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エンドレス・ラスト。

 ようやくここまでこぎつけた。。
身体中が痛み、傷がうずく。
ひどく苦しい戦いもあったがついに、ラストステージだった。
この世界で一番強い奴を決める、ただそれだけでそこになんの正義もない世界。
俺は、しかしこの世界で一番になることだけを愛していた。


 王宮のような大きな城の、屋上がラストステージだった。
向かい合ってみると、ラスボスと呼ばれるべき相手「ジョン」はスーツ姿の小さな男だった。
しかしバトルは始まってみなければわからない。
こんな小男でも、何を隠し持っているのかわからないのだ。
俺は、ちなみに青龍拳というジャパニーズカラテを習得している。『リョウ』だ。
これまで手足がグニョグニョのびて気持ち悪い、火を吹く「バルシム」や、獣人「ブランコ」などを叩きのめしてきた。
ここへたどり着くまでの道のりは、壮絶だといえた。

「ジョン」の傍らには、ジョンよりも少し背の高い綺麗な金髪の秘書のような女がついていた。
タイトなスカートから伸びる長い脚がハイヒールに収まる脚線美はこの旅路の中で一度もお目にかかったことのないものだった。
スーツ姿のジョンと並んでいると出来の悪い銀行の頭取の世話を焼く秘書のようにしか見えない。

ROUND1!!

FIGHT!!!

天空からの掛け声は、俺たちにそう告げた。
秘書のような女もさっといなくなる。

俺はジョンと睨み合う。
まずは牽制の反動拳だ。

「はンどーぅけんっっ!!!!」

ブワッ!!!と両手を合わせてカメハメ波のようにして出す俺の必殺技の一つだ。
青い光がふよふよとジョンに向かって飛んでいく。

おそらく、ジョンはそれを飛んでかわすだろうから、
俺はそのカウンターとして青龍拳、いわゆる昇竜拳をぶちかましてやればまずは掴みはOKという奴だ。
さあ、飛び込んでこい、ジョン!!

しかしジョンに、飛翔する様子はない。
というか、むしろその顔には恐怖が浮かんでいる。

え・・・?

そして「わあああ!!!」と心底恐れおののいたような悲鳴をあげたジョンの顔に、俺の反動拳はモロにぶち当たった。

ベタ・・・と尻餅をつく。
ジョン。鼻血がつらりと垂れる。

「いやいや・・・・。」
そんなことあるか?と、俺もいささか心配になる。

ハッと上を見るとジョンのパワーゲージはすでに3分の2を消滅させている。
なんだそりゃ!!
俺は飛び込んでいって、怯えた顔をしたまま少し鼻血を出して立つこともできないジョンの胸板にちょんと弱キックを放った。
「がふっ・・・!!!」と血を吹いたグラフィックが虚空に踊って、ジョンはKOされた。

なるほど、大体こうやって第二ラウンドに正体を表すタイプのラスボスらしい。
油断させる作戦は、しかし失敗している。俺は、まだ緊張感を保っている。


ROUND2!!!

掛け声がかかる。
それほど長くないインターバルを経て、ジョンがよろよろと立ち上がる。
ジャケットを脱いで、バトルモードに変身するがいい!!!

俺はまたグッと体に力を込めてファイトの掛け声を待った。

「もう・・・無理です。」

しかし、ファイトの掛け声を待っている俺にジョンのひたすら弱々しく、投げやりな声がそう言った。

「え・・・?」

「痛いし、、鼻血出たし、、、もういいよ・・・。無理だよ。」
ぴっちりとなでつけた髪の毛をバラりと乱しながら、ジョンはこちらも見ずにそう言ってスゴスゴと下がっていく。
「え・・・・?」
俺は愕然とした。

「WINNER!!!PERFECT!!!」

という表示が虚空に派手に踊って、俺は勝利した。
強烈なラスボスだな・・・・。という印象が俺の喜びを阻害する。
そういう意味ではまあ、強敵なのかもしれない。

という、なんとも言えないところを落とし所にして、俺が納得しようとした瞬間。

「バラララっバッバッバー!!!!」

と乱入者の音楽がなった。
「何!!??」と振り返ると、そこには秘書の女が立っていた。
「NEW CHALLENGER!!!ROUND 1!!!!FIGHT!!!」

唐突な試合開始に終えはいささか戸惑った。
その奥では鼻血を流してメソメソ泣いているジョンが彼女の顔がプリントされた団扇とペンライトを持って応援している。

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