楽曲について

My Man / written by Bernie Leadon
ご存知イーグルス、1974年発表の3rdアルバム「On The Border」に収録されたバラードです。作者はカントリー・ロック色の濃い初期イーグルスのサウンドを担ったギタリスト/マルチプレイヤー、バーニー・レドン。
難解な捻りが多いグレン・フライ&ドン・ヘンリーの作家チームと大いに異なる素直な言葉選び。彼のsongwritingは本職のソングライターには無い素朴な魅力を感じる、そんな隠れた名曲です。
ちなみにバーニーは1971年のイーグルス結成以前は、フライング・ブリトー・ブラザーズの一員として、カントリー・ロックのパイオニアとされるグラム・パーソンズと行動を共にしていました。カリスマ性の高いグラムを前年の1973年にドラッグ渦で失い、この曲は失意のバーニーがグラムに捧げた曲としても有名です。

曲を聴く前にイメージしたいこと

自我に悩んで集団の中で浮いてしまう人というのはどこにでもいるもの。そんな友人に、後悔しない人生を送るためにはとりあえず悩みはどこかに捨て去ってリラックスして、意地を張らず他人を受け入れてみようよ、と促します。
2ndヴァースはグラム・パーソンズについて。いろんなバンドに属すものの、場違いな雰囲気を出して荒らしては脱退を繰り返し、最後は自分自身が破滅してしまう。そんなグラムにこそ、バーニーはこの曲のメッセージを生きているうちに届けたかったのではないでしょうか。
ちなみにバーニーはちょうどこの曲がリリースされる時期から、カントリー志向が強い自身の音楽性と相反してロック色が強まるバンドの方向性に疑問を感じ始め、また高慢なドン・ヘンリーとグレン・フライともソリが合わなくなっていき、1年後に業を煮やしメンバーの顔にビールをぶちまけて「サーフィン行ってくるわ!」と言ったまま二度と帰ってこなかったそうです。自分で書いたこの曲が自分には響かなかった、ということで(笑)。
でもまあ、脱退後のバーニーは金儲け丸出しの再結成に勤しむ本家イーグルスを尻目に、マイペースな音楽活動を細く長く楽しそうに続けているので、自我を抑えて他人と同調するのは程々が良いということですね……それではどうぞ!

歌詞と対訳

Tell me, how do you FEEL?
教えてくれよ どんな気持ちだい
Like you're rolling so fast that you're spinning your WHEELS?
なんだか生き急いで 空回りしてるみたいだけど
Don't feel too bad, you're not all ALONE
なぜ悪い方に考えるんだ 君は孤独じゃない
We're all trying to get ALONG
僕たちみんな ずっと君の味方だよ
With everybody else trying to go their WAY
人それぞれ 思う道があるんだから
You're bound to get tripped, and what can you SAY?
君が行き詰まるのは必然だ 違うかい?
Just go along until they turn out the LIGHTS
ひとまず一区切りつくまでは 他人に協調してみないか
There's nothing we can do to FIGHT IT
無理に意地を張る必要など ないのだから

[Chorus]
No man's got it made till he's far beyond the PAIN
悩みなんて遥か彼方に追いやらないと うまくいかないよ
And we who must remain go on living just the SAME
悩んでも悩まなくても きっと僕らの生き方は変わらない

I once knew a man, very talented GUY
あいつの話をしよう とても才能あふれる男だった
He's sing for the people and people would CRY
あいつが歌うと 聴衆はみんな泣いたものだ
They knew that his song came from deep down INSIDE
あいつの歌は 心の奥底から込み上げていたからね
You could hear it in his voice and see it in his EYES
あいつの声や眼差しで 君もそれがわかったはずさ
And so he traveled along, touch your heart, then be GONE
行く先々で 人の心を揺さぶった挙句 いなくなった
Like a flower, he bloomed till that old hickory wind called him HOME
才能を開花させた後 故郷のヒッコリーが彼を呼び戻してしまったんだ

My man's got it made, He's gone far beyond the PAIN
あいつは名声と引き換えに 悩みから遠い彼方に行ってしまった
And we who must remain go on living just the SAME
生き残った僕らは きっと今までと変わらずやっていくさ

My man's got it made, He's gone far beyond the PAIN
あいつは名声と引き換えに 悩みから遠い彼方に行ってしまった
And we who must remain go on living just the SAME
生き残った僕らは きっと今までと変わらずやっていくさ
We who must remain go on laughing just the SAME
生き残った僕らは きっと今までと変わらず笑っているさ

  • ドン・ヘンリーは過去に、この曲は元々デュアン・オールマンについて書いた曲だったという発言をしているようです。フロリダ時代にバーニーとデュアンは接点があったようで、デュアンが死んだ1971年に曲の着想を得て、グラムの死をきっかけに完成に至ったという経緯かも?

  • turn off the lights だと単に消灯するですが、turn out the lights にすると消灯して何かを終わらせる、というニュアンスに変化するようです。なのでここは「一区切りつける」と意訳しました。

  • No man's got it made till he's far beyond the pain……直訳すると「苦悩を遥かに超えるまで、人は誰しも成功しない」ですが「遥かに超える」だと苦悩を克服するというニュアンスが出てしまうので、あくまでも克服はしないが彼方に追いやる、という表現にしました。

  • hickory wind……これはグラム・パーソンズがザ・バーズ時代に発表した彼の代表曲「Hickory Wind」にかかっています。曲紹介と対訳はこちらからどうぞ。

  • we who must remain……remainは「残る」「取り残される」といった意味ですが、1stコーラスと2ndコーラスでそれぞれremainされる対象が違います。1stコーラスは、悩み=PAINを遥か彼方に追いやって残った僕ら。2ndコーラスは、グラム・パーソンズに先立たれて残された僕ら。なので当然訳し方も変えています。全く同じフレーズのコーラスでも2ndヴァースの前と後で意味合いが変わるというのは、songwritingにおけるある種の技巧なのかもしれません。

  • 初期イーグルスの発展に寄与したバーニー・レドンについては、こちらの記事が詳しく、本稿においても大いに参考にさせて頂きました。ありがとうございます。


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