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すべてはベイ・シティ・ローラーズから

少しあいだがあいてしまいました。今日は英語を好きになったきっかけから訳書を初出版するまでについて、自分の人生をふり返ってみます。

小学校の5年生ごろと記憶していますが、姉の影響もあって、そのころ世界じゅうで人気を呼んでいたベイ・シティ・ローラーズに夢中になったのが英語との出会いでした。まだアルファベットすらまともに読めず、歌詞はまったく理解できなかったものの、軽快なリズムと甘いメロディとレスリーのハスキー・ボイス、女の子のようなルックスのパットやイアン、すべてに魅了されました。自宅の数軒先にあったレコード屋さんに通い詰めては、「ローラーズの曲かけて!」と店員さんにせがんでいたものです。なにしろ2500円のLPレコードなんて、小学生に簡単に手の届く商品ではありません。聴こえてくる音を適当に口ずさみつつ、いったいどんなことを歌っているのか知りたい思いと、早く英語を勉強したいという願いを募らせていきました。(これを書いている今もローラーズのCDを聴いています。今聴いてもやはり名曲ばかりと断言してしまいます。)

やがて中学に入ると待望の英語の授業が始まり、陽気な先生のおかげもあってか、英語が大好きになりました。よく「アメ~リカの子どもたちはね…」などと、海の彼方での体験談を交えながら授業を進めてくれたI先生には今でも感謝しています。やがて横浜の短大に入学し、ESSサークルで英語によるディベートやディスカッションに取り組む傍ら、住み込みのベビーシッターとして英米からの駐在員家庭で暮らすなど、英語にどっぷり浸かった時間を過ごしました。あのような2年間を経験できたことはほんとうに幸運だったと、今も思います。ちなみに英国人家庭では例の独特な皿洗い作法を目の当たりにし、あまりの衝撃に毎晩皿洗いを買ってでました。

その後、東京の都市銀行で3年間働いているうちにどうしたことかインテリア分野の仕事に興味がわき、夜間のインテリアスクールに1年通ったのちに住宅リフォーム会社に転職して5年ほど働いたあげく、自分に適性がないことを思い知り、ちょうど同時期にやせこけるほどの失恋なども経験して人生をリセットしたくなり、ワーキング・ホリデーでカナダのバンクーバーに渡り、1年暮らすことに。何の計画もなく、思いつくままに後先考えずに行動していた20代。ほんとうにバカだったと、今も思います。とはいえカナダでは語学学校で働く機会があり、世界各地から英語を学びにやってくる熱心な生徒たちや明るい先生たちとの交流は、英語への情熱を再燃させてくれました。

帰国後は派遣社員として英文事務に数年携わったのち、ありがたくも結婚相手にめぐり合い、故郷の静岡県でIT企業での翻訳業務に就き、初めて翻訳のおもしろさに目覚めます。フェロー・アカデミーで開催されていた文芸とインテリア分野の英日翻訳の通信講座をそれぞれ受講した後、講師から直接学びたくなり、神奈川県在住の翻訳家のご自宅で月に一度開催されていた英日翻訳講座に半年間通いました。講座の終了後には、他のお弟子さんたちとの自主勉強会に参加。やはり月に一回ほど講師のご自宅に通って各自の訳文を検討し合うなかで、様々な訳文と解釈、考え方に触れることができ、充実した、かつ楽しい時間を過ごすとともに、勉強会仲間の翻訳力と読書量、そして豊富な知識に大いに刺激を受けました。当時東京の神楽坂にあった日本出版会館の「洋書の森」(*)の図書館に通い始めたのもこのころで、日本の読者に受け入れられると思った原書を借りて読み、レジュメを作成し、出版社への持ち込みを始めるようになりました。「洋書の森」のボランティア・スタッフのみなさんが手弁当で企画し開催してくださる翻訳イベントにも、よく参加したものです。


その後、講師の見つけられた原書『Thinking Place』を、講師と勉強会仲間の3名で共訳する機会に恵まれました。この本はディケンズやエジソンなど世界の著名人が思索にふけった秘密の場所を紹介していくという内容で、人物ごとに章分けされており、3名で担当する章を分けたのですが、章ごとに文体がバラバラでは読み手に違和感を与えてしまう、ということで、自分の訳文をできる限り講師の訳文に似せるように努めました。やがて2011年1月に『偉大なアイディアの生まれた場所――シンキング・プレイス』というタイトルで邦訳が出版されました。初めて自分の名前が本に記載されているのを見たときの震えるような感激は、今も鮮やかに心に残っています。

*「洋書の森」の詳細はこちら。出版翻訳を目指す方ならぜひ訪問されることをお勧めします。毎月開かれる「おしゃべりサロン」は現役翻訳者や翻訳者志望の方々が集まって、翻訳に関する情報交換やお悩み相談など、肩ひじはらずに交流できる場です。コロナ禍のため現在はオンラインで開催中です。(このサロンでどれだけ温かい言葉に救われたことか……!)
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https://shuppan-club.jp/archives/event/448







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