カポナータについての考察(ラタトゥイユとの違いとは)

カポナータとラタトゥイユは似て非なるもの、と以前、書きましたが、今回の料理はカポナータ。日本のイタリア料理店に行くと大抵、トマトソースで煮込んだ(あるいは和えた)揚げ野菜(あるいは炒めた野菜)がでてきます。使われている材料はトマト、ナス、ズ ッキーニ、セロリといったところ。

ネットにも様々な情報が飛び交っています。そもそもイタリアとフランスという違いはありますが、例えばずばり解説というサイトにはカポナータは酢、砂糖を使い、ナスを揚げるという違いがあると説明されています。この情報は本当なのでしょうか?

カポナータについて基本的な情報をまとめておきましょう。カポナータはシチリアの 料理。発祥や語源については不明瞭な部分が多く(イタリア料理の性質ですね)ちょっと調べただけではなかなかわかりません。

料理について困ったら歴史に当たれ、というわけで参考にしたのはWright, Clifford A.さんのサイト。ood history のなかにある『カポナータの歴史』には、現存する最古のレシピが掲載されていました。 1790年にフランチェスコ・レオナルディさんが書き残した『The modern Apicius』(現代のアピキウス)からの引用です。

マラガワインで戻した新鮮な豆を皿に盛る。付け合わせのアレンジとしてはア ンチョビのフィレ、マグロの生ハム、塩抜きをしたケッパー、レモンの皮、オリーブ、揚げた海老やいか、茹でた牡蠣など。linguattola(平目の仲間)を揚げたものと付け合わせを皿に盛る。すり鉢でオリーブオイルに 漬け込んだピスタチオ、タラゴン、酢、塩、胡椒をすりつぶしソースとしてかける

なんと、まったく野菜が入っていません。実はカポナータは元々、魚料理。出自がラタトゥイユとは全く違い、1700年代まではメイン料理として食されていたそう。このレシピは甘いマラガワインと酢の酸味があわさった甘酸っぱい味が特徴。 ギリシャ・ローマ時代の名残りだと思いますが、シチリア特有のアグロド ルチェ(甘酸っぱい)の味付けです。

ところが、庶民には魚は高級品。そこで代用品としてナスを使ったカポナータが発明されます。これが現在、我々が親しんでいるカポナータです。その後、大航海時代の産物であるトマトが入るようになり、おなじみの形になります。シチリア人はアメリカに多く移り住みましたから、そうした移民たちがこの料理を世界に広めたのでしょう。

以上のことから考えるにカポナータの肝は「甘酸っぱい味付け」です。現在のレシピにもレーズン入りのものがあるのはマラガワインを使って味付けしていた名残りかもしれません。前述のサイトでラタトゥイユとの違いとして挙げられていた「酢、砂糖を使う」という点は間違っていませんが、ナスを揚げる(ラタトゥイユは炒める) というのは疑問符がつきます。むしろナスはカポナータを構成する要素ではなく、そ のためわざわざ「ナスのカポナータ caponata di Melanzane(eggplant caponata)」と表記するくらいなのです。

シチリアを代表するシェフ、Carmelo Chiaramonte氏も「甘酢のソースで味付けをする」という点を強調しています。

とまあ、色々と書きましたが、イタリア料理研究は一筋縄ではいかない、ということがわかりますね。カポナータ一つとってもパレルモ風(たこが入るらしいです)シチリア風(海老が入る?)ナポリ風(乾いたパンのうえにフレッシュな野菜のマリネ を載せる)とてんでばらばら。モディカ風にいたってはモディカチョコレートが入るというので、ちょっと食べてみたいという興味をそそられます。

例えば日本を代表するイタリア料理界の大御所、落合務さんが料理通信2010年7月号で発表しているレシピには酢も砂糖も入っていません。個人的には歴史的経緯を考えると酸っぱくて甘い味付けにはして欲しいところですが、言ってみれば日本風カポナータなのかもしれません。

さて、今回は『ナスのカポナータ』をつくってみましょう。様々な野菜の一体感を味わうラタトゥイユと違い、あくまでナスが主役です。

ナスのカポナータ
なす 3本(280g~300g)
セロリ 1本
にんにく 1片
たまねぎ 小さめ1個
レーズン 30g
ケイパー 15g
ホールトマト 1缶
赤ワインビネガー 80g
砂糖 15g

