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敗北のスポーツ学(井筒陸也:著)を読んだので感想なんかを。

読みました。

 ZISOという特異な集団を主催(というのは語弊があるかもですが)し、本人のキャリアも一般的なプロスポーツ選手としては異例、そして著者が記したnote記事が話題を生み、注目を集めた井筒陸也という存在は、僕にとっては非常に興味を惹かれる存在でした。
 フットボリスタ・ラボのイベントでその存在に近づく機会を得たものの、「プロ選手」(井筒さんはプロサッカー選手という立場からは離れていましたが)という存在の前に緊張を隠せずまともなコミュニケーションを取ることが出来なかったのですが、その後も彼の言動を出来る限り目撃しようとZISOのYouTubeチャンネルをチェックしていくうちに応援したい気持ちが日に日に増していくことになりました。
 そうして、彼が選手として所属していたクリアソン新宿が地域チャンピオンズリーグに駒を進めることになった、と聞いた時には外回りの移動中にライブ配信を追いかけ、入れ替え戦で見事勝利を収めてJFLへの昇格を決めたと聞いてはクリアソン新宿の挑戦が新しいステージに進んだことを思って胸の奥が熱くなりました。
 昇格を果たした直後に「サッカー選手を引退」することを表明したときは驚きましたがその反面、自分に驚きや興味を与え続けてくれていた「井筒陸也」という存在に抱いていた印象を顧みると納得してしまう部分もあり、自分が何かを成し遂げたわけでもないし、彼に何か影響を与えたということでもないのに、妙な清涼感を感じたことはまだ記憶に新しいです。

 そんな彼が出版した本を読んで真っ先に思った事が「やってくれたな!」でした。

 本書は著者が自身の経験と思索と模索から「アスリートがおかれた特別なシチュエーションについて構造化し言語化」を試みたことで生み出されたものですが、本書を通じて「社会」を構成する構造とその中に渦巻いている力学について真正面から飾り気を極力取り除いて表すことに挑戦した(ある種)問題作と呼ぶべき書籍なのでは、と感じました。
 その内容はJリーガーだけでなく一般社会人になりてて、もしくはこれから社会人としての人生に歩を進めることになる学生の皆さん、もしかしたら「仕事」に対してそれほど思索を続けてこなかった一般社会人として日常を過ごしている人などの自省を助ける事でしょう。
 そんな人たちが本書を手に取って自省し、自身のキャリアに対する視界を広げ、覚悟を固める結果になった場合、社員を受け入れる側となる僕たちも同様になんらかの覚悟を決める必要がある。

 僕はそう遠くない将来に経営の方向にいくことを意識して日常を過ごしている人間ですが、日本に多く存在する中小企業に限らず、「仕事」に対する思索を日常として過ごしている人はおそらくそれほど多くないのだろうなと感じています。その実感は本書でも紹介されているギャラップ社の調査内容とも解離していませんし、耳の痛い話でもあります。

 原理的に言えば経営層に立っている人たちは一般社員よりも「血生臭い」部分との距離が日常的に近いものですし、覚悟を持っているのは当然ではあるのですが、その中間にいるマネジメント層の覚悟についてはグラデーションがあるにせよ「血生臭さ」を強く感じるほどのものを持っているとは言えないというのがおおよその体感なのではないかと思います。
 いわゆる「中間管理職」という漠然とした括りの、上下板挟みの中でままならぬ現状を眼前にして泥臭く足搔いて戦うのか、諦観して流れに身を任せるのか、といったステレオタイプで抽象的に捉えられることの少なくない層が、本書を手に取った若人の覚悟の強度が高まったことでより板挟みの圧力が高まるのではないか、という想像とも妄想とも判別つかないイメージが浮かんでくるのです。

 そんなシナリオが表出した場合、経営層としてできることはなんでしょう。その「血生臭さ」を衒いなく、キラキラした言葉やイメージでデコレーションすることなく「中間管理職」に伝える事でしょうか?
 それとも、方々からの雰囲気や環境から薄らぼんやり「血生臭い」部分を感じるシチュエーションが増えた状況でも衒いやデコレーションを駆使して無理にでも隠し通すことでしょうか。

 僕は、そのどちらでもないと思っています。

 以前フットボリスタ・ラボの企画で書いた記事を書いた頃から、僕は組織としてのゲームモデル的な大方針から人事考査や教育方針まで含めて網羅的に「組織内の泳ぎ方」を見出す、行動を助けるための「なにか」を作ることで組織の振る舞いをより「生物的」にしていきたいと思っています。
 その中には当然、ボトムでもトップでもない中間層も含まれますし、中間層に対して高まった圧力の中を泳ぐための助けとなる力場やインセンティブを用意する必要があるのではないかと感じているのですが、本書が世に出たことで、その手入れを適切なバランスで行うことができるかどうか、想定される環境の変化に対する適応がより強く促される局面が近づいたと感じます。
 本書がより広く読まれることになれば、多くのマネジメント層や経営層に適応を促す一助となるでしょうし、連鎖的に「血生臭さ」に向かい合う覚悟を持った人間が増えることによって組織の強靭性が高まっていくのではないかな、と思います。

 だからこその「やってくれたな!」であります。

 今後「新入社員にお勧めしたい書籍はありますか?」と聞かれたときに本書を筆頭としてお勧めしたいな、と思います。
 下手な啓蒙書やハウツー本、手法論に傾倒する前に本書を通過することによって見えてくる景色が変わってくること請け合いです。

 おススメ。

 書籍は各種通販や全国書店で取り扱い中。

 ぜひぜひ。

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