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グレートファイアウォールを破壊するために

米中関係は緊迫し、アジア太平洋が激動しつつある今、弁舌に長けた一人の説客が意気盛んにインターネット上で遊説している。彼の目的はただ一つ、米国の力を使って中国の民主化を実現すること。

郭文貴は、弁士である。非常に複雑で難しいことも、彼の舌にかかれば実に巧みに料理される。

かつて春秋戦国時代、中国では蘇秦や張儀を筆頭に、弁士たちがその巧みな弁舌によって政治を動かしたが、21世紀のいまはサイバー縦横家が出現したといえるだろう。インターネットで動画を配信できるいまという時代は、弁舌に長けた説客にとってはまさに動画配信によって縦横家となりうるのだ。

流亡富豪、そんな形容がなされることが多い郭文貴だが、王岐山の秘密を暴いて告発したことに始まる彼の活動をつぶさに点検すれば、流亡富豪の彼は紛れもなく弁士の系譜にある反体制のカリスマだ。

一見するといかがわしく見える人物が突如として政治の表舞台に登場して躍動する、それは中国の歴史を振り返れば何も珍しいことではあるまい。

郭文貴が真正の民主化運動家であるというのは、何よりも彼と楊建利の関係から明らかだ。

かつて劉暁波のノーベル平和賞受賞に際し、獄中にいる劉暁波の代理としてオスロに赴いた楊建利は、まさに中国民主化運動のエースといえる存在だ。楊建利の経歴は卓越したものがあり、多方面から深く信望される民主化運動のリーダーである。

その楊建利が絶大な信頼を寄せるのが郭文貴だ。楊建利と郭文貴、この二人は厚い契りを交わした盟友であり、二人の親密な関係については前回の有料レポートで解説した通りだ。

今回は、まずこの郭文貴にスポットをあて、中盤では公民力量の韓連潮に注目し、中国民主化に向けた米中関係の行方を展望していく。主な内容は、以下の通りである。

(1)いかにして異端の民主化運動家は誕生したか

(2)グレートファイアウォールとファーウェイ

(3)米中サイバー戦争の兵法

この5月に入り、米中関係は急展開を見せている。トランプ政権は中国に対して制裁関税を25%に上乗せし、更に情報通信の分野で大統領令を発動した。米商務省はファーウェイとその子会社すべてをエンティティ・リストに加え、米国からファーウェイに対して事実上の禁輸措置を行うことになった。

多くの読者の方々にとって、日米欧のメディアの報道を読むだけでは急展開する米中関係の事態を掴むのに苦労していることだろう。この稿では、特にファーウェイに対する措置については詳しく見ていくことにする。

もちろん、上乗せされた制裁関税についても、この制裁関税がファーウェイに対する措置と作戦上どのような連関をもつのかを解説する。

では、始めよう。


(1)いかにして異端の民主化運動家は誕生したか

2018年末に郭文貴が発表した声明文は、彼がなぜ北京を脱出し、米国で民主化運動家になったのか、この経緯をあらためて説明するものだ。

かつて郭文貴は、中国共産党の高官だった馬建という官僚と密接な関係にあったものの、その馬建は規律違反を名目に失脚し、数年が経った2018年の年末、ついに彼に有罪判決が下された。以下は、この判決を糾弾するため郭文貴が発表した声明の全文である。


中国においては、何の罪もないのに逮捕され、有罪判決が下る例は枚挙に暇がない。郭文貴が指摘するところによると、馬建もまた無実であるのに罪を着せられ、獄中の人となってしまったという。

事の発端は10年以上前に遡る。

胡錦涛が国家主席にあった頃、彼は北京で横行していた腐敗の調査に乗り出した。具体的には、2008年まで北京市長を務めていた王岐山と副市長の劉志華たちが北京オリンピックまでに行った腐敗について調査することだ。胡錦涛は、この件で馬建に調査の指示をしたという。

北京で不動産業を営んでいた郭文貴は、2003年に王岐山と劉志華と孟建柱に資産を略奪されており、彼はそのことを馬建に話した。すると、馬建はその内容を胡錦涛に報告し、それで劉志華は処罰され、郭文貴の資産も戻ってきたという。

