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小説 詩篇 5篇

5

「私のことばに耳を傾けてください!主よ!
 私のうめきを聞き取ってください!
 私の叫ぶ声を耳に留めてください!」

こんな祈りと共に目覚めたのは、
二日酔いの朝だった。

昨日読んだ言葉が祈りとなったのだ。
本気で苦しいからだ。

初めての二日酔い。
こんなにも苦しいのか。

しかし、朝から祈るのも初めてだ。
苦しみもまた、良いこと、ともなんとか言える気もしないでもないこともない。
「私の王、私の神」
その響きは心地よかった。
僕はあなたに祈っています。

しかし、調子に乗りすぎた。
しかし、あんなに楽しい飲み会は初めてだったんだ。

あの女の子の名前は詩織と言った。
彼女は大学の聖書研究会という部活に所属しているらしい。
その部室に連れて行ってくれた。

その部室にいたのがあの男である。
とてもクリスチャンとも思えなかった。
大柄の髭面の男、ジョージと呼ばれていた。
その男に飲みに連れて行かれて今この状態なのだ。
今の気分は最悪だが、昨日の飲みの席は最高に楽しかった。

「おい、お前はほんまに神を信じてんのか?」
一言目がそれだった。

「ちょっと、ジョージさん!」
「いや、冗談やんか。ははは」
詩織ちゃんがツッコんでくれてよかった。
僕は固まってしまっていたから。

「自分は悪やという自覚はあるか?
 神は悪を喜ばないし、悪は神と一緒にはいられないんやて。
 やばくない?
 高ぶってる者、不法を行う者はあかん。
 嘘を言うやつ、暴力を振るうやつ、騙すやつ、
 全部俺やないか。どないせえっちゅうねん。なぁ?」
笑いながらマシンガンのように喋り続ける。

「信じるってなんなんやろなぁ?
 俺はな、おもろいってことやと思うねん。なぁ?」
何を言っているんだ。

「とりあえず、ようこそ!聖書研究会へ!
 怪しいのにようきてくれたな!はははは!」

そして三人でご飯に行くことになった。

こんなに楽しい夜はなかった。
めちゃくちゃ”おもしろ”かった。
なんて正直で、なんてよく喋る男なんだと思った。
でも好きになった。
この人は信頼できるとも思った。

「あなたのゆたかな み恵みにより
 あなたの家にぞ 我のぼりゆかん♪」
月夜の下で、ジョージが鼻歌を歌う。
聖歌なんぞを歌うのかこの男は。

「我、汝が聖なる 宮に向かいて
 汝を畏れつつ ひれ伏し拝まん♪」
「この聖なる宮が俺たち一人一人ってのが深いよなー!」
「え、、、?」
「なんや、知らんのか。
 聖霊の時代。キリストが天に上がった今の時代。
 俺らが神殿なんやで。
 俺ら一人一人が神の宮!教会!祈る場所やねんで!
 そんなんスーパーおもろいよな!」

「あっこの聖書の続きの箇所に、待ち伏せてる者がいるってあったやろ?
 誰やと思う?
 創世記4章で、最初に人を殺したカインに神は、罪が戸口で待ち伏せてる。罪はあなたを恋い慕うって書いてるやろ?
 それは女が男を誘惑するような意味やねんて。
 だから神の義、正しさ、それを教えてくれるのは聖霊で、聖霊によって導いてくれ!って求めてるねん」
博識なんかい、こいつ、、、

しかし、なるほど。
そうなると続きが納得できる。
『彼らの口には真実がなく、心にあるのは破壊」
死へといざない、嘘で騙すという。
罪を憎むのか。

ついにはジョージと肩を組んでゆく。
酔っ払って楽しい気分の中、大通りを聖歌を大声で歌いながら、、、
「あなたに身を避け 寄り頼む者
 永遠に喜びて 歌わせたまえ
 御名をば愛する 者を守りて
 彼らにあなたを 誇らせたまえ♪」

俺たちは無敵な気がした。


※フィクションです、よ。

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