩佳)

豊岡映画センター定期上映会 vol.02・とよおか月イチ映画祭
ドキュメンタリー映画「愛と法」上映会
■上映日|2021年7月21日(水)
■開場時間18:00/上映開始時間18:30~
■上映後:戸田ひかる監督によるQ&A開催
■会場|豊岡劇場
■料金:大人1500円 / 大学生以下無料
■主催:豊岡劇場(豊岡映画センター)

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