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フライドポテトの作り方(基本編)

以前、紹介した『究極のフライドポテト』は工程があまりにも多く、家庭でつくるには現実的ではありませんでした。今日はやや簡略化したフライドポテトの作り方の紹介です。

フライドポテトはフレンチフライとも呼びますが、元々はベルギー料理。フライドポテトのポイント、二度揚げを発明したのはベルギー人という説もあります。

さて、この二度揚げにはどのような効果があるのでしょうか。それはフライドポテトの大きさに切ったじゃがいもを190度の油で揚げてみればわかります。こんがりとしたところで取り出すと、なかは生っぽいはずです。ジャガイモは熱慣性が大きく、火が入りづらいのです。それを防ぐためには低い温度でじっくりと火を通してから、次に高温の油で火を通す二度揚げが効果的なのです。同じ理由で中心までしっかり火を通したい唐揚げなどにも、二度揚げは用いられます。

ジャガイモはメークインのような粘質のじゃがいもよりも、男爵のようなほくほく系が剥いています。デンプン質が多く、糖の含有量も少ないからです。品種の違いはフライドポテトの仕上がりに大きな影響を及ぼします。フライドポテト向きとされる代表的な品種を挙げておきますね。

ホッカイコガネ、ムサマル、トヨシロ、十勝こがね、ベニアカリ

また冷蔵庫などで貯蔵すると糖が増えてしまうため、そうしたジャガイモ(例えば越冬じゃがいものような)も避けましょう。

ジャガイモは頭とお尻を切り落とし、皮むき器で皮を剥きます。

その後、棒状にカット。皮付きのままくし切りにしてもOK。その場合は皮の風味が味わえます。

表面を洗います。この工程にはどのような意味があるのでしょうか? 例えば管理栄養士で料理研究家の先生が書いた『プロ顔負けの「フライドポテト」作りには、押さえておくべき3つのポイントがあった!基本レシピとアレンジ』という記事には

(1)カットしたポテトは、水に「1時間」さらす!
水にさらすと、ジャガイモに含まれるでんぷんが水に溶け出る。
でんぷん質が残った状態のじゃがいもを加熱すると粘りがでてベタっとした仕上がりになるため、水にさらすことで表面がカリっと揚がり、香ばしく仕上がりやすくなる。

とあり、水にさらすことでジャガイモに含まれるデンプンが水に溶け、カリッと仕上がる、と説明されています。これは一般的な解説だと思いますが、水にさらしたジャガイモとさっと洗ったジャガイモをそれぞれ揚げて比較すると、差はそれほどありません。

なぜでしょうか? ジャガイモのデンプンは細胞膜のなかにあります。包丁でカットしたことで細胞膜が破壊された部分からはデンプンが流出しますが、中心部はそのまま。(だから火を通すとほくほくするわけです)

では、1時間も水にさらす合理的な理由はなんでしょうか? それはジャガイモを前もって準備しておけるということです。水に浸ければ包丁でカットしたときに生じた遊離澱粉を除去し、ジャガイモの変色を防ぐことができます。1時間も水に晒す必要はなく、長くとも10分程度で問題ないでしょう。

さて、記事の続きを読んでいきます。

(2)揚げる前に「薄力粉3:片栗粉2」の割合の粉でポテトをコーティングする!
ポテトをコーティングしてホクホク感をキープさせる役割を持つ薄力粉。粒子が細かく、揚げるとカラッと仕上げてくれる片栗粉。
この2種類を「薄力粉3:片栗粉2」の割合で混ぜてコーティングすることで、ジャガイモのホクホク感を残したまま、カリッとムラのない衣に仕上げることができる。

この記事ではその後の工程で薄力粉と片栗粉をコーティングしています。薄力粉と片栗粉の主成分はもちろんデンプンです。(薄力粉には多少のタンパク質などが含まれていますが、片栗粉は100%デンプン)デンプンを取りのぞくことでカリッと仕上がる、と主張しておきながら、後の工程ではデンプンを加えることでカリッと仕上がる、というのは若干、矛盾しています。(誤解なきように書いておきますが、この先生のレシピに文句をつけたいわけではありません。あくまで一例として挙げさせてもらっただけで、誰でも美味しくつくれる親切なレシピだと思います)

