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美箔ワタナベ様 年賀状デザイン2024-箔押の階調表現-

こんにちは、ツジカワのデザイナーのアサノです。
去年に引き続き、今年も美箔ワタナベ様の年賀状デザインに携わりました!

去年とは?って方はこちらの記事からどうぞ!
美箔ワタナベ様 年賀状デザインについて①
美箔ワタナベ様 年賀状デザインについて②

株式会社美箔ワタナベ様「2024年 年賀状」

ピンク→緑に変化する偏光箔「TRUSTCOLOR®」を使用しているので
見る角度によって色が変化しています。
四方天金も「TRUSTCOLOR®」
紙は「リアクション-FS(パッションピンク)」
微細なエンボスの入った紙なので、箔押部にもニュアンスが

見た瞬間の、蛍光色のインパクトといったら!
年賀状の束の中でも、確実に目を引くこと間違いなしです。

絵柄面と天金は角度によって箔色が変わるので、くるくる傾けながらずっと見ていられます。

しかし今回、蛍光色と偏光箔の組み合わせを撮影するのが、ものすごく難しい…!!全然綺麗さがカメラにおさめられません!!!
実物で、この綺麗さを見ていただきたい…!



今年の年賀状ができるまで

今年の仕様は?

例年通り最初の打合せでは、美箔ワタナベ様から今回使用する技術を中心に、イメージを伺います。
今年は、

「箔押による階調表現」

ツジカワの営業とデザイナーは、一瞬ポカンとしました。

「階調表現」とは、いわゆるグラデーションのこと。
印刷やデジタルデータであれば、どんな色でもデザインソフトでちょちょいのちょいですが、箔押の世界は1色1版。グラデーションを作るには「網点」という手法を使うのが一般的です。

網点(あみてん)またはハーフトーン: Halftone)とは、グレイスケールやカラーの画像を限られた色数(例えば、白い紙上の黒い点など)の小さな点のパターンで表すことで印刷可能にしたものである。

出典:Wikipedia

網点がよく使用されるのは新聞紙。
最近はWEB版が多くなったかとは思いますが、新聞紙の白黒写真をよーく見てもらうと、細かい点々で濃淡ができているのが解ります。

で す が
箔押で「網点」って、なかなかに高度な技術なんです。

・版を作る時点で、細かいドットが欠ける可能性あり
・細かいドットは、箔が綺麗に転写されない可能性あり
・ドットの密度が高い部分は、余白が箔で埋まってしまう可能性あり
・厚みがあってふんわりした紙は、ドットの密度が高い部分で余白が埋まってしまう可能性あり

「版」「箔」「紙」「押し加工」
全ての要素が合致しないと、綺麗な網点は生まれません。

とはいえ、
データを作る分にはデザインソフトでちょちょいのちょいなので、「どんなデザインにしようかな~」程度に話を聞いていましたが、甘かった。

「網点以外の階調表現がやりたいんです」

エ?!

箔押の現場で「グラデーションを使いたい」というお客さんの声は多いものの、現状提案できるのは基本的には網点一択。他の表現も模索して、色んな技法から好きなものを選んでもらえるようにしたい、とのことでした。


仕様検討-表現方法-

ということで、まずはどんな表現をするか模索しました。

網点は点だから、線にしてみる…?
密度の詰め方ってどうすれば…?
二段腐食の方が細かくできるかも…?
線以外の方法は…?

検討した中から数点選び、実際に版を起こして箔押試作を行いました。

①②線幅の異なるグラデーション     
③ピッチの異なるグラデーション     
④⑤格子状の、線幅が異なるグラデーション
⑥ウロコ状の、線幅が異なるグラデーション

「③ピッチの異なるグラデーション」は、ピッチが広がりすぎるとグラデーションが解り辛く、使用できる範囲に制限があることや、線の密度を均等にするのが難しいという観点から。

