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なみのたたかい~探偵ナイトスクープ採用編~

2022年1月7日

三が日もフル出勤し、年始のセールのピークも越えた。一応4日に休みはあったが、あまり記憶がない。ただ、クレームの対応や問題事がこの日に全て綺麗にまるっとサクッと終わった。

自由だ!明日は休みだ!次の出勤が億劫になる事からも解放された!

「お疲れさまです!」

最高の気分で退勤し、iPhone君を見ると、、、

ん?

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「筋肉のトリプルコンボのことでお話伺えれば・・・」って。変なの。ふふふ・・・
へぇ、探偵ナイトスクープね。
ふーん・・・。

とりあえずそのまま事務所で一回座って休んだ。
いやいやいやいやいやいや
オイオイオイオイオイオイ

自分で依頼しておいて今さら焦る。
そして思い知る。
嬉しさの最上級って焦りなんか。

そういえば昔の偉い人が言っていた。

「神様は乗り越える事ができる人にしか試練を与えない」と。去年のあの日、急に噴出したあれが試練で私はそれを乗り越えたご褒美を今いただいたのか。

「神の飴と鞭ハンパない」

帰宅後とりあえずコールバック。
人懐こそうな優しい声で朝日放送のディレクターさんが挨拶をしてくれた。私自身はまだまだ変な動悸がおさまらないままだったが話はするすると進んでいく。内容としては依頼内容の確認と具体的にどうしたいか、後は健康状態等。そして次の日が休みなので明日話を詰めていく流れになった。

「因みになんですけど、お仕事の勤務形態ってどんな感じなんですかね?」「販売業なのでシフト制ですね」「11日が最短の撮影予定日なんですがご予定どうですか?」「休みです!大丈夫ですよ!」

あまりのトントン拍子に調子にのってきたところでディレクターの一言が突き刺さる。

「まだ採用ではないので」

それな。探偵ナイトスクープは、電話があったからといって全てが採用ではないのだ。

そう、私はまだ最初の村すらでていない。


1月8日

早朝から無駄に気合いを入れて待っていたが、夕方にディレクターさんから電話があった。「今、放送作家とミーティング中なんで一緒にと思って!」

「放送作家とかやっぱちゃんとはいるんや?」

もうテンション大気圏です。

ただ筋肉に埋もれたいだけでは番組として成り立たないので、ここに面白おかしいストーリーをいれてくれます。

「因みにね、ただ筋肉に埋もれるだけでいいのかな?って思っててね。YAMATO選手がきて、なみさんの理想の状態を体験するだけでいいのか、自分でヘッドロックに持ち込むか」「と、言いますと?」「痛いのとか嫌ならそれだけでもいいんだけどね」「自分で持ち込むとは?」

「どうせならリングで戦うとかどうかな?もちろん、断っても、、、」

「やります!やりたいです!なんなら願ったり叶ったりです!むしろそんな贅沢いいんですか?」

「本当に大丈夫?相手はレスラーであのYAMATO選手だよ」

「私の夢がヘッドロックなんで最終形態がそうなれば問題ありません」

無鉄砲に聞こえるかもしれないが、落ち着いて考えてほしい。

例えばあなたの推しのアイドルが、同じステージに上げてくれたうえに、一緒に自分の一番好きな曲を踊って歌ってくれるなら、お断りしますか?

答えはどう考えてもNO!だろう。

食い気味で話を進め、体調やスポーツ経験等も聞かれる。思い返せば昨夜、顔のわかる写真と全身がわかる写真を要求されたが、ここに繋がってたのかな。

後は、見届け人の話だ。番組側は、カナダに渡ったにゃんにゃんとの連絡を所望していたが、時差の壁と、語学学校がもう始まっていたので難しい。

「ではご家族の出演は?」

どう、、、かな?判断が難しい。姉はとりあえず問題ないが、両親はどうかわからない。答えを渋る私に

「今ここで無理を言って企画事態がなくなるとなみさんの夢も叶わなくなります、一旦お姉さんにだけ連絡していただいて出演交渉しましょう、そしてそこからお姉さんにご両親には話していただきましょう」

確かにその方がセーフティだ。

「今年一番、なみさんの夢一緒に叶えましょうね!」

正直、高校受験の合否より嬉しかった。


1月9日

昨日の余韻を引きずりながら出勤。そして気付く。

今日と明日ガッツリ仕事やから美容室いく暇もない。肌を整える猶予もないのに私は憧れのYAMATOさんに会うの?

