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煮含め型の肉じゃが

人気メニューの肉じゃが。肉じゃがとして公表されているレシピを大きく分けると

1 煮含め型
2 すき焼き型
3 蒸し煮型

の三種類が存在します。『煮含め型』はお肉とじゃがいも、タマネギを炒め、出汁を注ぎ、醤油を中心とした味付けでことこと煮た物。作り置きをしても味の劣化が少なく、優しい味に仕上がるのが特徴。
次の『すき焼き型』は同様に炒めた具材に割り下に近い配合の調味料を注ぎ、短時間で煮上げる方式です。ご飯によく合う濃い味に仕上がります。肉じゃがの歴史を紐解いていくとこの形が最も元祖に近い料理と思われ、料理研究家の小林カツ代さんが発表しているレシピが代表的でしょうか。
最後の『蒸し煮型』は料理研究家の土井善晴さんが発表している料理法で、蓋ができる厚手の鍋に具材を入れ、酒と水で蒸し煮にしていくもの。こちらも『すき焼き型』同様、短時間で仕上がりますが、より素材の味が生きた味である点に特徴があり、一番、現代的なレシピと言えます。

どの調理法にも一長一短がありますが、今回はベーシックな煮含め型の肉じゃがのレシピを考えていきます。
肉じゃがのコツは『あらかじめじゃがいもに火を通しておくことです』

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肉じゃが
 豚ロース肉薄切り  150g
 タマネギ      1個〜2個(くし切り)
 じゃがいも       600g
 出汁         750cc(1.5番出汁を使用)
 醤油       大さじ2+2分の1
 みりん      大さじ2
 砂糖       大さじ2

いつもは分量にうるさいですが、今回はざっくりしています。そもそも煮る料理は鍋の口径や火加減などで分量が変わってくるため、正確な計量が困難なためです。(一応、レシピとして伝えるためにすべて量ってますが)

上手につくるためには感覚で分量を掴むこと。

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普通、肉じゃがといえば牛肉と思いますが、今日はたまたま冷蔵庫にあったので(関西の人は嫌かもしれませんが)豚肉を使ってます。煮含め型の場合は牛肉、豚肉両方同じように使うことができ、すき焼き型と蒸し煮型は加熱時間が短いため、牛肉(それもある程度サシが入ったもの)が向いていると思います。
また、写真はロース肉ですが、本当は肉じゃがは煮る時間が長いため、コラーゲンの多い肩ロースやバラ肉のスライスの方が向いています。ただ、ロース肉だとさっぱりと仕上がり、調味料も少なくて済むというメリットも。

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さて、じゃがいもは皮を剥いてこれくらいの分量でだいたい600g。両手で山盛り二杯分といったところ。一度、量ってみると感覚的に掴めるかもしれません。

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通常はそのまま煮込みはじめるか、と思いますが、ふんわりとラップをかけて600wの電子レンジで5分間+3分間(レンジから出して放置)程度、下加熱をしておくのが肉じゃがのコツです。輪切りにする手もありますが、肉じゃがのおいもは大きいほうがほくほく感があっておいしいもの。しかし、じゃがいもの澱粉に完全に火を通すためには90℃以上のでの加熱が必要なのですが、その温度帯で加熱すると肉がパサパサになってしまいます。それを防ぐためにあらかじめじゃがいもに火を通しておくのです。電子レンジではなく蒸し器を使っても同様にできます。

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冷たい鍋に先に脂身の部分を入れ、中火にかけます。脂が出てきたらタマネギを加えてさらに炒めます。また、今回は21cmの行平鍋を使っています。

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しばらく炒めていると鍋底に香ばしく焼けた肉片がくっついてきます。日本料理では通常行わない工程ですが、鍋底で味をつくっているのです。

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とは言っても焦げるのはまずいので出汁を注いで鍋の温度を下げます。

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鍋底をこそいできれいにします。フランス料理で言うところのデグラッセよいう調理法です。こうすることで豚肉の味がお出汁に混ざってコクが出ます。

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そのあいだにレンジにかけたじゃがいもがあがってきました。

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じゃがいもを投入します。

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砂糖を入れます。写真はグラニュー糖なので大さじ2=26g入ります。グラニュー糖のほうがあっさりとした甘さですが、上白糖でも同じようにできます。(グラニュー糖とくらべて上白糖と同じように入れると大さじ2=18gで分量的にはずいぶん違いますが、上白糖のほうが甘さが強いためそれほど気にすることはありません)

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かぼちゃの煮付けのように野菜だけを煮る場合は砂糖だけで煮たりもしますが、和食の煮物の基本は醤油とみりんです。醤油とみりんは同割りで使うのが基本。醤油が大さじ1入れば、みりんが大さじ1入るという具合でみりん醤油という形で人によってはあらかじめ混ぜておき〈みりん醤油〉として常備している店もあります。

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今日はご飯のおかずにしたいので醤油を少し多めに入れました。味見をしながら調整しますが、薄味が好みの方は醤油、みりん大さじ2でもいいですし、逆に濃い目の味が好きという方は各大さじ3という冒険もあり、かもしれません。

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煮立ってきたらアクをとり、弱火に落とします。できるだけ弱火に落とすと水の温度は95℃前後(鍋の口径が大きければ90℃前後も)で安定するはずです。なぜでしょうか? それは水が蒸発する際に周りの熱を奪っていく性質があるからです(気化熱)従って絶対に蓋をしてはいけません。煮込み料理で蓋のある、なしは仕上がりに大きな差が出る要因の一つです。

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温度が安定したところで残りの肉を入れます。ぐつぐつさせると肉がパサパサになるので、弱火で静かに煮ます。

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時々、鍋を回しながら5分ほど煮たら、火を止めて、冷まします。冷ましているあいだも予熱で加熱が進み、じゃがいもが出汁を吸い込みます。加熱を続けても同様に味を染み込ませることができるのですが、煮汁が煮詰まってしまうので、こんな風に冷ましながら加熱するのがコツ。冷ます際は紙やアルミホイルなどで落とし蓋をするといいでしょう。(冷却中に水分が蒸発すると上部が冷やされ、逆に下部の温度は下がりにくいのですが、落とし蓋をすることでそれを一定に近づけることができるので)

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冷めた状態。煮汁が減り、味が染みこんだことが一目でわかります。電子レンジであらかじめ火を通しておくこの調理法なら煮る時間は沸騰してから5分と短いため、ジャガイモが煮崩れるリスクも少ないはず。

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食べる前に温め直します。レンジにかけてもいいでしょう。今日はえんどう豆を入れてみました。青ネギでもいいかと思います。

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出来上がり。男爵いもを使っていますが、水分を含んでいるためしっとり系の肉じゃがです。ちなみにほくほく系の肉じゃがの方が好き、という方はじゃがいもを短時間で加熱し、できたてを食べる『すき焼き型』か『蒸し煮型』がおすすめです。

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