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SF創作講座の歩き方

こんにちは、ゲンロン大森望SF創作講座5期卒業生の猿場つかさです。5期ではゲンロンSF新人賞最終選考に残りました。また、5期ダールグレンラジオダールグレンラジオ賞をいただきました。6期では5期のゲンロンSF新人賞受賞者の河野咲子さんとダールグレンラジオを担当します。勢い余って6期に参加しているんじゃないかという噂があります…ゲフンゲフン

6期は1-5期の受講生も多いとはいえ、6期から参加される方も多く、勝手が分からなくて困る人もいるんじゃないかと思い。この記事を書きます。僕なりの6期生へのエールです。また、7期、8期、…、N期 (N ∈ 自然数)の受講を検討される方の参考になればうれしいです。

講座に参加する前は「SF講座ってSFマニアみたいな人がたくさんいてSFマウント取られて泣いて帰ってくるんだろうな…」と思っていたのが今思うと懐かしい。講師陣/卒業生含め、身構える必要のある人は全くいませんでした笑

TL;DR;
実作を書き、救われろ

SF講座の仕組み - 競争 / 切磋琢磨 / 運 - 

講座のページにあるように、講座では毎回課題が提出されます。実に残酷なことに、提出された梗概から3作(時に4,5作)が選ばれます。選ばれた梗概は次回で講師の講評を受けることができます。

選出の基準はゲスト講師の方々によってまちまちですが、基本的に各講師がA、B評価をつけ、高い評価が集まったものが選出されます。まれに講評の中のノリと勢いで選ばれる場合もあります笑

5期の中盤までは、評価の高いものから順番に講評され、箸にも棒にもかからなかったその他のものが名前順に講評を受けました(後に名前順の講評に変わった気もします。記憶があいましです)これがまあ、進学塾じゃないんだから…という感じで、トップ3本に選ばれるか、選ばれなかったとして全体の中で何番目に呼ばれるのかと思いながら講評を聞くことになり、なかなかにソワソワします。

情けない話ですが、トップ3本に選ばれてなくとも、自分が真ん中ぐらいだと少し安心したり(目線が低いw)、ドベだったりすると「気にしてない」と気丈にふるまいつつ、心が無になったりします。ぶっちゃけ、なかなかに緊張感があるので、講義の部分はまるで頭に入らなかったりします(講義 →講評の順なので)そういうときは仕事中にアーカイブを見かえすことができます。

愚直に面白いものを書くことを志すのはたしかによいのですが、よくも悪くも競争なので、同期の講座生の中での自分のポジショニングは考えるといいと思います。誰に似ているか、逆に、誰とは絶対に似ないか。など。誰のどこが優れているのか、逆に自分はどの点で勝てるのか等。去年の第1回の課題文にあるようにいまを生きる自分が、SFのアーカイブに何を加えることができるのかを考えるのは重要だと思います。講座の中でどうポジショニングするかもその一環だと思ったりします。

まあ、経験上、テーマ性が似ている人は講座の中にたかだか2、3人ぐらいしかいないと思いますし、同じお題に対してネタが被ってバチバチみたいなことになることはないんじゃないかなと思います。twitterで講座生の着想の動向とかしれますし、「あ〜あいつ同じネタだ〜」みたいになることがないとは言い切れません。が、結果としてネタが被ったケースを見たことがないので、変に疑心暗鬼になっても仕方ないと思います。むしろ、同じネタの料理の仕方で真っ向勝負するべきなので、書きたいものを書けばいいと思います。

受講生の梗概を読むことはポジショニングのためにもおすすめします。(※後述のように、梗概の分析のレベルをあげることが梗概の質を上げることにつながるので、読むことは何にせよおすすめです)

誰がどういう書き手なのか、何が強くて何が弱いのか、自分はそれを好きなのか好きじゃないのか。講座の評価はどうか、講座生の評価はどうか、世間(講座外からの評価)はどうか。などなど、一言二言でもまとめておくといいと思います。全部を読まなくてもいい。そもそもリーダビリティに問題があるものもあるし、面白くないものもある。合わない書き手のものもある。好きなものを二つ三つでよいので、目を通して良い/悪いを分析して、書き手に伝えるのをおすすめします。

3期卒業生のフジ・ナカハラさんが運営されている 裏SF創作講座のサイト で投票するのもおすすめです。投票することは自分の好き・好きじゃないを表明することであり、講座の一人の観客になり、誰かのファンになることともいえます。ファンになることで、他の講座生の梗概/実作へのコメントの精度も上がりますし、切磋琢磨する仲間になれるでしょう。

