見出し画像

文章が苦手な人へ 原稿を書きたくなかった新人記者の頃に学んだこと(1)

ここ数年、大学生や高校生に向けて「分かりやすい文章の書き方」という講座をする機会が増えた。

ただ、私は文章がうまいのかというと、それはない。

だから教えられる。

講義の最初に必ず、「私の話を聞いても作家やライターになれるわけではありません」と断りを入れる。そして言う。

「でも、文章が苦手という人には参考になると思います。うまくいけば苦手意識がなくなるかもしれません。なぜなら、文章が苦手だった私が実践してきたことだからです」

アドバイスするのは次の5点だけだ。

❶主語を明確に書く
❷書き出しにこだわる
❸具体的に書く
❹ムダな言葉を省き、簡潔に書く
❺推敲する

個々に説明する前に、記者になった頃の話を書く。

私は大学4年の時、スポーツに関わる仕事がしたいと、いくつかの候補から日刊スポーツ新聞社への入社を決めた。内定の連絡をもらったときは嬉しかった。

バルセロナ五輪の年で、テレビで選手の後ろに記者が映ると「来年からは、こんな舞台で仕事ができるのか」と思い、プロ野球のヒーローインタビューを聞きながら、自分なりの質問を考えてみたりもした。

心を躍らせながら、翌年の入社を待ち焦がれていた。

ただ、想像していたのは「取材活動」の部分だけで、その後に「原稿を書く」ことまで考えていなかった。あとから思えば、あまりにも考えが足りないのだが、試合を見て、インタビューするところまでしか想像できなかったのだ。

入社して、すぐに「しまった」と思った。研修でワープロを渡され、時間内に業務日誌を書くなどの課題を与えられた。私はワープロを使ったこともなく、人さし指だけでキーボードをたたいていたので、とても時間内には間に合わない。内容もひどいものだった。私のレポートを読んだ上司に「フッ」と笑われたこともあった。

現場に出るようになってからも、取材時間は楽しくて仕方がなかったが、原稿を書くのは苦痛だった。何度も書き直しを命じられ、それでもボツになった。

しかし、改善の努力すらしなかった。どうしたって自分の筆力が向上するとは思えず、上司の指導も上の空で聞いており、半ば真剣に「取材だけして、原稿を書かずに済む方法はないのだろうか」と考えていた。

そんなとき、高校野球の取材で強豪校のエース、A投手と親しくなった。普段は無口な選手だが、年齢が近かったこともあって気を許してくれたのか、次第に話をしてくれるようになった。

高校に入った直後は、体力、技術とも同級生に大きく遅れていたこと。レギュラーを目指すのではなく、ただ、チームの足手まといにならないよう自主練を続けたこと。突然、監督から先発投手に起用され、「誰よりも努力してきたのだから堂々と投げてこい」と言ってもらったこと。試合で打たれたときに仲間から励ましてもらったこと……

ポツリポツリと口にする話を聞きながら、初めて「記事を書きたい」と思った。彼の活躍とともに、その思いを記事に書きたくなった。

しかし、努力を放棄していた新人記者にチャンスは巡ってこなかった。何度も上司にアピールしては却下されているうちに、A投手は県大会の決勝で敗れて甲子園には届かなかった。10行ほどの短い記事を書くのが精いっぱいだった。

A投手の思いを記事にできなかった悔しさから、原稿を書く努力をしようと決意した。ただ、「うまくなろう」とは思わなかった。「せめてボツにならない記事を書けるようになろう」と、つつましい目標を立てた。

先輩記者が書いた記事を読みながら、「ボツにならない記事とは?」を研究した。1面記事を毎日ワープロで書き写していた時期もある。

しばらく後に出した答えが「ボツにならない記事=分かりやすい、理解しやすい記事」だった。もちろん新聞なので記事の内容が重視されるわけだが、筆力という意味においては、この1点だと考えた。

では「分かりやすい、読んだ人が理解しやすい記事とは何か」を考えたとき、先に書いた5点が大切と気付いたわけだ。

❶主語を明確に書く
❷書き出しにこだわる
❸具体的に書く
❹ムダな言葉を省き、簡潔に書く
❺推敲する

以来30年以上、ずっと基本はここにある。もちろん多少レベルが上がっているので考える内容は変化しているが、基本は変わらない。

新聞とウェブの違いについては、プロフィールにも書いたように、まだ勉強中で、工夫の差は間違いなくあると思う。ただ、「分かりやすい文章」という観点において、基本は同じだと考えている。noteを読んでいても、それは感じる。

次回、各項目を具体的に説明していきたい。このようなnoteを書くことによって、私自身がウェブメディアにも対応できるライターになるため、これまで学んだことをアップデートさせ、少しでも成長したい。(つづく)