「⑥ウロコ状の、線幅が異なるグラデーション」は、紙地と箔押し部分の色差が明確にあった方が、遠目から見たときにもグラデーションがよくわかるという観点から。

①②や④⑤のような、「線幅の変化によるグラデーション」を使用することに決定しました。


デザインに関して

今回の大テーマは「階調表現(グラデーション)」ですが、もう1つテーマがありました。それは、

「シンプルであること」

受け取った人が、その技術を「実際に使ってくれる」ために、どんな技術かがわかりやすく、使い方をイメージできるような見せ方がいいと、繰り返し伝えてくださいました。

技術職で常日頃ひとつの技術に向き合っていると、折角の機会だし、色んな技術を知ってほしい!という思いで『オススメ技術全部のせ!!』みたいなデータを作って、説明を難解にしてしまうことは、よく…あります……

シンプルにするということは、ただ絵柄の数を少なくすればいいわけではありません。一番大事な要素を見極めて、それが映えるように構成することが重要なので、試作を行いながら要望やイメージを伺い、デザインを作成していきました。


仕様検討-網点-

「線幅の変化によるグラデーション」の使用が決定したものの、従来の表現である「網点」も入れ込むことで、差異やバリエーションを見せるため、網点の使用も決定しました。

しかし、網点も、
ドットのサイズはどのくらいにするのか?
グラデーションの入れ方はどうするのか?

などの検討が必要だったので、これまた試作!

網点試作①(くくり線の有無)
網点のサイズが同じでも、
周囲にくくり線を入れると輪郭がくっきり。
網点試作②(箔色違い)
同じ版でも、色が違うと印象も異なります。
網点試作③(用紙違い)
左の方が柔らかい紙なので、
目の周囲のような網点の密度の高い部分は、隙間が埋まりやすいです。

全体にくくり線を入れると顔の印象が強くなりすぎてしまう、ということで、目の周囲だけにくくり線を入れることに決定しました。


デザイン決定

そして決定したのが、こちらのデザイン!
辰の身体のパーツによって、線幅などの条件を変えています。

紙と箔色の検討

デザインも決定したところで、次は紙と箔色を選びます!

「シンプルさ」が第二のテーマであるとはいえ、数多く届く年賀状の中で、目を引く要素は入れたい…!

「辰」だし格好良い路線?
箔は王道、金か銀?
最近アースカラーの紙も人気ですよね~
思い切ってド派手に?!
箔色…何色までいいですか…?

紙見本と箔見本をペラペラ捲りながら話し合い、突然盛り上がるツジカワ勢。

「「ピンク可愛い~」」

辰をリアル寄りなイラストにし、盛り込む要素もシンプルに仕上げた分、
紙色が蛍光ピンクというギャップは面白いのでは?!と、唐突にピンクをゴリ推すツジカワ勢。だって可愛い。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

<配色検討資料>
左上から右下に向かって、
色々盛り込みたい欲望が加速していく様をご覧ください。

デザイン案でおおよその方向性わかるとはいえ、紙の上で箔がきらめいた時の見え方はデータ上ではわかりません。どの組み合わせが目を引くのか、実際に何色かテストしてくださいました。

箔色:1色/紙地:白
箔色:2色/紙地:白
箔色:1色/紙地:蛍光色

蛍光色の紙は、1番左が「アストロブライト-FS(ストロングピンク)」
中央と右が「リアクション-FS(パッションピンク)」
同じ蛍光色の紙ですが、紙地に微細エンボスが入っているのが「リアクション-FS」

最後に宛名面のデザインを選んでいただき、全ての仕様が決定しました。

宛名面のデザイン

こうして何度も試作を重ねて、完成したのが今年の年賀状です。

去年の年賀状は美箔ワタナベ様の技術が光る仕様だったので、デザインの部分では比較的すっと進んだ印象がありましたが、今年は2社で頭を悩ませながら製作させていただいたように思います。

自社だけでは思いつかない発想が出てくるので、他の会社さんとの開発はとても勉強になります…!

今回の製作を通して、網点以外のグラデーション表現の片鱗を感じることができたので、ツジカワとしてもまだまだ検討を続けていくとともに、
様々な方が、箔押しによるグラデーションの表現方法を検討するきっかけになればいいなと思いました。

株式会社美箔ワタナベ様
貴重な機会をいただき、ありがとうございました!

美箔ワタナベ様HPはこちら:http://www.bihaku-w.co.jp/



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