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大道絵師と売文家

「(前略)その気になれば、金があろうがなかろうが、同じ生き方ができる。本を読んで頭を使ってさえいれば、同じことさ。ただ、『こういう生活をしているおれは自由なんだ』と自分に言い聞かせる必要はあるがね」―彼はここで額を叩いた―「それでもう大丈夫だよ」

パリ・ロンドン放浪記(ジョージ・オーウェル/岩波文庫)

「パリ・ロンドン放浪記」を読んでいると、ロンドンの物乞いにボゾという大道絵師が出てくる。
大道絵師というのは道端に絵具で絵を描き、道行く人からチップをもらう仕事だ。ボゾはペンキ屋だったのだが事故で足を負傷してしまい、紆余曲折の末に大道絵師の仕事にたどり着いた。
大道絵師というのは興味深い仕事だ。どれだけ見事な絵を描いても物乞いに過ぎず、寒さに凍えながら暮らす日々を送る。大した金にはならず、雨の日や寒い時期は商売にならない。
その日暮らしで、持ち物は数冊の本と絵の具だけ。それでも彼は誇りを失わず、路上に見事な画を描いてみせた。タイとカラーだけはつけて、夜には星座を語る。物乞いでも決して自分の哲学を失わなかったのだ。

Twitterのプロフィールに「売文家」と書いている。「ライター」や「作家」の方が見栄えはいいのだが、私はこの言葉が好きなのであえてこのままにしている。
会社を辞めてからまだ収入は安定しておらず、目減りしていく資産を横目に本屋で本を買う。食費を浮かせるために、空腹になればマーガリンを塗った食パンを食べる。「パリ・ロンドン放浪記」に出てくる、ロンドンの簡易宿泊施設も同じメニューだった。いつの時代も安いのだろう。
道端に絵を描く代わりに、ネットに文章を書き本を作る。正直に言えば売れたいが、売れるかはわからない。自分がみじめに思えたら、「こういう生活をしているおれは自由なんだ」と言い聞かせる。

今日、パソコンのキーボードを買った。今使っているキーボードは一部のキーが反応せず、使いにくいのだ。いつもの貧乏性を起こし、いいものを買うか安く済ませるか迷ったが、上等なものを選んだ。
ボゾは決して、絵の具代をケチらなかった。


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