まずはホールトマトの種をとりましょう。缶詰を開けてなかのトマトを取り出し、なかに入っているトマトジュースで洗って、種をとりのぞきます。身の方は包丁で細かく刻んでおきましょう。

すべての身を洗い終えたら、そのトマトジュースをざるなどで濾すだけで種は取り除けます。種は味がなく硬いので取り除きたいですが、種のまわりには旨味やペクチンが多く含まれているためこのような方法をとります。

ソースを作ります。にんにくと玉ねぎは薄切りに。レーズンは水で洗っておきます。 ちなみにレーズンは洗うとびっくりするほど埃がとれます。

鍋にオリーブオイル大さじ1とにんにくを入れて火にかけ、香りが立ってきたら 玉ねぎをいれて、しばらく弱火で炒めます。

玉ねぎがしんなりしてきたらさきほどのホールトマトを加えます。 煮立ててから弱火に落とし、五分間煮ます。

ナスの下処理です。ナスは大きめに切って、水500ccに対して塩5gを溶かした塩水に浸しておきます。

セロリは1.5cmの幅のななめ切りにし、塩を少し入れた湯で下茹でします。セロリは茹でると味や香りなどの成分が流出するので普通は茹でませんが、イタ リアのシチリア島ではこのようなやり方をするそうです。理由としてはセロリの主張を弱め、ナスの存在感を高めたいから、ではないでしょうか。

さて、煮ていたトマトソースにケッパーとレーズンを加えます。

あとからビネガーが入るので、かなり強めに煮詰めておくのがポイントです。

この段階で塩、こしょうで味をつけます。しっかり味見をして、ちょうどよくなるま で塩を加えます。

フライパンにオリーブオイル大さじ2を敷いて、ナスをこんがりと焼きます。ナスは油で揚げたほうが本来の魚のフリットの代用とかんがえるといいのかもしれません。いずれにせよ、魚の代わりなのですからナスは大きめに、こんがりと焼き色をつけてメインにふさわしい存在感を出します。いい感じに焼けたら、さきほど下茹でしておいたセロリとあわせます。

ソースのなかで和えます。ソースの鍋は弱火にかかっています。熱い材料を熱いソースで和えるのはパスタのときと同じです。

ビネガーの登場です。カポナータをカポナータたらしめているビネガー。昔のレシピでは蜂蜜を使いますが、今回は砂糖で味のバランスを取ります。

砂糖を酢をフライパンで加熱します。30秒間沸騰させて、酸味の角をとります。砂糖をあらかじめカラメルにして入れる料理人 もいます。そのあたりはおこのみで。

ビネガーを混ぜあわせます。酢を入れてからは加熱はしません。

蓋をしめて粗熱がとれるまで置き、できたら冷蔵庫で一晩冷やします。そうすることで味が落ち着きます。

食べるときに手でちぎったバジルを載せて混ぜあわせます。大きめに切ったナスは魚 の代わりにふさわしいメインの存在感。ナスではなくカルチョーフィ(アーティチョ ーク)を使ってもいいわけですし、ブロッコリーという手もあります。

様々な野菜の一体感を楽しむラタトゥイユとは対照的に、メインの食材の味を引き立てるカポナータはやはりイタリア料理的な表現だと思います。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)

樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)など。新刊『新しい料理の教科書』が1/17日に発売されました!

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コメント5件

ナスを塩水につけると、果肉の細胞から水分が引き出され、スポンジ状の部分が埋まるので、後から加熱した時に必要以上に油を吸収するのを防いでくれます。また、水分を介して早く火が入るというメリットもあります。
ラタトゥイユの時は、塩を振っておく方法だったので、疑問に思ってしまいました。お返事ありがとうございます。
そうです、ラタトゥイユの時と理屈は同じです。使ったのが今の時期の茄子で水分量が少ないので、塩水にしています。切ったときに「乾いているな」と思ったら塩水で、瑞々しい感じだったら塩を振っておく方法がいいのではないでしょうか。
なるほど!ありがとうございます!
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