しかし、王岐山と孟建柱は処罰されることはなかった。

その王岐山は、2012年の秋に中央規律委員会書記に就任すると、「反腐敗」の掛け声のもとに、様々な高官を失脚させた。そして、王岐山の腐敗の実態を知っている馬建も2015年1月に逮捕された。

馬建の逮捕と共に、王岐山の手の者たちによって郭文貴への威嚇も始まった。かつて王岐山によって資産を没収された経験のある郭文貴は、だからこそ王岐山がいかに腐敗を重ねてきたかを知っている。王岐山からすれば、郭文貴は実に煙たい存在で、なんとかして郭文貴の口を封じたい。そのため郭文貴に対する威嚇が開始された。彼の家族や彼が経営する会社の従業員が逮捕され、身の危険を感じた郭文貴は、ついに北京を脱出し、旧知の仲であるトランプを頼って、マール・ア・ラーゴに行った。

不動産業で財を成した郭文貴は、2013年からマール・ア・ラーゴの会員となっていた。それで郭文貴はマール・ア・ラーゴに逃げ込んだといえる。以下は、マール・ア・ラーゴの支配人と写真に収まる郭文貴である。(右側に写っているのが彼だ)。


馬建の逮捕と、自分の身内への弾圧を受けて、郭文貴は次のことを悟った。王岐山ら権力者たちの秘密を知っている者は、まさに秘密を知っているからこそ権力者からターゲットにされるということを。

王岐山など権力の中枢にいる者たちは、様々な党の高官や企業経営者から違法に資産を奪っては、彼らを獄中に送りこむ。法も何もかも無視する権力者の腐敗と抑圧に対する怒りと絶望、このままでは家族だって帰ってこない、犠牲者は増えるばかりだ、もはや中国は民主化するしかない、共産党を倒さないといけない、郭文貴はその決意と共にマール・ア・ラーゴにかくまわれて暮らし、やがて民主化運動に身を投じた。

2017年4月19日、郭文貴は米国の公共ラジオ放送ボイス・オブ・アメリカに出演することになった。ボイス・オブ・アメリカ中国語主任の龚小夏が彼にインタビューをするもので、3時間番組の生放送という予定だった。

ところが、生放送の最中に事件が起きた。反腐敗の名目で大鉈を振るう王岐山の専制政治を激しく告発していた郭文貴だったのだが、番組の途中で突如として放送が中断されたのである。

楊建利は、中国共産党が米国のメディアに対して盛んに介入し、中国共産党にとって都合の悪い言論を封じ込めてきたことを強く批判してきた。楊建利自身が、中国共産党による妨害を度々受けてきたのである。それと同じ事態が、郭文貴のラジオ・インタビューでも起こったのだった。王岐山の専制を告発する郭文貴のインタビューは、番組の途中で打ち切られた。

とはいえ、それでも途中までは放送されたのだ。番組前半部分で郭文貴が語った内容は極めて衝撃的であり、中国人の反体制派たちは放送された部分の文字起こしを行って、郭文貴のインタビューのテキストをツイッターで猛烈に拡散した。

郭文貴が語ったことをわかりやすく要約すると、習近平はいわば飾り物の皇帝であり、実際には王岐山が宰相として辣腕を振るい、自らの権力強化と自らの私腹を肥やすため、「反腐敗」の名目で大規模な党内の粛清を行ってきたというのだ。

この郭文貴の暴露は衝撃的で、これにより郭文貴は世界各地に散らばる中国人の反体制派たちの間で一躍時の人となった。これには、有力な民主化運動家たちが郭文貴を称賛する声明を発表し、しかもその声明が反体制メディアに次々と転載されたことも大きい、

たとえば、以下は「郭文貴の価値」と題した楊建利の声明文である。


ここで楊建利は、疑いなく郭文貴はすぐれた智商であり且つ情けのある商人で、このことが彼の暴露が功を奏した要因であるとし、郭文貴のことを称賛したのである。

王岐山の秘密を暴いたその衝撃度、そして楊建利ら名高い民主化運動家たちから贈られる絶賛の声、これらを受けた郭文貴は、北京政界内部の秘密を暴露した英雄として、海外在住の中国人反体制派の間でカリスマ的な人気を博することになったのだ。

