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「悲しみも抱きしめて歩けるように」

何度、そして何度も、この言葉に前へ踏み出す勇気を与えられたことだろう。



ASKAのソロシングル「あなたが泣くことはない」がリリースされたその年、90年代の日本の音楽シーンを代表するアーティストであったCHAGE and ASKAは、無期限活動休止を発表していた。

小学生の頃に「PRIDE」というアルバムが収められたカセットテープを聴き始めて以降、リスナーとして楽曲を聴いていた一人としては、様々なメディアを介して一情報を知った時、かつてない衝撃が走ったのを憶えている。

そして同じ年に、私自身およそ半年に渡って、精神的に沈んでいた時期があった。友人の一人を失ったというショックも勿論あるが、それ以上に、心に風穴が空いてしまうような出来事に遭遇してしまったのである。

下手すれば、当時通っていた学校を中退しようと、脳裏に浮かんでしまうほどだった。そう考えた時、誰にも打ち明けられないくらいに、心が擦り切れていたと思う。

そうした悲しい出来事に出会してから半年の間、自分がいったい何をしていたかを思い出せないでいた。

昔のアナログテレビに映っていた、白黒だけで成り立っていいた砂嵐のような画面のように、およそ10年もの月日が経過した現在もまったくと云ってもいいくらいに…。

そんな失意に満ちた中、当時使っていた携帯プレーヤーを介して、唯一無二と云っても良いくらいの楽曲を聴いていたことだけは、鮮明に思い出すことができる。


信じるものがあれば 痛みは耐えられる

ASKA「あなたが泣くことはない」


この言葉に何度涙したことだろう。家族が寝静まっている中、独り苦しみに踠きながら勉学に暮れる日々に追われ「ダメだ。もうダメなんだ。どんなに頑張っても、先が見えやしないんだ」そう嘆いていた自分が、どれほど救われただろうか。

これまでに幾度となく窮地に陥り、後々になって荒野と化した場所に追いやられてしまった時、そこに色鮮やかに咲く花に思わず見惚れてしまうような歌に、胸を打たれた記憶はない。

だからこそ、そこから数年経たあの事件を前にして、真っ向から否定したくなかったのだ。私自身これまで歩んできた人生の中で、たった一つの楽曲に心の底から救われた事実を。

その思いは今も変わることがなければ、この先一つも変わることはない。誰か一人によって煙たがられようと、無理やりにでも抹消したくないし、消されたくもない。

そして折り返し地点に入った場所で、無情にも藁にもすがる思いで、私は再びASKAの「あなたが泣くことはない」という楽曲を聴き始めている。

長きに渡って辛く過ごした日々を音に乗せて、少しでも柔らげるようにして忘れられるように。


やがて、これから待ち受けているであろう、自分自身の幸せを苦しめてしまわないように。

そして、どんな苦しみや痛みを手放すことができずとも、いつか抱きしめて歩けるようにー。

最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!