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米国の政府・議会を動かす中国人の民主活動家たち

中国共産党に強硬な姿勢で臨むトランプ政権と連邦議員たちの間で、中国人の民主活動家たちが小気味よく暗躍している。彼らを抜きに、米中関係の行方を論じることはできない。

かつて劉暁波のノーベル平和賞受賞に際し、獄中にいる劉暁波の代理としてオスロの会場に赴いた楊建利は、2016年の秋にトランプが大統領選に勝利すると、米国の力を使って中国民主化を実現すべく、トランプに政策方針書を提出した。

いまや米政界における楊建利の影響力はかなりのものになっている。たとえば2018年10月4日に副大統領のペンスが中国をテーマに行った演説は、メディアや識者たちの間で「第2の鉄のカーテン演説」と評されたが、実はあのペンスの演説は楊建利がプロデュースしたのである。

以下は、楊建利がペンスとミーティングした際の様子を写真付きで後日ツイッターから投稿したものだ。

食事のテーブルの中央に楊建利とペンスが対面で座って主賓となり(写真右)、そのうえで楊建利とペンスが両手でがっちりと握手を交わす二人の熱い絆が印象的だ(写真左)。2018年10月4日に行われたこのペンスの演説は、楊建利が代表を務める公民力量がその1年前の2017年10月3日に公表したテキストを抜きに論じることはできない。ペンス演説のすべての要点はその公民力量のテキストにあり、これについては後ほど詳細に解説する。

楊建利がトランプに提出した政策方針書に関しては、台湾人が運営する「関鍵評論」というサイトに楊建利のロングインタビューが掲載されている。この中で楊建利は、米国の力を使って中国共産党を崩壊させるためにトランプへ授けた策のことを語っている。このインタビューは非常に興味深いので、後ほど細かく見ていくことにする。

しかし、楊建利の影響力はホワイトハウスだけにとどまらない。彼は、共和党のルビオや民主党のペロシといった有力議員たちにも盛んにロビー活動を行い、米国の力を使って中国を民主化に導くための法案作成を要請してきた。

他でもない楊建利自身が、米政界要人たちとのミーティングなどについて様々なかたちで情報を出している。そして、米政界に影響を与えている民主活動家は彼だけではない。民主救国戦線主席の唐柏橋、中国民主化海外連盟主席の魏京生、流亡富豪の郭文貴など、複数の活動家たちが、それぞれのやり方で米国の対中国政策にコミットしている。米国の力を使って中国共産党を打倒し、民主化を実現するため、彼らは米国の政策に大きな影響を与えている。

トランプ政権と中国の民主活動家たちの関わり、連邦議会と中国の民主活動家たちの関わり、これらについてはすべて証拠となるソースを貼って後ほど解説する。

まずは楊建利(Yang Jianli)の経歴から説明しよう。彼は1989年の天安門広場での抗議運動が弾圧されると米国に渡り、ハーバード大学で政治経済学の博士号を、カリフォルニア大学バークレー校で数学の博士号を、それぞれ取得する。

その後、楊建利はワシントンで公民力量というNGOを主宰して政治活動を開始したのだが、しかし2002年に中国北東部で酷使されている労働者の実態調査のため中国に入った際、スパイの容疑で中国の公安に逮捕され、2007年まで5年間にわたり獄中生活を余儀なくされる。釈放後は劉暁波と共に08憲章を世に送りだして民主化運動を進めようとしたものの、今度は劉暁波が逮捕されて獄中の人となってしまった。そのため劉暁波のノーベル平和賞受賞に際しては、楊建利が劉暁波の代理としてオスロでの授賞式に出席することになった。

ここで、劉暁波のノーベル平和賞受賞に際し、彼の代理人として楊建利がとった姿勢について簡単に触れておこう。

当初はノーベル平和賞の授賞式そのものに出席するつもりだった楊建利だが、中国共産党が劉霞の自宅軟禁を解かないことを受けて、楊建利は授賞式への出席をボイコットすると表明した。

そのうえで、彼はオスロの地に着いた。ここでの目的は二つあり、一つは中国共産党の人権弾圧を批判するデモ隊の中心メンバーとして、中国共産党への街頭抗議に参加すること。

もう一つは、ノーベル平和賞の授賞式後に行われるパーティに劉暁波の代理人として出席すること。

この後、楊建利は公民力量のリーダーとして民主化運動の精神的支柱となり、米国の政治家たちに盛んにロビー活動を展開してゆく。

楊建利の基本的なスタンスについては、2016年6月17日に彼が米国の連邦議員たちを前に行った演説がよく表している。以下は楊建利が米議会の防衛外交政策フォーラムで行った演説の全文である。