一方、郭文貴の影響力を恐れた中国共産党は、ツイッター上で拡散された郭文貴インタビューのテキストに狙いを定め、党のサイバー部隊が次々に投稿を削除していった。

お陰で、私がシェアして保存しておいたものも、いまや元の版が削除されている。

中国共産党のサイバー部隊は、郭文貴本人にも狙いを定め、彼のスマートフォンに直接サイバー攻撃を仕掛けるのみならず、郭文貴のツイッターやフェイスブックのアカウントを封じる作戦にも撃って出た。

このため、2017年の秋になると、郭文貴はツイッターにまったくアクセスできなくなる。

そして、中国共産党の強烈なサイバー攻撃にさらされる郭文貴に対し、厚い支援で彼を支えるようになったのがスティーヴ・バノンだ。2018年1月になると、郭文貴は自らのSNSを立ち上げ、彼自身は文字による投稿はそこから情報発信を行うようになる。

バノンは郭文貴の情報発信の最大の協力者となって、彼らは二人三脚で中国共産党への批判を強めていく。

楊建利は劉暁波の遺志を継ぐ中国民主化運動のエースであり、彼の卓越した経歴に尊敬の念を抱かない人はいないだろう。一方で、スティーヴ・バノンはオルトライト運動の旗手とされるポピュリストで、そんなバノンを危険視する人は世界中に数多くいる。郭文貴は、この極めて対照的な二人から絶大な信頼を得ることに成功しているわけで、一見するとなんでこういうメンバー構成になるのか不思議に思う人も多いだろう。

バノンが郭文貴に惹かれた理由としては、二つのことが挙げられる。ここでは、そのうちの一つを挙げておこう。実はこの二人には共通の敵があって、その点で二人の利害は一致しているのだ。バノンといえば反エスタブリッシュメントの論客として知られ、ウォール街の銀行に対する彼の批判は強烈なものがある。バノンは、ウォール街の銀行をエスタブリッシュメントの代表として、かなり激しく批判する。

郭文貴は、そんなバノンに対して、ウォール街の銀行がいかに中国共産党の支配者たちと密接な関係にあるかを伝えたのだ。王岐山、江沢民一家、朱鎔基一家など、中国共産党の支配層を構成する勢力は職権乱用して私腹を肥やしては、そうして得た富を香港などを経由して米国に持ち込んだり、あるいは中国で設立した投資ファンドを餌にしてウォール街の銀行に話を持ち掛け、ウォール街の銀行が中国の有力ファンドに投資することで利益を得るなど、中国共産党の支配層とウォール街の銀行は極めて密接な関係を持っている。郭文貴は、このことの詳細をバノンに伝えた。

バノンとすれば、郭文貴から得た情報によって、彼が敵視するウォール街がいかに独裁体制を布く中国の権力者たちと癒着してきたかという、その詳細なネタを得ることになった。これにより、バノンのウォール街批判は更に鋭さを増すわけである。ウォール街の銀行は中国の独裁者たちと癒着しているのだぞ、ということで。

つまり反エスタブリッシュメントの旗手であるバノンとすれば、郭文貴と組むことで、ウォール街批判の重要な武器となる情報を仕入れることができるのだ。また郭文貴としても、中国共産党の腐敗を米国の世論に訴えるうえで、ウォール街と中国共産党の結託という事実は是非とも多くの米国人に知ってほしい事柄であり、つまり郭文貴からすれば、この点でバノンは自らの代弁者となりえるのである。

郭文貴とバノンが揃って壇上に上がり、ウォール街と中国共産党の結託を告発した舞台といえば、2018年11月20日、ニューヨークのピエールホテルで行われた記者会見である。以下は、質疑応答も含めて3時間近くにおよんだ記者会見のフル動画である。


そして、この記者会見の文字起こし(中国語版)もある。文字起こしは、演説の部分、記者との質疑応答の部分と、二つに分けて作成されている。



この記者会見は極めて重要な会見であり、そのためかなりのボリュームがあるのでここではその詳細を解説しない。ただ、一つだけ指摘しておかなければならないことがある。

ここでバノンはかなり強烈にウォール街と中国共産党の癒着を批判しているが、実はこの会見の最大の目的は別にあって、それはこの年の7月に南フランスの古城で発生した中国のコングロマリット海航集団会長王健の死について、その真相を告発することだった。