ま、ゆうても相手も私の1歳上、酸いも甘いも女も知り尽くした大人の男。なんてないよ。至近距離ていうてもな、、、、

いやあかんやろ女忘れすぎやろ私。相手はYAMATOさんやぞ?イケメンレスラーで有名なあのYAMATOさんやぞ?お前この貧相な顔で隣に立つんやぞ?女のプライドを捨てるのか?

エステ、、、も無理。美容室も行けない、クレームと年末年始のセールで荒れ果てた肌。15年若けりゃ直ぐにでも脱げるくらい綺麗にしてたんやけどな。私脱ぐ必要ないけど。

でもな、YAMATOさんは常にいつでも脱げるよう体を整えてるんよな。パンツ1枚で勝負しとんねん(正しくはショートタイツとリストバンドにサポーター、レスリングシューズです。入場時はカッコいいガウンも着てるよ!)
いつ如何なる時でもパンツ1枚になれる余裕。

そんなん女子やったら女子力チョモランマやん。

料理もプロ級で本まで出してて、美人で有名、脱いでもすごい。

分けてくれ~その胸囲分けてくれ~何カップやねん、我儘ボディすぎるやろ。

はい、忘れてた~最近顔より大胸筋ばっか見てたからバチ当たった~だって去年くらいからすごいんやもん、めっちゃ綺麗な筋肉なんやもん。横から見たときの厚みがもはやラフテー。はぁぁ、、、

そこが好きです。生まれてくれてありがとう。

辛さが一周回って変態が復活。

とりあえず帰るときにウエルシアで一番高い美容コラーゲンドリンク買いました。美しさで勝とうなんて身の程をわきまえろ、女は愛嬌や!

ただ、私の変態ぶりは愛嬌の一言で済まされるのだろうか。


1月9日

姉から連絡があり、話が着々と進んでいる事を聞かされる。そっか、11日なんやもんなぁ。

なんか私を置いて話が着々と進んでる。
依頼者私なんやけど、姉と母とテレビ局で話進んでる。

なんだか少し興奮が冷める。

私、依頼者じゃなかったっけ?もしかして初夢やったんかな。

そういえば今年まだYAMATOさん観に行ってない、あぁYAMATOさんのお尻見過ごすのかぁ。
仕事やからしゃあないよな。
YAMATOさんも仕事やから頑張ってお尻出してるんやしな。

 ✳︎毎年、新年の試合でYAMATOさんのショートタイツがズラされる恒例行事?があるだけで、毎回そのような破廉恥が起きているわけではありません!
安心してください、履いてますよ!


1月10日

明日の朝10時にどうやら撮影クルーが家に来るらしい。

へぇ。くらいのテンションで出勤。もう私はもはや蚊帳の外で家族は大騒ぎ。
探偵が誰なのかも聞いている母はニヤニヤ。

これ、依頼者はその日まで知らされないんです。
漠然と、石田靖さんかたむけんがいいなぁと思う。やっぱり昔から馴染みのある芸人さんの方が落ち着くし、安心できる。

緊張でもなんでもない心が凪いだ状態が続く私の所に1組の家族がきた。
私は某、魔法のソファを売っている販売員です。

「これ、1番大きいやつですか?」「この赤のものですか?1番一般的なサイズですね」「これかな?RIZINのやつ?」「あ、そうですまさにこのサイズと色ですね!お好きなんですか?」

私の質問は総スルーで家族は頭を付き合わせて会議を始める。
どうやら小学生の息子を中心に値段の話をしているようだ。暫く待っているとお父さんがそっと私に声をかけた。
「2万くらいかな、このサイズ?」「いえ、3万2千・・・」
「後でまた来ます」
ご家族退散。
そして1時間後家族が再来店。
「お姉さん、この赤のやついただけますか?3万円のやつ」「はい、在庫確認しますね!」

どうやら購入を決めたご家族は会計に進む。
金額を伝えると、1万円札を2枚と残りはコテコテに折り畳まれたあとのある千円札が13枚。真剣な顔の息子の頭には「RIZIN」と書いたキャップ。
もしかして、、、
「RIZIN好きなんや?天心かっこよかったね」話しかけたが息子無言。「見たよな?かっこよかったな?」気をつかって話してくれる親御さんを無視して息子は真剣に赤いビーズソファを見つめる。「憧れてるんや?」今度はうなずいてくれた。
親御さんに援助してもらってお年玉で買いに来てくれたんやね。

私、勝手に感無量。
少年よ、、、夢はきっと叶うから。私も明日、夢を叶えるよ。
梱包しながら涙が出そうになった。


筋肉に埋もれたいとゆう夢である事は、たとえ話しの流れでも小学生には到底言えそうになかったけど。


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