ここで楊建利は次のように述べている。中国では、お金が即ち政治的な権力となり、一党独裁のもとで資本家たちがアンフェアな市場を作り、このような独裁体制による権力と資本と知識人の三位一体は、やがて中国国内を超えて国際規模で拡大した。中国共産党は、その経済力で諸外国の政府を買収し、もちろん諸外国の企業も惹きつけ、更には諸外国の出版やメディアや文化産業にも介入し、そうして中国共産党は諸外国の言論の自由を封じ込め、民主主義を貶めてきた。習近平の時代になって国内的に強権支配を強めているが、このやり方はいずれ破綻して上手くいかなくなる。中国の市民たちの不満も噴出するときが来る。米国にとっても、中国を民主化することは米国の国益に適うことであり、だから米国には中国の民主化を後押しするような政策を実行してもらいたい。

ここで楊建利が語った内容の幾つかは、まさに2018年の10月4日、ハドソン研究所で行われたペンスの演説において継承されている。ペンスの演説では、中国共産党がいかに米国のメディアや大学やシンクタンクや文化産業を侵略し、そうして中国共産党がいかに米国における言論の自由を抑圧し、中国共産党にとって都合の悪い言論を封じ込めることで民主主義を危うくしてきたかについて、滔々と語られた。

以下は、ホワイトハウスが公表したペンス演説の全文だが、これを上に挙げた2016年の楊建利の演説と読み比べてみると、非常に興味深い照応に気づくだろう。2016年に楊建利が米議会の防衛外交政策フォーラムで語ったことのうち、中国共産党が米国の言論空間に行使してきた影響について論じた箇所をより詳しくすると、ペンスの演説の後半部分になる。

このハドソン研究所でのペンスの演説は、日米欧のメディアや識者の間では「第2の鉄のカーテン演説」と評され、いまや米国はこんなにも中国に対して怒っているのかと各界に衝撃を与えた。しかし、実際のところ、ペンスの演説は楊建利がプロデュースしたものだ。

今一度、先程の写真を振り返ろう。楊建利自らがツイッターに投稿したもので、楊建利とペンスが主賓としてテーブルの中央に座って会談する様子を写したものが2枚、そして最も大きな写真は、楊建利とペンスが両手でがっちりと握手する様子を写したものだ。

ところで、このペンスの演説は内容もさることながら、実はある明確な目的があって準備されたものだ。このペンスの演説は、絶対に10月4日でなければならず、また絶対にハドソン研究所でなければならない確固とした理由があったのだ。「10月4日にハドソン研究所」というこの日時と場所自体が、中国共産党に対して楊建利が発したあるメッセージになっていたのである。この稿の序盤で私は公民力量のテキストについて触れたが、極めて重要なので本稿の最後で解説する。

さて、ここからは楊建利がトランプに提出した政策方針書について見ていこう。以下は台湾人たちが運営する「関鍵評論」に掲載された楊建利のロングインタビューで、掲載時期は2016年12月28日、つまり大統領選に勝利したトランプが組閣の準備をしている時期のものだ。

このインタビューは物凄く長くて、注目すべきところがたくさんあるのだが、まず重要なのは次の箇所である(文中のYangとは楊のことだ)。

Yang, interviewed in Taipei’s busy Ximen district on a crisp late afternoon in early winter, is promoting his latest new position paper, which proposes the Trump administration “strikes” directly at the vulnerable spots of the CCP to enable a democratic transition in China.

楊(Yang)は、トランプ政権に提出した最新の政策方針書で、中国共産党の脆い部分をダイレクトにつくことにより、中国の民主化への移行を可能にしようとしている。このように、楊建利が米国の力を使って中国民主化を実現しようと、その戦略の一端を述べたのがこのインタビューである。

たとえば、楊建利は米国がとるべき政策として次のような提案をしている。

Given that economic growth is perceived as a key source of legitimacy for China’s ruling party, a central part of Yang’s proposal is to target China’s economy by using the U.S. market as leverage.

In a somewhat Trump-esque line, Yang also suggests “other similar measures to address the unfairness of one-way free trade that is resulting in China’s huge trade surplus of US$3 trillion with the resulting loss of millions of American jobs.”