海航集団の会長という要職にあった王建が南フランスの古城で崖から転落死したというニュースは、当時ロイターなど様々なメディアが世界に打電したことである。郭文貴は、この転落死という発表は非常にあやしい、真相は別にあって王建は暗殺されたのではないかと強く疑念を抱き、独自の調査チームを結成して事態の真相について探偵し、その調査の結果を世の中に訴えることがこの記者会見の最大の目的だった。なぜそのことでウォール街の批判まで行ったかというと、それは海航集団の資金源に関する事実を訴えるためだ。

ちなみに、転落死あるいは病死に見せかけて実は暗殺だったのではないかという話は、中国では何も珍しいことではない。つい最近でも似たようなことがあった。

フランスに政治亡命して活動してきた民主化運動家の張建は、1989年に起こった天安門広場での民主化運動の際、学生たちのリーダーの1人だった。2019年4月24日、つまりこの春のことだが、張建は出張先から帰国するため搭乗していた機内で突然発病し、そのまま亡くなった。

この張建の突然の死について、これは病死ではなく暗殺されたのではないか、実にあやしいところがあると彼の同志たちが次々と訴えた。

たとえば反体制メディアの「大紀元」には、張建の死はあやしいところがあるので調査が必要であると訴える民主救国戦線主席の唐柏橋によるコメントが掲載された。


また、中国民主化海外連盟で主席を務める魏京生も、彼が創立した魏京生基金会が声明を発表し、張建の死は犯罪の可能性があると訴えている(犯罪の可能性というのは、暗殺だったのではないかということだ)。


更に、不審死の真相解明を要求する事例は、何も民主化運動家によるものだけではない。たとえば2018年10月6日、人民日報傘下の雑誌「ニュース戦線」の元編集長である胡欣がビルの19階から転落死し、中国の報道では自殺と報じられたのだが、これについて国境なき記者団が声明を発表し、中国当局に対して彼女の転落死には不審な点があるので真相解明を要請したのだ。

以下は、それぞれ胡欣の転落死を伝える報道と、この件の真相解明を要請する国境なき記者団の声明である。



ここに挙げた三つの件は、あくまでも氷山の一角である。中国では、民主化運動家であるか体制内の人物であるかに関わらず、彼らの不慮の死について、暗殺だったのではないかと疑われる不審な点があるので真相解明が必要だと訴える例が絶えない。

2018年11月20日に郭文貴がバノンと共に行った記者会見も、これら不審死の真相解明を訴えるという目的の系譜にある会見である。彼ら二人に特徴的なのは、事件の真相について詳細な解説をするだけでは済まず、このような事態が続出する中国共産党の腐敗をウォール街との癒着と絡めて告発したことにある。

この記者会見のインターネット生中継が中国共産党による妨害を押しのけ無事成功して以降、郭文貴とバノンの関係は更に増していく。

(2)グレートファイアウォールとファーウェイ

2019年3月25日、ワシントンでは中国共産党の解体を目的として、「応対中国眼前危険委員会」(Committee on the Present Danger:China)が設立された。これは日本語では「現在の危険に関する委員会・中国」という訳語にしているところが多いようだが、中国人の反体制派たちの間では「応対中国当前危険委員会」という中国語に訳しており、眼前の危険に対応するという緊急の意味を明確するため、私は中国語訳を参考に応対中国眼前危険委員会と訳すことにする。このことは前回の有料レポートでも述べた通りだ。

以下は、台湾の「自由時報」が3月26日に掲載した記事だが、この応対中国眼前危険委員会によって中国共産党の滅亡が始まるという郭文貴の見解が紹介されている。


いまやこの応対中国眼前危険委員会の設立から2か月以上が経過しており、既に複数回にわたって会合が行われている。一連の会合では、バノンのように公式メンバーとして委員会に名をつられている人はもちろんのこと、それ以外でも様々な人が会合に招かれて講演を行ってきた。

興味深いところでは、米国に拠点を置く中国人の反体制派メディアの一つである「希望の声」で総裁を務める曽勇だろう。彼は5月2日の会合で講演し、中国共産党が米国に対して仕掛けてきた情報戦争の一端について解説している。以下は、応対中国眼前危険委員会が公開した5月2日の会合のフル動画である。