今回は簡略化するためにそのまま揚げますが、好みで片栗粉や小麦粉をまぶすというのはいい手です。片栗粉はじゃがいもからとった澱粉。表面を洗って糖を除去し、減った分の澱粉を片栗粉で補う、というわけです。

片栗粉とは違い、小麦粉にはタンパク質が含まれているため、風味が良くなるのでこちらのほうがいいかもしれません。ガリッとした歯ごたえが欲しいのなら強力粉を、ソフトな歯ごたえにしたければ薄力粉をまぶしましょう。

さきほどの話に戻りますが、デンプンによってカリッと仕上がらないのではなく、デンプンが皮を形成することでカリッとするのです。マギーキッチンサイエンスから引用します。

さっと油で揚げただけでは(中略)表面のきつね色の部分が薄いので、内側からの水分ですぐしんなりしてしまう。外側をカリッとさせるためには、初めに低温で揚げる必要がある。表面の細胞ではデンプン粒子からデンプンが溶け出し、外の細胞膜をくっつけて補強し、厚くて丈夫な皮をつくるのである。

つまり、水にさらす、さらさないに関わらず、大事なことは『はじめに低温で加熱すること』だから、フライドポテトを作るときには二度揚げするのです。

洗ったじゃがいもは表面の水気をよく拭きとります。水があると跳ねるので危ないですし、水蒸気が邪魔をして(水は蒸発するときに周りの熱を奪っていくので)ジャガイモに均一に火が通らないことがあります。

フライパンにジャガイモとサラダ油をひたひたに入れ、中火にかけます。

油の温度が93度を超えると泡が立ちはじめます。ここで火を弱火に落として、鍋を揺すり、温度を均一にしながらさらに揚げ続けます。10分ほど揚げるとジャガイモに火が通ります。

あみなどに載せて冷ましましょう。この工程によって、ジャガイモのなかにある水分が外側に出てきます。

二度目の揚げは食べる直前、高温(180℃)揚げます。加熱時間は3分ほど。

ペーパーで油をとります。軽く塩を振れば出来上がりです。

アメリカ人はトマトケチャップをつけますが、ベルギースタイルではマヨネーズ、ディジョンマスタードをつけて食べるのがフランス風です。

〈おまけ〉

究極のフライドポテトをご紹介します。揚げ油に動物性の脂肪を使うのです。ラードとヘッドが半々というのがおすすめですが、さらに上を目指すなら秘密のテクニックがあります。

馬の脂です。これは三ツ星シェフ、アラン・パッサールさんがまだ2つ星だった頃に考案した料理法。アメリカのフードライター、ジェフリースタインガーデンはこのフライドポテトが三ツ星に昇格する秘密だった、と述べています。現在では馬を愛する方々からのクレームがあり、店では提供していないそうですが。

馬の脂は小さく切って火にかけます。馬の脂はすぐに溶けます。ハンドクリームとして使う馬油を想像していただけばいいと思いますが、馬の脂は融点が非常に低いのです。

馬の脂がとれました。少し温度を下げてからじゃがいもを投入します。ちなみにじゃがいもは決して洗わない、というのがパッサールさん流です。

一度目の加熱は130度で。10分間、鍋を揺すりながら加熱していきます。

じゃがいもは色づいていませんが、なかに火は通っているはずです。5分ほど表面を冷 まします。

油の温度を180度に上げて......。

芋を投入します。すぐに色づき始めるはずです。

出来上がり。ペーパーで余分な油をとりましょう。カリッとして軽く、甘みを強く感じます! 動物性の油を使ったほうが(摂取する飽和脂肪酸は増えますが)おいしいのです。そういえば昔のマックフライポテトは動物性の油を使って揚げていました。現在では水素が添加された植物油(パーム油)に変更されてしまいましたが、きっと昔のほうが美味しかったのでしょうね。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!