競争意識を持つことの裏返しとして、時に気持ちを暗い方へ誘う引力にやられそうになることもあると思います。箸にも棒にもかからないときや、すんでのところで選ばれなかったとき、ゴミのような気持ちに何度もなりました。自信満々で梗概を出して講座に行ったときなんかはなおさらです。僕は(妬み/悔しさなど含め)暗い感情は健全だと思います。オープンな場にぶちまけない限り。その感情にはだんだん慣れてきて、創作にプラスの方向にハンドリングできるようになります(多分笑、駄目だったら海でも見に行きましょう)点数で「あいつには負けたくない」と思うこともあると思うし、どんどん思っていくべきだと思います。負の感情が動いた分だけどこかでプラスにできるはず。

「七回目、転んだらone more time、次がチャンスだよ」

アンジュルム『七転び八起き』

今回は通常の梗概講評が8回あるので、まさに講座のためにかかれた楽曲ですね。

ある程度のレベルまで梗概を書く力を持っていけたら、後は運だと思ったほうが気が楽です(そもそも、講師陣の評価はあんまりコントロールできない変数なので)、採択確率は一定なので、あとは打席に立つだけ。とかいうと場末の陳腐なビジネス書やしょぼい経営者みたいでよくないですね。

梗概のレベルを上げていくには

運が良ければ選ばれる状態にするには、梗概のレベルを上げていかないといけません。ぶっちゃけ僕も梗概を書くのは得意ではないので、大層なことは言えないのですが。とりあえずアレな事を言うと、講座では"梗概の書き方"みたいのは教えてもらえません笑

この前4期の卒業生の式さんとtwitterで会話しましたが、たしかにそれはそうなのです(なんて無責任な講座なんだ笑、最高って感じですね)

ということで、講座本は目を通しておくと良いと思います。冲方丁さんと藤井太洋さんの章は個人的に何度も読み返しています。

また、選ばれなかった梗概の講評からNGパターンを学習することも大事です。ただ、愚直にNGパターンを網羅して避けようとするとがんじがらめで書きづらくなるので、ある程度パターンの抽象化をしないと辛いです。辛い。それNGって言ってたじゃん〜今回は評価されるのかよ〜みたいになります(が、大抵の場合はNGパターンを勘違いしていることによりますw)

個人的な反省をしながら、僕がやっていたことを少し書いておくと

  • 1200字しかないので、設定過多だとお話がなくなる。文字数は一つの基準になる。600字も設定に使ったら多い。モノによるけれど設定の量で300-400字も使ったら多いと思います。個人的には、必要な設定を箇条書きで書き下して、20行を越えてしまったらいらない設定を落とすなどしていました。

    • ただし、誰かに異常論文梗概はやってほしいので、狂った思弁で走り切るのもありだと言っておきたい。

  • やけっぱちのメロドラマ頼みはやめる

  • SFかどうかより、作品のリアリティレベルを気にしたほうがいい

    • リアリティレベルについては講座で口酸っぱくツッコミをもらえると思います

    • 変な話ですが、フィクションを書くということに自覚的でないと失敗します(僕はこれでかなり失敗していました)

  • いい感じの梗概(設計図)になっているかどうかを判定するのは難しいのですが(すぐにそれができれば苦労しない…)、それを元に実作を書いてみると案外分かる。上から下までスラスラ書けたら多分良い梗概です。途中で「この梗概を元にすると明らかに話の流れがおかしいので書き続けられない」とか「おもしろくねえな」と思ったら負けてます。なので、ちょっと手を動かしてみて、書いた梗概を膨らませてみて、良い/悪いの判定をするといいかなと思います。

  • なんか分かんなくなったら上手い人の梗概を見る。ただし、1期は文字数の関係(文字数オーバーばかりなので)であんまり参考にならないw

あとは、設定からはじめずに話し出すのは大事だと思っていて、下記の本は講座が始まる前に読めればもっと講座での話をよく吸収できただろうなとかは思います(当時は発売されてなかった)。情報の圧縮の仕方も書かれているので、梗概を磨く時に参考になると思います。

また、講座に講師として来てくださる(ゲンロンSF新人賞の審査員でもある)菅浩江先生のシラスの番組で、先生の作品を梗概に起こしたり、梗概の書き方について解説してくださっています。