かつて清王朝末期、中国から日本に逃げてきた孫文たちが日本で雑誌を発行して清朝政府打倒を目指したように、天安門大虐殺以降、米国に逃亡してきた中国人たちはインターネット上で様々なメディアを立ち上げ、中国共産党の真相を伝えるため活動してきた。彼ら反体制メディアの告発は傾聴に値する内容であり、応対中国眼前危険委員会からすれば、中国共産党を滅亡させるうえで彼らの声を活かすのは当然というものだろう。

「希望の声」の曽勇がこの会合で解説したのは、メキシコに中国共産党の息のかかったラジオ局があって、このラジオ局がメキシコから米国に向けて電波を発して、米国で暮らす大量の中国人たちにデタラメを吹き込んでいるということだ。中国の国家安全省(通称、国安)の命令を受けたフェニックステレビ(鳳凰衛視)がニューヨークの会社を利用してメキシコのラジオ局を買収し、そうして中国共産党の意を汲んだプロパガンダがメキシコを拠点に公然と米国で放送されている事態を強く問題視している。

当然ながら、「希望の声」は自社の総裁が応対中国眼前危険委員会の会合で行った講演について細かく報じている。中国語が解る読者の方のなかには事の真相を中国語で理解したい方もいると思うので、ここに記事を紹介しておこう。


ところで、このフェニックステレビの背後にいる国家安全省だが、まさにこの国家安全省こそは中国共産党にとって安全保障の要を成す機関である。中国共産党が最重視する安全保障上の課題とは、もちろん情報だ。民主化運動に繋がる恐れのある情報を国内で徹底的に封じ込めること、また海外の中国人たちに対しても党への忠誠が揺らがないようプロパガンダの情報を盛んに発信すること、これらは国家安全省の任務だ。

というわけで、中国国内に不都合な情報が流入しないようグレートファイアウォール(防火長城)の建設を行ったのも国家安全省だ。このグレートファイアウォールこそは世界最大のサイバー長城であり、中国共産党が独裁体制を防衛するための屈強な要害である。

楊建利率いる公民力量で副代表を務める韓連潮(リエンチャオ・ハン)、彼は応対中国眼前危険委員会の公式メンバーでもあり、その彼は4月29日、同じく応対中国眼前危険委員会の公式メンバーであるブラッドリー・セイヤーと共に「ザ・ヒル」に寄稿をした。以下はその寄稿の全文で、タイトルは「Tear down the great firewall to win the war with China」である。


米国はグレートファイアウォールを壊すべき、ついに出てきたこの提案だが、しかも「Tear down」という用語を用いたことに注目すべきだ。というのも、これは明らかにかつてのレーガンの発言から借りている。1987年6月12日、レーガンはブランデンブルグ門で行った演説の際、ベルリンの壁を壊すことを念頭に「Tear down the wall」と言った。韓連潮たちはこのレーガンの発言を借りて、今度はグレートファイアウォールを壊せ(Tear down the great firewall)と主張しているのは明白である。

韓連潮たちの寄稿の掲載に先立つ4月24日、郭文貴は翌日に開かれる応対中国眼前危険委員会の会合について、これは中国共産党を討伐するうえで非常に重要であるとして、レーガンの肖像を前面に出した投稿を自らのSNSで行っていた。

更に4月27日、郭文貴は盟友である路徳、バノンと鼎談を行い、応対中国眼前危険委員会の意義などをテーマに語ったのだが、そこで郭文貴は3度にわたり、「Tear down the firewall」と言っている。この鼎談は中国語で全文文字起こしがあるが、「Tear down the firewall」に関しては中国語に訳すことなく、英語で記述してある。以下は、4月27日に行われた鼎談の全文文字起こしである。


さて、それでは韓連潮とセイヤーの寄稿で特に注目すべき箇所を見ていこう。当然ながら、グレートファイアウォールを破壊することは中国民主化のため絶対に不可欠だ、なんとしてもグレートファイアウォールを取り壊したい。韓連潮とセイヤーは次のように述べている。

Therefore, the penetration of the Great Firewall should be a key U.S. response to defeat China in the ideological struggle.
Were the wall defeated, Chinese netizens, intellectuals, dissidents and activists could gather in a virtual public square to express their views, and compare and debate two ideologies. They know how evil the CCP is because they have witnessed horrific crimes committed against the Chinese people.They are America’s strongest allies and advocates in the ideological war. But this volunteer army can be raised only when the Great Firewall is smashed. To aid this, we suggest four measures.

