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ロシア軍の電子部品について(1)

おはよう人類。

昨年2月の開戦以来、終わりが見えないようなウクライナ戦争であるが、西側諸国が一致してロシアに対する軍需物資の輸出を制限しているにもかかわらず、ロシアの継戦能力は衰えが見えない。
戦争前から十分な備蓄を持っていたのか、あるいは国内で代替品が生産できるのか、はたまた何らかのイリーガルな方法で調達しているのかわからないが、その中でも半導体を中心とする電子部品に関しては、生産国が限られるため制裁の影響が最も出るはずなのに、意外と問題なく戦争が継続できている。

そういった疑問に対して、様々な研究機関や報道機関が考察を行っているのだが、今一つピンとくるものがない。そういうわけで、ロシア軍が使用する電子部品について、いくつかの事例を元にどのような部品がどう使われているのか考察してみたい。

初回では、戦闘機などに使用されるハイエンドの制御用コンピューターを例に、構成と部品を元に生産能力などを推察していくとしたい。

Su-35S戦闘機に使われるBaget-57

Su-35Sとは、Su-27戦闘機をベースに発展してきたロシアの主力戦闘機で、現在も量産が継続されている機種となる。Su-27は、当初はソビエト防空軍向けに設計された防空戦闘機だったが、複座型で対空攻撃ミッション機能も付与されたマルチロール機のSu-30系統に発展し、戦闘爆撃型のSu-34や艦上戦闘機Su-33などの派生型も現れている。Su-35Sは、Su-27系統の最終発展型で、第4++世代に分類される。Su-30譲りのマルチロールでありながら、単座型設計で、パイロット1人が攻撃任務をこなすために戦闘情報システムが大幅にアップグレードされている。
こういった特徴を持つため、戦闘情報システムは次の世代であるSu-57のミッションコンピューター設計の架け橋ともなっていて、初期のSu-57に搭載されているシステムもハードウェア的にはSu-35と共通のものが使われていると考えられている(ソフトウェア的にはもちろん違うもの)。

Su-35Sに使われているミッションコンピューターは、Baget-57と呼ばれている。WikipediaのSu-35の項目を要約すると、以下のような構成になっているようだ。

  • 基幹システムを構成するTSP16モジュールには1890VM8Yaまたは1890VM9Yaプロセッサを使用

  • Baget-57には、CPU21モジュールとその上位版のCPU22モジュールが使用されていて、CPU21は2個、CPU22は8個の計10個の演算モジュールで構成される。

Baget-57にTSP16モジュールが含まれるのか定かではないが、システムを供給するKorund-Mのカタログを見ると概ねこのようなスペックらしい。


CPU16モジュール。TSP16の異名らしい
紫色のチップが1980VM9Yaで、隣の黒の大きなチップが1890VG5Tまたは1890VG8Tと推測
  • 1890VM8Yaデュアルコアプロセッサを1個搭載

  • メモリ1GB以上、Flashメモリ32MB

  • VMEバスを採用しコントローラに1890VG5Tを搭載

  • RS-232、RS-422、IDE、IEEE1284の制御用に1890VG8Tを搭載

  • SATA、SDDインターフェース

  • グラフィックインターフェースとして、BTM23-502AまたはBTM-23-216Gと接続可能

外観からして、我々が普段よく目にするPC用のマザーボードとは違うのだが、これはVMEモジュールという産業用の制御システムでよく使われる規格で、航空機でもよく使われている。


VME64バスを使ったモジュール(Wikipediaより)

上の写真のように、CPUモジュールとI/Oインターフェースが同じ大きさのモジュールで構成されていて、バックプレーンを通じてキャビネットに収納されるタイプで非常にコンパクトだ。

ただし、CPU16モジュールのキャプションには、「第1世代のBagetファミリーの近代化のために設計」と書かれている。VMEバス自体が規格としてはあまり新しいものではないので、過去に設計されたシステムのアップグレードパスとして用意されていると考えるのが妥当だろう。新規のシステム設計で使われるものではないかもしれない。

続いて、CPU21モジュールとCPU22モジュールだが、こちらも似た形状をしている。

CPU21とCPU22モジュール
同じ写真使いまわしてる気がするが基板上の型番印字はきちんと違う


この二つのモジュールは、ほとんど仕様が同じだ。違いは、CPU21が1890VM8Yaプロセッサを、CPU22が1890VM8Yaプロセッサを使っているという程度の違いだ。共通するスペックを抜きだすと次のようになる。

  • デュアルコアプロセッサ2個を搭載し、800Mhzで稼働

  • 4GBメモリをオンボードで搭載

  • ROM領域として4GB

  • Sirial Rapid I/O 4X/1X規格のIOを搭載

CPU16と比較して基板の形状は同じようだが、バックプレーンとのインターフェースになるコネクタの形が違っている。おそらく、基板のサイズは同じでErocard規格(VMEとサイズが同じ)に規準していると思うが、インターフェースは別の規格を使っていると考えられる。推定だが、Sirial Rapid I/Oが使えることからVME64x規格のコネクタではないかと思う(従ってCPU16ボードとは物理的な互換性がないと推定される)

これらを組み合わせて、Baget-57が構成される。Baget-57のスペックは次の通りだ。

  • メインシステムとして1890VM8Yaデュアルコアプロセッサを2個から4個

  • 信号処理システムとして1890VM9Yaデュアルコアプロセッサを4個から6個

  • システム全体の処理能力として1TFLOPS

  • 最低でも32GBメモリ

  • 不揮発メモリとして500GB

  • システム全体の消費電力は640W

  • GOST RVオペレーティングシステムの各バージョンが稼働

Wikipediaの記述では、CPU22ボードは最大8という記述があったのだが、もしかすると派生型はそういう構成は可能なのかもしれない。


一旦長くなりそうなので後編に続きます。乱文ご拝読ありがとうございます。


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