僕も月会員ではないのですが、仕事中仕事の合間にほそぼそと見ています。

参考記事

5期の岸辺さんも梗概の書き方をまとめています。


また、"リアリティレベル"という単語が何由来の単語なのかはっきり言っていまだによく分かっていませんが、読んで多少なりとも参考になったものを貼っておきます。

何が言いたいかというと

諦めず鍛錬 やり抜いたって言い切りたい

アンジュルム『限りあるMoment』

ということですね。

実作教

「実作を書け、そうすれば、与えられるであろう。」

梗概のレベルの上げ方のところで書いたのですが、梗概を設計図だと思って実作を書いてみると、「この梗概全然クソだ」とか分かるので、(部分的にでも)実作を書くのはまじでおすすめです。クソな梗概を元にすると、本筋に関係ない描写を延々と続けたり、会話を続けたり、とにかく文字列の羅列を生み出すことしかできないのに気づくはず。

もちろん、フィクションは読み手に何らかの快楽を与えるものだという前提に立つと、小説的快楽を描写が与えるのだったら描写をひたすら続けてもいいですけど、それはあんまり梗概のレベル上げには寄与しない気がします。シーンやシーンの切り替わり、展開がスラスラと浮かぶか、浮かばないなら梗概のどこがおかしかったのかを考えると多少は梗概を書くコツがつかめてくると思います。

また、20000字を書いたことがない人がいきなり20000字を書くの結構しんどいと思います。というか、20000字にどれくらいのモノが入るのかがわからないと書けない。30分にどれくらいの映像が入るかわからないのにカメラを回し出せないのと同じで。

何がどれくらい入るかわからないと書き出すの大変なので、まずは長短色々な短編を読んで、文字数を数えましょう。組み方によりますが1ページあたりの文字×ページ数をして、余白の割合を適当にかければ分量がわかるはず…。

4000字くらいで好きな短編があったら、そこに何が入っているか把握すると4000字くらい書けるかなという肌感になるかなと思います。バゴプラは短めのSFが結構載っているので、好きなものを見つけられれば参考になるかもしれません。

4期卒業生、6期受講生の渡邉清文さんのゲンロンSF創作講座を受講する方へにもあるように、自主提出であっても出せば何かしらのフィードバックをもらえます。出さなければ誰も読んでくれないし、どういう書き手なのかもまるでわからないので(梗概だけじゃその人の書き手としての性質は一部しか伝わらない、AI好きなんだなとかは分かるけど)、講師/受講生に覚えてもらうためにも実作を出して救われるのがいいと思います。

そういう意味では、5期の第6回課題に対する実作講評は感動的な瞬間でした。このときは新たな実作提出者が数名いて、ポイントを取った人が多かったからです(本所あさひさん、岸田大さん、六角大輔さん)、1点でも実作でとるとだいぶ救われます。僕も5期第1回の自主提出実作で1点もらえたから頑張れたように思う。そういう感動的な瞬間に今年も立ち会えたら幸せだななどと思っています。

実作を書いていると自分の文体について思い悩むこともあるかもしれません。作品のトーンに合わせて選択する勢と独自の文体で読者を引き込む勢に分かれる気がするので、自分がどちらなのかは考えを持っておくと良いのかもしれません(自分の理想は何か、的な)

また、5期のダールグレンラジオでも文体に関するお便りがあったのでお便り会を聞いてみると良いと思います。他にも、。河野咲子さんが彼女自身のラジオで

文体について話しているので、こちらも面白いと思います。

SFってなんやねんとなったら

SF評論など沢山積読をして分かったふりをして講座の間を耐え忍びましたが、結論としてはどんなネタでもSFにしてやるという気概に勝るものは無い(何を言っているんだ)という結論に思い至りました。

SF講座だからSFにせねばと無理をするとドツボにハマるっぽいので、自分の書きたいものを書く(ただし、フィクションとしてのリアリティレベルに気を使う)ということで、おもしろい小説を書けるようになればいいんじゃないかと思います。