グレートファイアウォールを壊せば民主化への道が開ける、そのために韓連潮たちはこの寄稿のなかで四つの事柄を提唱しているのだが、喫緊の策として特にそのうちの一つを強調するため、この二人は5月4日、今度は「リアル・クリア・ディフェンス」に再び連名で寄稿をした。以下はその寄稿の全文で、タイトルは「Use trade to advance internet freedom in China」である。


これはつまり、トランプ政権が米中貿易協議の場を利用して、中国にインターネットの自由を実現するよう迫るべきと説いたものだ。重要な部分を以下に引用しよう。

The trade negotiations with China provide an opportunity to advance human rights in China. A key strategy to do so is to free the Chinese internet market. Unfortunately, the current trade negotiations with China are missing this critical component. We argue that this must change. U.S. internet companies must have equal access to China that they are now denied. This is only fair based on the principle of reciprocity. Additionally, it will provide the United States with invaluable political and economic opportunities. There are three reasons why this is so.

First, the internet has changed not only how people buy things and entertain themselves, but also how they obtain information and communicate with each other. The free flow of information can promote China’s democratic transition. The Chinese Communist Party (CCP) is well aware of this threat to its power, as Xi Jinping's expressed in his January 2019 speech to the Politburo's 12th Study Group meeting. Xi argued, "Without cybersecurity, there is no national security. If we cannot overcome the internet barrier, we won't be able to hold power for a long period of time.

Second, while asserting tight control over the internet’s ideological and political sphere, the Chinese regime has used the pretense of national security to protect its internet market and block companies such as American competitors. It sets insurmountable barriers for the American internet companies to enter the Chinese market as equals, thus creating a de facto ban on American companies such as Google, Facebook, YouTube, Chinese Wikipedia, Mobile Wikipedia, Pinterest, Dropbox, Reddit, Bloomberg, New York Times, Wall Street Journal, Reuters, Twitter, Bing, Instagram, Vimeo, Blogspot, Flickr, Tumblr, and many others.

Third, while China hinders access by U.S. firms to their market, Chinese internet companies have been taking extraordinary advantage of the free U.S. market. The Chinese internet company giants such as Alibaba, Tencent, Baidu, JD.com, all came to the U.S. and were given full and unrestricted access to the American markets, including capital markets. In 2018, thirty-three Chinese companies went public in the U.S. and in 2018 raised over $9 billion, most of the companies are internet tech companies. China refuses to grant the U.S. any true reciprocity in the internet arena. This unfair and detrimental trade practice should be a priority in the current trade negotiations with China.

ここで言われていることは極めてまっとうな内容である。更に、この寄稿の重要性はその内容だけでなく、発表されたのが5月4日だったということも注目に値する。というのも、これは五・四運動が始まった日付なのだ。

五・四運動は、日本の帝国主義的侵略に対する抗議であったと同時に、西洋的な自由を求める運動でもあり、そのため劉暁波や楊建利たちは五・四運動のことを非常に重要視して来た。たとえば劉暁波は次のように述べている。

「五・四運動は下からの自発的な民間文化運動であった。発動者の大部分は民間の知識人であった。彼らは西洋から来た新しい理念、新しい価値、新しい方法を取り入れ、西洋の価値観を参照して中国の落後の原因を考えた」。(劉暁波『最後の審判を生き延びて』岩波書店)

先程の韓連潮たちの寄稿を読めば解るように、クレートファイアウォールが壊れれば、まさに五・四運動と同じことが今後の中国で起きるのだ。

今年は、五・四運動からちょうど100年の節目の年にあたる。そのため中国共産党は、非常に神経質にこの記念日を警戒していた。そして韓連潮は、まさにその5月4日に狙いを定めてこの寄稿を発表したのだ。

翌日の5月5日、トランプは突如として中国への制裁関税を従来の10%から25%へ引き上げると表明した。

そして、これは5月10日から現実に引き上げられた。

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