第二十二話 卒業試験

元勇者と元魔王の家で過ごして2週間ほどがたっていた。
その間も毎日魔王国の動きを確認していたが物資や小隊規模程度の出入りはあるものの、大きな動きはなく、反乱軍の活動も小規模で輸送部隊の物資を奪うことがあるものの体制に影響するほどの大規模の動きはなかった。

ルーカスとマヤはユウキの鍛錬を行うのと同時に、ブレンダ、マヤ、ケイトリンにも稽古をつけていた。

「さて、いよいよ卒業試験だ」
ルーカスは目の前に立っているブレンダとケイトリンを見ながら言った。

「はい、よろしくお願いいたします」
「がんばります!」
ブレンダとケイトリンは順に意気込みを持って返事をした。

「はっはっは、そう意気込まなくてもよい、私は常に君たちを見ているのだからどの程度実力がついたか、私にはよくわかっている。この試験は "君たち自身がどのくらい力をつけたのかを理解する” ための試験だよ」
和やかな雰囲気をだすルーカスに二人は「はぁ」と気の抜けた返事をした。

「あんたたち全然わかってないわね〜、まぁ楽しんでやってみなさいな」
なぜか上から目線のミケがそう言うとお気に入りの場所で丸くなった。

「さて、卒業試験は『お互いに本気で打ち合い』をしてもらおう。
ブレンダもケイトリンも、これまで練習用の木の盾と木の片手剣、ケイトリンは木製の小太刀を訓練で使ってきたわけだが、それらを使って二人で本気で打ち合う。ただそれだけだ」
ルーカスは卒業試験のルールを説明した。

「つまり、今までの組手とどう違うのですか?」
ケイトリンは首をかしげて聞いた。

「うーん、今まではあくまで組手、稽古だ、今日のは真剣を使わない真剣勝負だ。意気込みが違う」
真面目にルーカスは言った。

「ええっと、つまり、真剣を使っているつもりで勝負をすると」
ブレンダはまだ納得をしていない様子で言った。

「ああ、そうだ。真剣を使っているつもりではなく、真剣を使って真剣勝負するのだよ、ちょっと貸してごらん」
そう言うと、ブレンダの剣と盾を預かってマヤに向ける。
マヤは無言で手をかざすと、木剣と木の盾だったものが、真剣と鋼鉄の盾に変化した。

そして、ルーカスは足元にある薪を一つ手に取ると手に持った剣の刃に押し当てるとまるでチーズを切るかのようにスライスした。

「これは!」ブレンダとケイトリンが驚く。

「まぁ、こういうことだ、今まで木剣だと思っていただろう。実は最初から真剣だったのだ。最も刃を落として切れないようにして、見た目を木剣のように見せていたのだ」
ルーカスは、ケイトリンから小太刀を預かってマヤに真剣に戻してもらいながらながら言った。

「さあ、これで真剣勝負の準備は整った、肉体が切れることはないが、服などは切れる。もちろん当たればそれなりに痛いぞ」
ルーカスはニカっと笑いながら言った。

「なるほど、最初から木剣ではなく真剣を使っていたのですね、しかも先程の切れ味はかなりの業物ですね……」
ブレンダは刀身をじっくりと見ながら言った。

「ああ、それが卒業のプレゼントでもあるぞ、ふたりともしっかり自分がどのくらい強くなったのか確認するんだぞ」
ルーカスはそう言って二人にいつもの組手のように準備に入るように促した。

「えーっと、魔法は使ってもよいのですか?」
不意に思い出したかのようにケイトリンは聞いた。

「ほう、ブレンダ次第だがどうする?マヤと私がいるから死ぬことはないし、大怪我もしないだろう」ルーカスはブレンダに振る。

「魔法でもなんでも使っていいぞ、手加減など考えていたら私が叩きのめす、私も手加減はしないからな」
ニヤリと笑って盾と剣を構える。

「では、お姉様全力でまいりますよ〜」
ケイトリンも小太刀を構えた。

「なぁ、ばあちゃん、ケイトって剣だけじゃなくて、魔法も習ってたのか?」
ユウキはマヤに聞いた。

「ケイトはルーカス様から剣術と格闘術とお料理と家事全般、マヤ様からは、魔法と動物の使役法と美容法を教わっていました」
すぐ隣りにいたオリビアがマヤにかわって答えた。

「ひえー、アレだけ家事と料理もしていたのにそんなにやれる時間があったのか。でもそんなにたくさんやると中途半端にならないのか?」
ユウキは驚きの声を上げた。

「もちろん初歩をまんべんなくってところをやっただけよ、でもケイトちゃんはコツを掴むのがうまくてすぐに必要最低限のことを抑えてしまうの、そして、その必要最低限を組み合わせるのがすっごく上手なのよ〜」
マヤはやんわりとした声で答えた。

「では、はじめっ!」
ルーカスの声が響いた。

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