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小説 詩篇 6篇

6

「主よ、僕を責めないで。
 僕を懲らしめないで。
 憐んでください。疲れました。
 癒してください。僕の魂が震えています」

疲れ切った体を、そんな祈りと共にベッドに沈めた。

学期末のテストだったのだ。
疲れてたんだ。
目の前で小さな紙を手渡しする場面を見て、また「あっ」と声を漏らしてしまったのだ。

集まる教室中の目。
先生に注意される彼ら。
こちらに向けられる敵意。
僕はいたたまれなかった。

そして、、、
よりにもよって僕がわからなかった問題の答えが目に入ってしまったのだ、、、
そして、終了間際、それを書いてしまったのだ。

テストが終わって、
また次のテストが始まり、
それも終わって帰路に着く。

だんだんと怖くなっていった。

神様が怒っているんじゃないか。
もう神様の顔を見れないんじゃないか。
もう僕は神様の子どもに相応しくないんじゃないか。

そのとき、
「自分が悪やと言う自覚はあるか?」
ジョージの声が浮かんだ。

「悪いこと、全部俺のことやないか。ガハハ」
その笑い声に心が少しだけ軽くなった。

その時ちょうど家に着いた。

玄関に立ったまま、
「あぁ、神様、いつまでですか。」
ポツリと祈った。

「神様、わたしのところに帰ってきてください。
 わたしの魂を助け出してください。
 わたしを救い出してください。あなたがもしわたしを憐んでくださるなら」
1人なのに声に出して祈った。
ポロポロと涙が流れた。

そして、ベッドに寝転んだ。
「死んでしまったら、、、
 いや、そしたらもう祈ることはできない。
 神様と完全に離れてしまったら
 もうそこには喜びはないだろう」

僕は泣き疲れて、
それでも涙は止まらず、
泣きながら眠りについた。

しかし、驚くほど深く眠ることができた。

朝、目が開けられなかった。
腫れに腫れていたのだ。

机の上の聖書が、風でパラパラとめくれるのを見た。
目を向けるとそこはマタイの福音書だった。

『すると、そのとき、ひとりのらい病人がイエスのところにきて、ひれ伏して言った、
 「主よ、みこころでしたら、きよめていただけるのですが」
 イエスは手を伸ばして、彼にさわり、
 「そうしてあげよう、きよくなれ」
 と言われた。すると、らい病は直ちにきよめられた」

そしてまた風が吹き、1ページめくれた。

「すると、人々が中風の者を床の上に寝かせたままでみもとに運んできた。
 イエスは彼らの信仰を見て、中風の者に、
 「子よ、しっかりしなさい。あなたの罪はゆるされたのだ」
 と言われた」

あぁ、、、!!

部屋を飛び出て河川敷まで走り出した。
走り出したい気持ちが抑えられなかったのだ。
とにかく走った。

そして一人言が誰にも聞こえないところまで来ると、少し大きめの声で、
「あぁ、神様!
 僕はゆるされたんですか。
 そうなんですか。
 どうなんですか?

 ああ、どうか僕の中の弱い弱い心よ。
 僕から離れていけ。もう罪を犯すな。
 神様が僕の泣く声を聞いてくれたからだ。
 僕の願いを、祈りを神は聞いている。受け入れてくれた!
 どうか僕を誘惑するものが、もう僕に近づかないようにしてください。
 誘惑しても跳ね除けられる強さを僕に与えてください!!
 神様、でも、本当に、ありがとう。ありがとう」

朝日が川に反射して、僕は瞬きをした。

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