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自分の現在地

帰り支度を整えている。またしばらく戻れなくなるからこそ、忘れ物がないか今一度確認しながら、バッグやスーツケースに荷物を詰め込む。
長いようで短い夏季休暇が終わり、明日から通常の日常に、そして仕事に戻るため、ここで気持ちを切り替えなければならない。

だがあっという間に期間が過ぎてしまったこと、すぐにここから出なければならないと思うと、余計に心がナーバスとやらに襲われてしまう。
頭上に負の感情で埋め尽くしている靄を一刻も早く取り払わないといけない。

8月某日午後2時。これから私は、東京から実家に戻るのだ。

現在私は、東京で一人暮らしする目的の住居を構えながらも、地元の近くにある会社の営業所に勤務している。
それは東京の自宅から直接電車などで向かうのではなく、実家から車で通っている状態だ。

その自宅はまだ借りたまま、会社が休みと制定している土日を利用して、2~3週間おきに1回のペースで戻っている。今はこの場所から引っ越すどころか、引き払うことなど一切考えていない。

普通であればお盆休みや年末年始、それにゴールデンウィークといった長期休暇は、実家へと戻るのが世間としては一般的である。
だが上述の通り、私はその世間とは真逆の行動をかれこれ半年間以上し続けている。もしかしたらこの生活は、あまり考えたくもないが当分の間続くかもしれない。

 
なぜこのような状況に陥っているのか、普段からご愛読くださっている皆様に今、私の周りを取り巻く事情を伝えなければならない。

昨年の冬に差し掛かろうとしている頃のことだ。その営業所にいる事務員の親御さんが亡くなり、急遽地元の北海道へと帰郷したという話を、当時所属していた部署の上司から話を聞いた。

当然仕事を回していく限り、欠員は一日も早く解消しなくてはならない。その人数の埋め合わせとして、その営業所と同じ県内かつ同じ市内に実家がある私が派遣された。
それも、その事情を上司から知った翌週からだ。

当初は4ヶ月間を予定していた。もし最悪期限内にその事務員が戻らない場合は、そのまま異動になるということで、その場を一時的に合意した。

しかしその事務員は今年の3月ごろ、何の前触れもなく復帰してきた。所長ないし会社の幹部はこちらに事務員がいつ頃に復帰する旨の報告すらよこさず、その人が戻ってきた当日に知ったのだ。いったい上の人間は何を考えているのか、気が気でしょうがなかった。

2ヶ月前には突如、会社側が私に辞令を出してきたのだ。所長からそれを受け取ったとき、3月までの間だから大丈夫だと私を慰めるようにして述べていた。
このときの私は、果たしてこのままでいて平気なのかと、会社に対して疑わざるを得ない心情を抱えていた。

それに追い討ちをかけるように、4月の初旬ごろ幹部の一人が個人面談のためやってきた。面談でその人は私に「しばらく営業所にいてほしい」と突然言ってきた。
無論これには反論した。期間内に事務員は戻ってきたから欠員状態は解消され、これで私は戻れるはずではないか。これでは当初交わした約束とはまったく違うと。

だがその幹部は私が意見を一通り述べた後、すでにだんまりを決め込んでいた。

会社側は、その幹部の人間は最初から、地元出身の人間である私を営業所に異動させるつもりで動いていたのだろう。私の反論は虚しく、もはや馬の耳に念仏と等しい。いくらこの人に話をしても無駄だという結論に至った。
予想外の展開となってしまったこの事実を帰宅後に親に伝えたとき、むこうもある意味で動揺を隠せないでいた。

私はあの時素直に「ノー」と答え、会社の意向に反するようにして退職するべきだったのか。どのようにうまく立ち回りをすれば、自分にとって「正解」という道のりを辿ることができたのか。
いずれにせよ、状況は私の今までの人生の中で一番最悪な事態であることに変わりはない。

私が今いる現在地は、根無草と同じようにあやふやなものとなってしまった。


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