ちょっと乱暴すぎてアレなので、一応参考になりそうなリンクを置いておくと5期のダルラジの小浜さんゲスト会は勉強になります。

また、各期の最終講評会の動画はYouTubeに上がっているので、それを見るとSFの新人賞の講評でどういう点が見られるのかが分かると思います。

また、SFのファンダムについてや日本SFの歴史について理解することは、自分のポジションを確認する意味でも良いのかなと思います。

とはいえ、究極的にはフィクションへの愛さえあればなんにもいらないのだと思います。

講座に溶け込み、講座を使い倒そう

講座の周辺では非公式な活動がたくさん行われています。ダルラジもその1つですし、やんぐはうすラジオもその1つです。

講座生が入っているslackもありますし、6期生だけのslackを作ってそこで感想交換をするのもいいでしょう(5期は結構slackで感想交換をしていました)

講座生同士の感想交換会も有志で行われています。今年も誰かが主催者になって実施するといいと思います(僕は主催者ではなかったですが、ノウハウは引き継げます)。去年はオンライン開催だったのですが、ワクチン接種などが済んでいれば個々の判断でオフライン開催でもいいと思います。

また、講座以外の作品の感想交換会なども行われています。卒業生の方がTwitterで開催予告をしていたりするので、気軽に声をかけてみましょう。作品を読み感想を述べ合うことで、何よりも距離が近くなります。

また、ときおりクソリプの応酬も行われています。

SF小説の読書会や古典名作SFの読書会なども行われているようです。講座の受講料は決して安くないので、積極的にコミュニティに入り込み、プレゼンスを出していくと良いと思います。

感想もどんどんTwitterやnoteに公開して、時にバトったら良いと思う。

モチベーションを保つには

さて、つらつら書いたけれど、SF講座は1年くらいの長丁場なので、モチベーションを保つのはそれなりに難しいとは思います。講評で心を折られ、次回の課題のアイデアも浮かばず、もやもやして読書もできない(というか、読書時間を削られます笑)なので、やや部活的な方法ではありますが、モチベーションの保ち方を軽く書いておきます。

目標点を決めよう

年間目標を決めるとよさそうです。僕の場合はゲンロンSF新人賞の候補に残ること(候補に残らなければ受賞確率0なので)と、実作を毎回提出するの2つでした。目標の具体的なイメージをふくらませるために、最終講評会の動画を定期的に見返して「あの夢の舞台に立つんだ」と意気込んでいました。1回は選出されるとか、2回の選出をされるとかでもいいと思います。

自分が乗り越えるべき具体的なテーマを設定してもいいと思います(人間以外を主人公で書く、百合を書く、二人称小説を書くとかでも)

毎回の講座の目標に関しては、当然選出はされたいわけですが、A評価を1つはもらうとか、〜先生の評価をもらうとかを目標にしてもいいと思います。

好きな先輩を見つけよう

講座には先輩がたくさんいるので、いくつか梗概や実作、プロデビューされている方の場合は著書などを読んで憧れるのが良いと思います。名前は出しませんが、僕にはこの先輩はすごい、こうなりたい。良いところを取り入れたいと思う方が2、3名います。プロ作家を好きになるよりも距離感が近いのがこの方法の良さです。イチローに憧れるのと、ひとつ上のスーパーな先輩に憧れることの違い、とでも言えば良いのでしょうか。どちらの憧れにもいい効果があると思います。

他人のポジティブな反応を大切にしよう

各種ラジオで褒められたり、裏サイトでポイントをもらえたときや、選出されなくとも講座でよいコメントがもらえたときは麻薬中毒者のように繰り返し摂取しましょう。自分の得意とするところ、自分の武器とするところを見つけ出し自尊心を保ちましょう。自分の書き手としての特性を言語化するのもおすすめです(言葉にすると曖昧性が排されて、より自分の輪郭がスッキリするから)

生き残り続けたとして、行き着く先はどこなの

アンジュルム『46億年LOVE』

結局はLOVEでしょ

アンジュルム『46億年LOVE』

終わりに

長くなりましたが、梗概の書き方が分からないとか、選出されなくて辛いとか、何か悩みがあればTwitterでDMでもくれれば反応しますので、何でも聞いてください(講座で昔教わったこととかは、公開noteには書きづらいけど、個別ならとかはあるので)

参考資料


【PR】接続されたSF誌『5G』にはSFについての猿場の記事や5期生が選んだ「良い梗概」が載っています。残部希少!講座が始まる前に読んで他の講座生に差をつけろ!!!


点数の推移とか、文字数との関係などを分析しているブログもちらほらあり、面白いです(下記は一例)

東京創元社がYouTubeで公開している各種トークショウ動画も色々勉強になります。

講座卒業生が書いた講座振り返り記事

5期、6期の邸さん

5期、岸辺さん

4期、遠野よあけさん


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