中国共産党のアンフェアなやり方による巨大な貿易黒字を問題視する楊建利のこの提案は、まさに現在進行中の貿易戦争そのものだ。これについては、トランプ自身も『タフな米国を取り戻せ』という著書のなかで語っていたように、そもそも貿易戦争は中国共産党の方が先に仕掛けたもので、中国共産党は90年代から知財窃盗など様々な手法で米国に貿易戦争を仕掛けてきたのであり、だから米国としても中国共産党に対してカウンターを行うとトランプは著書で宣言していたことだが、しかし米国がカウンターの貿易戦争を実行するにしても、トランプをはじめ米国の政治家の裁量だけでそれが上手くいくかどうかは別である。

相手である中国に対して、どのように攻めるか? 「彼を知り、己を知れば百戦して危うからず」と孫氏の言葉があるように、トランプによるカウンターの貿易戦争が中国共産党に効果的な打撃を与えるには、中国共産党のどこがどのように脆いのかを知らなければならない。

楊建利は、まさに中国共産党の内部事情を知ることのできる人物だ。というのも、中国共産党の内部にも民主主義を目指す開明派の官僚は一定数存在していて、この共産党内の開明派は秘密結社を作っており、そして楊建利はこの党内開明派とも連絡を取っている。中国共産党の内部には、今も胡耀邦や趙紫陽を慕う開明派の人々がいる。そんな彼ら党内開明派の人々は「中国共産党革命委員会」という秘密結社を作っている。

トランプ政権が誕生して中国共産党に強硬な姿勢をとるようになって以降、この党内開明派たちによる秘密結社の動きも表に浮上してきている。たとえば、以下に取り上げるのは、2018年3月2日、秘密結社である中国共産党革命委員会から楊建利のもとへ郵送で届けられたUSBメモリーに入っていたテキストだ。

このテキストは「中国平和民主転換法案」と題したもので、共産党内の開明派による中国民主化のための建白書のような内容となっている。楊建利はこのテキストを、彼が代表を務める公民力量で公開したのだ。なにしろ秘密結社だから、楊建利としても彼らの身元がばれないよう繊細な言葉で公開している。

内容だが、たとえば政治体制については「总统由普选产生,任期两届,每届五年。总统任命总理。总理对国会负责」という提案がなされている。総統(大統領)制にして、選挙によって総統を選び、任期は2期までで、1期は5年、そして総統が首相を任命し、首相が国会に責務を負うとあるので、つまりフランスの大統領制と同じものを考えているということになる。

他にも、国旗と国歌を新たに選定するとか、亡くなった政治犯の名誉を回復するとか、1989年6月4日天安門大虐殺の真相を解明する調査委員会を発足するとか、色々なことが提案されている。

ともかく、楊建利はこのように共産党内の秘密結社とも通じているのであり、だから北京政界内部の動向についても、楊建利はいにしえの張良のような卓越した観察眼でその様子を分析し、情報をトランプに伝えることができる。つまりトランプは、共産党内部の情報をもとに中国と貿易協議で駆け引きができるのだ。

このことも踏まえたうえで、楊建利は自信をもってカウンターの貿易戦争実行をトランプに提案したのだ。先ほど引用した箇所に、「his latest new position paper, which proposes the Trump administration “strikes” directly at the vulnerable spots of the CCP to enable a democratic transition in China」とあるのは、楊建利が中国共産党の脆い部分をトランプに教えるということである。

このため楊建利は、トランプから絶大な信頼を得ることに成功している。その物的証拠となる数々の写真があるので、いくつか紹介しよう。

2017年1月18日、楊建利のもとにトランプから大統領就任記念晩餐会の招待状が送られて来た。以下は、楊建利自らフェイスブックで投稿したその招待状である。

更に1月20日のトランプ大統領就任式の当日、晩餐会の会場で記念撮影する楊建利の姿である。

こちらは、2月7日、トランプタワーを訪れた際の楊建利だ。

こちらは、6月25日、マール・ア・ラーゴのトランプ・ナショナル・ゴルフクラブで撮影されたもので、楊建利とトランプのツーショットである。笑顔でお揃いのポーズをとる楊建利とトランプの様子から、二人の厚い信頼関係がうかがえる。

これらを見れば、楊建利がいかにトランプから信頼され、トランプの中国政策について楊建利が重要な位置を占めているかがわかるだろう。そうであればこそ、楊建利はペンスを動かしてあのような演説をプロデュースすることもできるのだ。

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