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ガールズバーの子に話をきいてもらった

リモートワークを始めてから、この1月で2年が経った。

仕事での打ち合わせもオンライン会議で済むため、この2年間ほんとうに人と会っていない。一週間のうち、話したのは夫だけ、という日がほとんどだ。

きわめつけに昨年、知り合いゼロの道北部に引っ越し、友人のいる関東圏から離れたことから、親しい人と対面で話す機会も激減した。

「ここ数日、夫の顔しか3Dで見ていない……」
しばらく買い出しにも行っていないと、そんなときもある。


そんな隔離生活を送っていると、夫以外との会話に苦労する。

ある日、夫の職場の飲み会に私も参加した。

「はじめまして~」
「〇〇君(夫のこと)の奥さんだよね!」
「そうです!」
「こっち来てお仕事してるの?」
「えと、ライターをしてまして、」
「え?ライター?(火をつける動作)」
「えと、違います、こっちです(タイピングをする動作)」
「へえ~どんな文章を書いてるの?」
「え~と求人広告とか、たまに取材して記事を書いたりとか……」
「ふ~ん(よく分からなそうな顔)」
「……」

なんだこの返しは!
せっかく私に話題を振ってくれたんだから、もうすこし面白く話せないのか!?

話しベタになっている。
これは、リモートワークで雑談の時間が減ったことや、友人と気兼ねなく話す時間が減ったことに原因があるに違いない。


夫の職場の人たちとは、毎週のように会うわけではない。だからこそ、一回の飲み会でいかに自分を面白く表現できるかの短期決戦でもある。

自分を表現するには、一言一言の重みとインパクトを強めなければならない。分かりやすさを重視しつつも、ユーモアがあるワードチョイスをしながら、ツッコミどころを残す一言をくり出さねばならぬ……。

それがどうだ。せっかく呼んでもらったのに、この飲み会で何も爪跡をのこせていない。今日の飲み会で自分のことを記憶してくれている人が何人いるだろうか。そんな『お笑い向上委員会』に出た後の芸人のような気持ちになる。

この2年で飲み会の回数が少なくなった分、一回一回にかける思いが強くなっている。

とにかく帰り道は反省会。

自分の会話レベルの低さがくやしくて、会話を思い出しては、道端にたまるまっ白な雪にダイブしながら帰る。

そうして雪まみれになりながら帰る私の様子を、夫がスマホで撮影しておもしろがる。


ある日、夫と飲みに行って、2軒めにガールズバーに入った。

夫が仕事の付き合いで何度かガールズバーに行ったことがあると聞いていたので、私も行ってみたいと思っていたのだ。お色気ムンムンの女の子たちがいるなら夫に行くのをやめてほしいし、単純に、どんな空間だか興味もあった。

入ったお店は限りなく飲み屋寄りのガールズバーだった。私のイメージしていた、おじさま達が集う場所ではなく、若い男女もソファ席に座ってカラオケを歌っている。

このあたりのガールズバーやスナックは、女の子たちに会える場所というよりも、まだ飲み足りない者たちが二次会の場として集う場所という位置づけらしい。

私たち夫婦は、カウンターに座った。カウンターには何人かの女の子たちがいて、お客さんと話している。

ガールズバーの女の子たちってすごいよなあ~。お客さんと楽しくお話するのってめちゃくちゃ会話力要るんだろうな。

そんな風に考えていると、バーカウンターにいた女の子の一人が注文を聞きに来た。

注文を通した後も、その子はスムーズに話題を広げていく。

私たちが移住してきたこと、ときどき東京と行き来していることまで話を聞き出すと「このサイトでチケット取るといいですよ!」と格安の旅行サイトを教えてくれた。

こちらの話を聞くばかりではなく、自分の話もうまい配分で織り交ぜながら話すので、彼女の人間性も垣間見える。話す・聞くの比率がちょうどよかった。

会話とは「自分をどう見せるかというアピールの手段」ではなく「自分も相手も双方を楽しませる方法」だということを彼女から学んだ。

帰りに、その子から名刺をもらった。

「連絡してくださいね★ 今度ごはん行きましょ!」
と言われ、嬉しかったものの、シラフになってから「いやいや、これは営業トークだ」と思い、その後は連絡しなかった。


ある晩のこと。夫は飲み会に行っていて、もう寝ようかなと思っていた時、そのガールズバーの女の子から急にLINEが入った。

「LINEがなかなか来ないから、旦那さんから連絡先聞いちゃいました★」
「今度ごはん行きましょう^^」

夫が二次会で先日のガールズバーに行ったらしく、そこでLINEを交換し、私の連絡先も共有したらしい。

あれよあれよという間に、私と彼女の2人でご飯を食べに行くことになった。

ここで浮上した思いがひとつ。

ひょっとしてこれは、世にいう同伴というやつなのか?

先日のガールズバーで、私の会話レベルを見定められ「あの人なら友達いなそうだしホイホイ来てくれるよね!私のお客さん候補ゲット~」ということで連絡してきたのか!?

ということはご飯はおごるべきなのか。そしてガールズバーに行くべきなのか。そんで、バーに行ったらシャンパン入れなきゃいけないのか?同伴ってよく分からないけど、そういう流れだよね???

そんな風に悶々としながらスープカレーを食べに行った。

会ってみるとその子は私をカモにしている様子は微塵も感じさせず、相変わらずやさしかった。話しやすいので、話し下手をリハビリしていることも伝えてしまった。「え~!じゃあもっとご飯行きましょう!」と言ってくれた。

一方で、やはりこれは同伴というやつなんだという確信が強くなっていった。

こんなに良くしてくれるってことは、やっぱり営業トークなんだよね……?

やっぱり、お客さんとして付き合ってくれてるだけだよね……?

そうだきっとそうだ。
であればこの場はおごらなければならない。

話し相手になってくれてありがとう。

この恩は、お金でしか返せない!!

お会計のタイミングになり、払うよ!と伝えると、やっぱり「いやいや!払いますよ!」と言ってくれる。断っても、いいですいいです!というのでじゃあ端数だけお願い、と言った。やっぱりやさしいな。

お店を出ると、ごちそうさまでした!と彼女が言う。

いいんだよいいんだよ。よし、お店はどっちだっけ、と言いかけた途端。

「じゃあ私こっちなんで!ここから帰れます?」

ん……

えーと。

「……帰れる帰れる!」

「じゃあまたご飯行きましょうね!今日はごちそうさまでした!」


あ、同伴じゃなかったみたい!!!


心の中で「本当にごめん」と彼女に伝え、家に帰った。

それからは、時折彼女の出勤前にご飯に行くようになった。

まん防が発令され、彼女ともまたご飯に行きにくくなる。

早く感染拡大が落ちつくことを願っている。

じゃないとまた私の話すのが下手くそになるから!!!


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