財布をきれいにしてる大人になりたかった
江國香織さんの『東京タワー』は、人妻と若い男という組み合わせの、2組のカップルの話だ。
一番最初にこの本を読んだのは、中学生のとき。私は、東京都内とは思えないひなびた場所に住んでいて、今よりも更にださかった。
人妻と若者が、湯に桃を浮かべて入浴するシーンがあった、はずだ(確信をもって勘違いをしていることが時々あるので、気を付けなくてはならない)。残り湯を洗濯に使うから色のつく入浴剤は使うな、と言われて育ってきた私は、くらくらした。大人になるということは、湯船に好きなものを放り込むことができる、ということだったのか!ソックタッチやプリクラ帳やまつ毛ビューラーでできた世界の住人には、あまりにも眩しかった。
年を重ねれば私も、と信じていたけれど、そろそろそうでもないことが証明されつつある。私はまだ、なに食わぬ顔をしてバーに行くことができない。もう私よりも10歳近く年下になってしまったキャラクター、透は、あんなにさりげなくこなしていたことだったのに。
私の財布の中は、今でもいつも汚い。
いまだに揚げ物ができない。
年上の人を連れていくのに適切なお店を選ぶのに、どうしようもなく時間がかかってしまう。
いつも、心細い。
だけどよく思い出してみたら、『東京タワー』に描かれていたのは、私と同じく「大人になれない人たち」、じゃなかったかな。
バーでスマートに注文ができても、サマーセーターを着こなせていても、いつまでも不足した気持ちをもて余していて、子供じゃないのに愛情を惜しみ無く溢れるほど注いでほしくて、それで泣いてしまう人たち、じゃなかったかなあ。
肝心なことを、いつも忘れてしまう。
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