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Rainbow㉙

 月光①

「光」――エリーシャから真里に出されたテーマだ。
 ドラァグクイーンショーを三日前にして、ショーの会場となるフサキリゾートホテルのライブ会場で真里の試験が行われた。
 真里は与えられたテーマに沿ってダンスの大まかな構成を組んだ。舞台上はまだ明るいが、暗闇に差す一筋の光を真里は想像した。その光に縋るように地を這い、手を伸ばし僅かな光を掴もうとする姿を、真里はエリーシャの前で表現した。
 ダンスが終わると、エリーシャは真里に大きな拍手を送った。
「合格よ。この短期間でコンテンポラリーダンスを使いこなすなんて、あなたは、化け物ね」エリーシャは、時折咳をして話しをした。二週間前よりもその姿は痩せ衰えて見える。
「エリーシャさん、体大丈夫ですか?」咳き込むエリーシャに、真里は心配な表情で聞いた。
「私の心配は、いいのよ。それより、立花の所へ行って衣装の寸法合わせておいで。あと、今夜はここで仲間を集めるからあなたもおいで。仲間にあなたを紹介するから」エリーシャの咳は、話すたびに酷くなっているようだった。
「分かった、分かったから。少し横になった方がいいんじゃないですか?」真里の言葉にエリーシャは、何かを察した。
「もしかして、咲人から何か聞かされたの?」
「いや、別に何もないです」真里の目が泳いでいるところをエリーシャは見逃さなかった。
「やっぱり! あれほど他の人には言うな。って念を押したのに。……まあ、知られたんじゃ、しょうがないわね。あなたには、病気の症状のことだけ話しておくわ。あなたは、私専属のサポートとして働いてもらうから。そのつもりで聞いてちょうだい。でも、千夏や南乃花には、その時が来るまでは内緒よ。いい?」真里は頷いた。すると、エリーシャが優しく囁くような声で話してくれた。
 エリーシャの病気は、鼻と喉を中心に症状が出る。鼻血や口内炎が頻繁に起こり、薬を飲んで抑制している。後には病気の症状はさらに広がり、聴覚や視覚を奪うだろう。と、エリーシャは伝えた。
「真里、たとえ私が倒れても、このショーを続けてちょうだい! Show Must Go Onよ!」そう伝えてエリーシャは、真里の手を握りしめた。
 細くて冷たい手に、真里は涙を堪えるので精一杯だった。(つづく)

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