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苔むしたお地蔵さんをきれいにしたら素顔がある人に似ていて驚いた話

実家のすぐそばに物心ついた頃からそびえている名前を知らない大木がある。
子供の頃は葉っぱが青々と茂っていて、春になるとよく毛虫が降ってきていた。
その大木の根元には石垣が組んであり、お地蔵さんが鎮座している。

家を出ると、必ずお地蔵さんの前を通るのでこれまで何千、何万回とその顔を見ているはずだった。

「うちの前のお地蔵さんってこんな顔だったっけ?」

空き家になってしまった実家の掃除に一緒に帰った妹と、久しぶりにお地蔵さんの顔をまじまじと見ていたらなんだか昔と顔が違う気がする。

顔にまで生えた苔のせいかもしれない。

あるいは、帽子も前掛けもなく寒空の下で放置されていたからかも。

祖母が健在だった頃は、正月の前になると新しい帽子と前掛けを足踏みミシンで作ってくれてお地蔵さんの衣装も新調されていた。

祖母が亡くなってからは、近所の人がたまに作ってくれていたけれど最近はみんな高齢になったり、亡くなったりして作る人がいなくなってしまった。

それでも正月になると、しめ縄をお供えして鏡餅を飾ったりしてくれるおじさんはいるので、やっぱり近所の人からも大切にされている存在みたいだ。

ただ、おじさんも服を作ってやることはできないので最近のお地蔵さんはいつもはだかんぼの吹きっ晒し。

いつの間にか顔にまで苔がびっしり生えていて、お地蔵さんの人相を変えてしまったのかもしれない。

「なんか苔のせいで泣いてるみたいに見えるね」
「苔をなんとかしよう」

久しぶりにあまりすることもなくなったので、妹と2人でお地蔵さんの掃除をすることにした。

実は前日に、お地蔵さんの頭が寒そうだなと思い余っていた毛糸でニット帽を編んでいた。
どうせかぶせるなら、綺麗に掃除してからにしよう、ということで簡単ではあるけれどできる限り2人で磨いてみた。

苔をたわしてこすり取って、水で流し、キッチンペーパーで拭いて乾くのを待った。

「そろそろいいんじゃない?」

妹と綺麗に乾いたことを確認してから、お地蔵さんにニット帽をかぶせて、待ってる間に編んだマフラーを巻いた。

「うんうん、いいんじゃない?」
「うんうん、いいと思う!」

思わずお地蔵さんの写真を撮った。
その写真を家の中であらためてじっくりみて驚いた。

「なんかさ、お地蔵さん綺麗にしたらばあちゃんに似てない?」
「それ私も思ってた〜!!」

苔ではじめはわからなかったけれど、ニット帽を被ったお地蔵さんは頬がふっくらしていて元気だった頃の祖母にとてもよく似ていた。

帽子と前掛けを作っていた祖母の面影と重なって、2人でなんだかうれしくなってしまった年末最後の帰省なのでした。

亡くなった祖母が近くに感じられてうれしかったなあ。



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