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副業ストーリーは必然に

終身雇用の終わりの始まり

 副業に積極的に取り組むことは会社に反することでは無く、むしろ環境の変化に沿った考え方だと思う。

 2019年5月、トヨタ自動車の豊田章男社長は記者会見で、「なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた。トヨタ自動車は日本の時価総額トップに君臨する大企業といえる。世界でも知られている大企業のトヨタ自動車ですら、日本型雇用システムの崩壊を示唆している。また、同じく2019年、当時の日本経団連の中西宏明会長は「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることは限界がきている」と発言した。日本の時価総額トップ企業と日本の経済界トップが、同じ時期に日本型雇用システムはもう維持できないと、世間に知らせることとなった。

 トヨタ自動車といえば、過去には奥田碩元社長が「経営者よ、クビ切りするなら切腹せよ」という言葉を残したように、社員のリストラには否定的であり、日本型雇用システムの象徴的な存在だった。そして、この奥田碩氏は経団連の元会長でもある。つまり、終身雇用について絶対的肯定の考え方を持つトップのいた組織が、どちらも終身雇用は厳しいという現実を受け入れたともいえる。

時代の移り変わり

 終身雇用の厳しさは2019年に始まったことでは無く、当然、新型コロナウイルスの影響以前からの問題であった。背景として、日本の高度経済成長期には地方から上京した人も含め全員が企業に勤めることが当たり前となっていった。この時代は【家業を継ぐか、都会へ出るか】といった選択を迫られ、稼ぎを考えると都会へ出るしかないという時代であった。他の企業に雇われることは禁止事項ではあるが、逆に企業に忠誠を尽くして働くことが正しい姿であり、年功序列制度のもとで働けば働くだけ給料も上がっていった。だから副業をするかしないか、副業を受け入れるかどうかではなく、副業という考え方がなかった。その代わり、終身雇用という日本型雇用システムはサラリーマンの特権とも捉えられていた。

環境の変化

 多くの学生が、厳しい就職活動を経て内定を得るために必死の努力をするのは、サラリーマンという地位を得て、終身雇用という安定を得るためともいえる。この安定は法律によっても保障されているというのが従来の常識だった。しかし、経団連やトヨタ自動車は解雇規制という常識が現実的ではないことを「終身雇用は厳しい」と表現していると考えられる。
サラリーマンの特権であった日本型雇用システムが成り立たない理由として、以下の3点を挙げてみた。
 ①日本の経済成長がほぼ止まったこと
 ②人口の伸びが止まったこと
 ③少品種大量生産の時代が終わったこと
 
 要するに環境が変化したのである。これまでは自社への忠誠を求めてきたのに、一転して、別会社への転籍を積極的に推奨したりする動きも現れている。やんわりとしているがリストラである。

副業という考え方へ

 社会が変わる中では事業の転換も求められるようになる。それに合わせて求められる人材も変わり、【長く会社にいただけ】の人を変えるよりは、その時代に合った優秀な人材を採用したほうが良いと、企業が考えるのは自然と思うし、激変する環境に対応するには日本型雇用システムが足枷になっていると感じる。

 企業が副業を容認したり、個人のスキルアップを推奨したりするのは、終身雇用は約束できないが、社会で生きることをサポートするという考え方の表れのようにも感じる。しがみつくだけの人材には辞めてもらいたい。その自立を促すための副業なのだ。だが一方で、自らスキルアップができる人材は、自社でも成長が期待できるし、環境の変化に対応できる【辞めてほしくない人材】のはずである。そして令和の時代において、そんな優秀な人材は副業という考え方に前向きなのだ。

副業から拡がる大きな社会(未来)

 昭和の高度経済成長期から不況を経験した平成も終わり、令和の時代になった。時代と環境が変わる中で、昭和と同じ考え方は通用しないと予想できる。収入アップを目的としても良いし、そのために最初は無収入でも良いかもしれない。副業に取り組み、考えて行動し、従来の仕事では経験できない知見を得る。大企業のような【大きな会社】という【小さな社会】では見ることのできない世界を副業は見出してくれる可能性がある。終身雇用というストーリーは幕引きへと向かっていると想定しておくべきだろう。

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