日常の出来事。

中華料理屋に入ると、隣りのテーブルにはスーツを着たサラリーマン二人と女子社員一人。こちらが注文して待っていると、急に、部下と思われるお兄さんが立ち上がり、おもむろにシャドーボクシングを始めました。

線が細く、運動も得意ではなさそうなメガネのお兄さんが中華屋でシャドーをしています。熱くなった様子でスーツを脱ぎ、またシャドー。シャドーといえば、パーカーのフードを被り、オールスターのハイカットをぎゅうぎゅうに締め上げて生卵をジョッキでいく「ロッキースタイル」がこちらの身勝手な定番ですが、お兄さんはスーツで、卓には鶏のささみ、ではなく回鍋肉と麻婆豆腐、そして、そんな料理の上をネクタイがうねうねと通過しながら繰り出されるワンツーに次ぐワンツー。素人が見て素人だと分かるそのシャドーに、思わずゲキが飛びます。

「違う!もっと肩を入れて!」

声の主は上司、ではなく女子社員の方でした。熱が入り、立ち上がってワンツーを繰り出す女子社員。こちらも別段経験者といった雰囲気はなく、スカートであることすら忘れてスタンスをとり、シャドーの指導にいそしんでいます。なかなかの希有な光景に店内のお客さんの視線が集まる中、そんな部下二人の姿を、紹興酒片手にニコニコ見守っていた上司がこちらの卓に囁きました。

「こいつ、へっぴり腰なんすよ」

それはシャドーに対する言葉なのか、勤務中の様子なのか、判断が難しい囁きに、ああ、そうなんすか、と生返事を返すと、シャドーの手を止めたお兄さんが、運動後の高揚感そのままに、店内に響くメリハリの効いた声で言いました。

「あっ!ラブレターズの人ですよね!?」


それ以来、その中華には行けていません。


#芸人 #ラブレターズ #なる早で食べて店を出た

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