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重なる想いは厚みがでるほど、優しい未来になるのかな

vol.51【ワタシノ子育てノセカイ

”今”から逃げるには勇気がいる。今はたいがいアイデンティティーになっているから。

人はいつのまにか何かにしがみついて自分を支えているんだ。崩壊する今にしがみ続けるとき、たいがい自分も崩壊しているから、なんだか逃げられなくなってしまう。

崩壊しない自分を生みだすには、しがみつきを棄ててしまえばいいのかも。逃げる勇気が確たる自分を創ってゆくんだ。

ところで私には「実子誘拐」で5年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。

登校する長男タロウを、2階の窓から見送りはじめて、まもなく5ヶ月となる初秋。

自転車こいでる姿だけで、タロウの機嫌だか体調だかが、なんとなくわかる気がしてきた。と思いたいだけかもしれないけれど、わかると思えることに私はとても幸せを感じるんだ。

思い込みとは便利なもので、わかる幸せを感じてしまうと、自転車こぐタロウに感謝がわき、もっと幸せな気持ちになる。すると今度は、私の幸せをいつかタロウに伝えたい想いもわき、いっそう幸せな気がしてくるんだな。

そしていっそう幸せな気がしてくるとさらに、伝えたいと思わせてくれるタロウの存在に感動して、ますます幸せがこみあげる。

そしたらタロウを産めた私はなんて幸せなんだろう、と思わせてくれる登校時間にありがたくなり、さらに幸せが溢れてきて、もうそろそろやめとくか、という15秒くらいの朝の日課を、私はいたく気に入っている。

幸せは省エネで幸せにしてくれるらしい。

ときどき紺色のニット姿になるタロウを見送るようになり、気がつけば2学期の中間テストが近づく。

2023年の中3から、テスト期間中の母子でのランチ会がなんとなく定番になってきた。10月の5日6日がテスト日なのだが、タロウからLINEはない。

前回、一緒に食事した日は体育祭の振り替え休日。昨日みたいに感じるけれど、3週間たっているらしい。そら、タロウはニット姿にもなるか。なんてことを考えていると、5日の夜にLINEがくる。

「明日お昼ご飯食べに行っていい?」

もはやテンプレート化してそうだけど、私にとって文字面はどーでもいいんだな。なんなら「お母ちゃん大好き」ぐらいの変換が自動でなされる。

とりあえず、昆布をお水に浸しといた。

6日の昼すぎ、下校する中学生の声と自転車の音が響きだす。

お昼ご飯の準備をおおかた終えたころ、タロウから呼び出しがきて、これまたテンプレート化してそうな文言。Z世代のあり方をふと想像しながら迎えにゆくと、また少し背の伸びたタロウが現れた。

またしても定型句で「今日のご飯なに?」と尋ねながら車に乗り込むタロウに、ランチ会が日常になってきた気がして、切ないやら嬉しいやら。

ハンバーグと予想するタロウに、タンパク質は鮭じゃない鮭とカモ、と私が答えると、タロウが「おぉ!カモか!」と鮭を流したので、ふたりでコロコロと笑う。ついでに私の朝の気持ちも、タロウに忘れず伝えておいた。

切なくても嬉しくても、幸せやからまぁええねん。溺れている鮭をよそに、エクボのタロウが話をコロっと変える。

「今日は本買いに行こうや」

2023年の春くらいから、私たち親子はワールドトリガーという漫画を、月に2冊づつ買いためている↓↓

私はせっかちなので、まとめて買って一気に読むのが性に合う。だけど母子ふたりで本を少しづつ買い足す時間は、なんだか親子の思い出を積み重ねているみたいで気に入っているんだ。しかもワートリはまだ完結していないし。

ところがこの日、タロウは最新刊まで全部そろえようと言いだす。塾で図書カードをもらったらしく、そろえられる残高があるそうだ。そもそも集めだす春先に、タロウは一気にそろえる提案もしていた。

私は大人げなくちょこっと抗い、ワートリは私が買うから他の本に図書カードを使ってはどうか、と意見してみた。しかしタロウに理路整然と却下される。

食事しながら、鮭じゃない鮭がマスだと気づいて、タロウが笑っているし、まぁええか。

タロウは本を買いに行くときはいつも、買ったらそのまま帰ると予定を立てる。今回も靴を履きながらそう教えてくれた。

そしてタロウは本を買った後はいつも、予定を変更して「お母ちゃんとこで1冊読んでから帰るわ」と本を見つめる。さらにタロウは本を読む時はいつも、1冊から2冊に変更して「お母ちゃん、読みや」と2冊貸してくれる。

いつもの本屋さんに行くと、19巻から26巻までがそろわなかった。織り込み済みだった私たちは、計画どおり別の本屋さんまでドライブ。集めてしまいたい8冊はそろっていたけど、図書カードでは5円足りなくて、私の出番もちゃんとあった。

駐車場まで本を抱えて歩くタロウが「お母ちゃんとこで1冊読んでから帰るわ。いい?」とエクボ。

8冊のワートリと一緒に戻ることになった。

小一時間後、タロウは本を閉じて立ち上がる。伏線ポイントや所感をネタバレしないように、今回もサクっとまとめて私に話しながら帰宅準備へ。

「お母ちゃん、読みや」とタロウはテーブルに本を置く。

2冊が積まれていた。

なのに帰宅するタロウは6冊のワートリを抱えている。来月からワートリを2冊つづ買うことも、もうない。

この日のタロウが教えてくれたままに、ヒュース加入の新チームでのランク戦は、これまで以上におもしろかった。誰かのために尽くす幸せは、誰かの変化がもたらしていて、変化する誰かの幸せは、誰かのために尽くした幸せが、もたらしてゆく物語を感じたんだ。

タロウのおもしろポイントはどこだったんだろうな。

漫画を脇に置いて靴を履くタロウが、私のもとへ来なかったテスト初日について、唐突に喋りはじめる。父親が休みをとっていて一緒に外食をしたことを、背中を向けたまま伝えてきたんだ。

タロウとお母ちゃんの日常に、お父ちゃんがいるのは当たり前で、タロウとお父ちゃんの日常に、お母ちゃんがいるのも当たり前。誰かがいつもと違うことをしたら、誰かのいつもも変わるかもしれない。

家族らしくて、ええやんか。

積み重ねる過去と、そろった今に感謝して、変化する未来をワクワクさせるんだ。そしたらきっと、新しい自分と逢えるから。

とはいえワートリ収集ロスにより、しばらくはセンチメンタルな読書の秋となりそうです。



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