見出し画像

ドンキーコングJr事件

こんにちは。

 今日は、ドンキーコングJrのコピー商品の販売が問題となった大阪地堺支判平成2年3月29日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 株式会社キョウエイから営業権の譲渡を受けた株式会社ファルコンは、任天堂の「ドンキーコングJr」のコピー商品「クレイジーコングJr.」を製造、販売していました。その後、任天堂からの告訴により、ファルコンの社長が、著作権法違反で逮捕、起訴されました。ファルコン側は、池上通信機から証人を呼び、プログラムの著作権は任天堂ではなく池上通信機にあると主張しました。これに対して、任天堂側はドンキーコングのプログラムは任天堂の指示で開発されたものなので、著作権は任天堂にあると反論しました。

2 大阪地方裁判所堺支部の判決

 テレビゲーム・ドンキーコング・ジュニアは、視覚的部分がテレビゲーム機のブラウン管上に表示せられ、客待ちの間、同一のシーケンスをもって繰り返され、遊技者のコイン投入によって中断されるデモンストレーションの部分と、遊技者のレバー操作により、予めソフトウェア・プログラムによって設定されたところに応じて限定的に変化する映像並びにこれも右ソフトウェア・プログラムから抽出されるデータに従って、右映像の変化に付随して適時に変化する効果音とから構成されるものであって、仮にこの聴覚的部分を除外して考察しても、それは思想又は感情を映像の連続によって表現した著作物と解することができる。
 被告人らがドンキーコング・ジュニアの著作権が池上通信機に帰属する旨主張する根拠は、ドンキーコング・ジュニアのプログラムは、ドンキーコングを原型とし、その続編として制作されたものであるが、ドンキーコングのソフトウェア・プログラムは池上が開発したものであって、その著作権は池上に帰属する。そして任天堂はドンキーコングのプログラムに対し無断改変を加え、その複製としてドンキーコング・ジュニアを制作したが、仮にこれが翻案に当たるとしても、二次的著作物の程度には至らないものであるから、ドンキーコング・ジュニアの著作権は池上に帰属するというのである。
 ドンキーコングのソフトウェア・プログラムの著作権が任天堂にあるとすることについては、本件において、その証明がなく、これが池上にあると疑うに足る合理的な理由が存するといわなければならない。
 ドンキーコング・ジュニアは任天堂において池上の承認を得ることなく、ドンキーコングに改変を加えて作成したものであるから、ドンキーコングの著作権の帰属如何によっては、本件訴因を別として、これについての池上の著作者人格権を侵害したとの謗りを免れないところであろう。そうではあるが、ドンキーコングという名称が有名なドンキホーテとキングコングをすぐに想起させ、これらを連結したドンキーコングの語が「頓馬なゴリラ」とでもいうべき概念を言語的に巧みに表現して、テレビゲーム・ドンキーコングのイメージを極めて象徴的に表現することができたものであるとはいっても、なおこれ自体に著作物性を認めることはできないものである。そして、ドンキーコングにおける前述した一人の男性とドンキーコング・ジュニアにおける子ゴリラとの間の概念上の同一性の点も、これは両ゲームの間の右のような筋書の関連性がもたらす自然の成り行きというべきものであって、このこと自体が、必ずしも、後発のゲームであるドンキーコング・ジュニアの創造性を直ちに害するものということはできず、ドンキーコング・ジュニアの語が指し示す子ゴリラという概念を視覚的に表現した子ゴリラの映像を含む総体的な視覚表現の創造性が更に問われなければならない。
 そうすると、先ずこのような子ゴリラという概念を視覚的に表現した子ゴリラの映像はドンキーコング・ジュニアのゲームの中にのみ現れる独特のものであるから、これにより創造的な視覚表現と解することができるものである。更に両テレビゲームが展開される場面についていうと、ドンキーコングが建物の建設工事現場を主たる場面としているのに対して、ドンキーコング・ジュニアの方は、主としてジャングルまたは密林のような場面で展開されているので、両者は観念的にも映像的にも全くこれを別個のものということができる。但し両ゲームに登場する「ドンキーコング」と称する親ゴリラと一人の男性に関して概念の同一性とその概念を視覚的に表現した映像の類似性が認められるといわなければならないが、それにも拘らず、両ゲームが展開される場面の映像、そこに登場するキャラクターの映像とその運動の仕方などは、なお観念的にも映像的にも互いに異なっているので、両ゲームの間には全体として同一性が認められず、これを要するに、ドンキーコングとドンキーコング・ジュニアとは、映画の著作物としては、別個独立のものであり、後者は前者に比して個性的な創作性を有すると解すべきである。
 結局、ドンキーコング・ジュニアの映画の著作権は、任天堂がその創作によって原始的に取得したものとして、任天堂に帰属することが認められる。

 被告人の所為はいずれも、包括して、改正前の著作権法119条、刑法60条に該当する。よって、被告人株式会社ファルコンに罰金30万円、株式会社キョウエイを罰金20万円に処す。被告人会社の代表者は懲役3月、執行猶予1年に処す。

3 プログラミングのコードの著作権

 今回のケースで裁判所は、ドンキーコングJrのプログラムの著作権が任天堂に帰属するかどうかは判断できないが、映画の著作物としての著作権は任天堂に帰属し、その侵害行為に対して有罪判決を下しました。
 現在は、著作権法10条1項で、プログラムの著作物が著作権で保護されるとされていますが、創作性がないプログラムには著作権が認められないこともありますので、十分に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?