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行政からの不動産取得

1.はじめに

国や地方公共団体(以下では便宜上「行政」といいます)が所有する土地などを、個人が払い下げを受けて自宅敷地の一部として利用としたり、不動産業者などが取得して開発を行ったりすることがあります。

特に近年は、行政の所有土地が有効に活用されていないという現状に問題意識を持ち、積極的に有効利用や処分をする方針をとっている都道府県・市町村もあります。

最近のニュースで、静岡県掛川市が本来売却してはいけない市の所有地を不動産業者に売却したことが問題となっているとの報道がありました。

具体的には、掛川市北西部の住宅団地「家代(いえしろ)の里」で、市が行政財産として確保しなければならない緑地を、市内の不動産業者に売却してしまい、市は緑地の返還を求めているが、不動産業者は既に開発を進めてしまっていたため、市に対して損害賠償請求をしているというものです。交渉では決着がつかず、現在、裁判で争われています。

2.行政財産について

このような事件が起こってしまった原因としては、市が、本来、行政財産として管理しておかなければならなかったにもかかわらず、普通財産として管理してしまっていたことにあるようですが(市もこの点の落ち度は認めています。)、その前提として行政財産や普通財産という概念を確認しておきたいと思います。


⑴ 地方自治法の規定

行政の財産の範囲については、地方自治法にその定めがあります。一応、関係ある条文を列挙すると次のようになっています。

【第238条1項】「この法律において「公有財産」とは、普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(基金に属するものを除く。)をいう。
一 不動産
二 船舶、浮標、浮桟橋及び浮ドック並びに航空機
三 前二号に掲げる不動産及び動産の従物
四 地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利
五 特許権、著作権、商標権、実用新案権その他これらに準ずる権利
六~八 <省略>」

【第238条3項】「公有財産は、これを行政財産と普通財産とに分類する」

【第238条4項】「行政財産とは、普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産をいい、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産をいう。」

【238条の4第1項】「行政財産は、次項から第四項までに定めるものを除くほか、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない。」

【238条の4第6項】「第一項の規定に違反する行為は、これを無効とする。」

以上をまとめると、行政の財産の一つである不動産は「公有財産」であり、「公有財産」は、「行政財産」と「普通財産」に分けられます。そして、「行政財産」は、原則としてこれを売却することはできず、もし売却した場合は無効となります。


⑵ 掛川市の事例の場合

上記の地方自治法の規定によれば、前記の掛川市の事例では、行政財産である緑地を売却してしまっているので、この売買契約は無効ということになります。

無効になるということは、売買契約は初めから無かったものとなりますので、不動産業者は市に土地を返還し、市は不動産業者に代金を返還することになります。

もっとも、不動産業者は、今回購入した緑地を普通財産であると思って購入しており、しかも不動産業者が普通財産であると思ってしまったのは、市が普通財産として管理し、表示していたことが原因です。そして、不動産業者はそれを前提に開発行為を行っていました。

したがって、不動産業者としては、市に対して、既に支出した工事費用や手続費用、場合によっては開発後に得られるはずであった利益(逸失利益)を請求することになります。

実際に、現在行われている裁判でも、不動産業者は市に対して損害賠償請求をしており、市は不動産業者に対して緑地の返還を求めています。

この裁判の具体的な内容については、私も報道されている以上にはわかりませんので、確定的なことは言えませんが、おそらく、「緑地は市に返還せよ」、「市は不動産業者に対して売買代金を返還し、かつ、●●円の損害賠償を支払え」という内容の判決が出されるのではないかと予想されます(もちろん判決前に和解で解決される可能性はあります。)。

3.まとめ

このように、行政財産には通常の財産とは異なる規制がありますので、行政から不動産を取得(または賃借等)しようとする場合には、当該不動産が普通財産であるか取得する側としても確認しておく必要があります(上記の掛川市の事例では、確認したときに普通財産であると市から言われていたので、防ぎようがなかったかもしれませんが。。。)。


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