推し活と当事者意識について

2018年に出て、今も記憶に残っているnoteの記事。

—「トキ消費」とは、具体的にどのような消費行動を指すのでしょうか?

酒井:例えば、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の活躍が挙げられます。彼女たちは武道館での単独ライブや「NHK 紅白歌合戦」に出演するという目標を掲げて、ファンと一緒に成長していく姿勢を打ち出して、徐々に人気を獲得するようになりました。まさに同じ“トキ”を共有しようという姿が共感を得たのです。

(中略)

「トキ消費」には3つの要素がある。
「非再現性」その時を逃すと同じ盛り上がりや同じ感動は二度とできない。
「参加性」参加者が主体的に参加できる運動体を作っている。
「貢献性」参加者は自分がその盛り上がりに貢献していることを実感できる。

当時、自分はでんぱ組とゆるめるモ!のヲタクではあったものの、特典会には行ったことがなかったし、当時はそれ以上にアントラーズを応援する熱意の方が大きかったから、上の記事を、気持ちがすごいよくわかると納得しつつ、どちらかといえばサポーターの立場で、Jリーグの人気低迷を憂う心情だったような気がする。

それが今、こんな感じ(ただのドルヲタ)になってるんだから人生はわからないよね…


さて、ここで言われている「トキ消費」。
上ではももクロの例が挙げられているけど、自分が当時推していたでんぱ組もまさにそれで、W.W.Dで書かれているような「マイナスからのスタート」である彼女たちが夢に向かってがんばって進んでいく様をリアルタイムで応援していく、そこにヲタクも当事者意識をもつことができたんじゃないか、と自分は思うわけです。


Jサポもドルヲタもそうなんだけど、現場に足を運ぶか運ばないか、お金を使うか使わないか、そこを分けるものって、この「当事者意識」なんじゃないか、というのが、今日のテーマ。


サッカーファンでしばしば言われていた対立軸、「海外サッカーファン」と「Jサポ」。
これは自分の偏見かもしれないけど、海外サッカーが好きな人は、「すごいプレーが見たい」とか「どうせ見るなら強いチームが勝つところがみたい」とかの動機でサッカーを見ているんじゃないかと思う。
それに対して、Jサポは、「このチームが好き」とか「このチームを応援する」が最初に、根底にあるように感じる。
どちらもサッカーファンなんだけど、このふたつは、そもそもコンテンツの楽しみ方として異なる種類のものである気がする。


いちばん、と言い切るのは難しいけど、アントラーズサポとして、自分が最も印象に残っている試合のうちのひとつは、間違いなく、2016年クラブワールドカップ決勝の、鹿島アントラーズvsレアル・マドリード。
自分が大好きで応援しているチームが、クラブワールドカップという世界大会の決勝で、世界一のクラブであるレアル・マドリードと対戦する、いつもスタジアムで観ている選手たちが、世界的な名手とマッチアップする、それだけでこの上なく興奮することなのに、結果的には負けてしまったけど、90分では2-2で決着がつかず延長までもつれ込んだし、延長前の試合終了間際にはもう少しで逆転勝利というチャンスまで作れたこと、これは間違いなく自分が死ぬまで忘れない幸せな記憶。

レアル・マドリードが好きな人にとっては、これはただの1試合なんだろうけど、アントラーズのサポにとっては、一生忘れない宝物になる。
これは、アントラーズを「自分のチーム」という当事者意識を持って応援しているからに他ならない。
「アントラーズが好き」という想いが、アントラーズという1クラブの物語を、サポーター自身の、自分の物語にしてくれるのだと思うのです。

(とか言いながら、最近はろくに試合も観ないし、気がついたら試合してて結果を知る、なんてこともあるという、サポーターを名乗る資格のない自分なのですが…)


アイドルヲタクにもいろいろあって、なんとなく乃木坂の誰々が好きで、テレビに出ていれば気にして見ている、みたいなライトな「好き」もあるだろうし、同じ人が好きでもライブに足を運んだり握手会(って今あるのかな…)に参加したりする熱心な「好き」もある。
メジャーを目指す途中のアイドルグループも応援する人もいるだろうし、もっと言えば、まだあまり人気が出ていない、駆け出しのインディーズアイドルを応援する人もいる。メジャーでないアイドルの方が一般的にファンとの距離が近く感じられるし、そうするとヲタクの当事者意識はより強くなるように思う。


ところで、アイドルヲタクは、そもそも、どういう理由で、そのアイドルを推そうと思うのか?

ご当地アイドルを推す、それはいちばんきっかけになりうるけど、ご当地アイドルってそんなにいないよね。メンバーのひとりが同郷とかもきっかけにはなりうるけど、それを売りにしていないと、そもそもその情報までなかなかたどり着かないかもしれない。

メンバーにすごくかわいい子がいるとか、すごく歌がうまい子がいるとか、それは大きなきっかけになりうる。自分もフィロのスを初めてテレビで(TIFの特番だったと思うけど)観たときハルちゃんの歌声に度肝を抜かれたのが最初のきっかけだったし、でんぱ組のときも、当時は珍しかった金髪ショートのもがちゃんが気になったのがきっかけでした。でも、これはある程度メディアに露出するくらいの人気がないと出会う機会が少ないかもしれない。

友だちが推してるから。それももちろん大きなきっかけだと思う。でも、これもメディアへの露出に左右されるから、必然的に、超メジャーアイドルがさらにファンを増やすという流れになるように思う。


でも、これらの理由って、きっかけのひとつではあるけど、推す「理由」ではないような気がする。

ではその「理由」はなにか、と考えたら、やっぱり「人」なんじゃないかと思うのです。


いちばんそう思ったきっかけは、最近よく書いてる、きのホ。さんのYouTubeチャンネルにある、「メンバードキュメンタリー」という動画。

この素晴らしい動画のことを説明するのは野暮の極みなので、観てない方はぜひ観ていただきたいんだけど、これを観ると、メンバーの人となりやアイドルになりたい想いみたいなのがすごく伝わってきて、胸が熱くなるしもらい泣きもしてしまうわけです。まだ曲を聴いたわけでもライブを観たわけでもない段階だったのに。

これは言わば、格闘技の大会における「煽りV」みたいなもので。
格闘技の試合って、時間にしたらほんと短いし、あと、どういう試合展開になるかは始まってみないと本当にわからない。一瞬で決着しちゃうかもしれないし、膠着して、いわゆる塩試合になるかもしれない。
でも、そこに、格闘家のそれまでの人生とか、その試合にかける気持ちとか対戦相手との因縁とか、そういうのが詰まったVTRが流れることで、観ている側の思い入れとか、応援したい気持ちがどんどん高まってきて、試合を何倍も楽しむことができるようになる。
他人同士の試合から、視聴者自身の物語になる。そう言ったらいいすぎかな。でもそんな感じじゃないかと思う。


もちろん、煽りVがいくらすばらしかったとしても、試合自体がしょっぱかったら、その人を応援し続ける気にはならないかもしれない。
同じように、アイドルも、最初に人を好きになったとしたって、(伸びしろとか努力も含めて、という意味で)楽曲や歌、ダンス、ライブパフォーマンスが伴わなければ、興味を持った人も次第に離れてしまうだろう。

ただ、いい曲をたくさん持っていて、歌もダンスもとてもいいし、ライブもどんどん向上し続けていっている、すばらしいグループでも、それだけでどんどん売れていくっていうのは難しいし時間がかかることなので、それプラス、メンバー個々の、人としての魅力とか、アイドルにかける想いとか、そういう、ファンが「この人を応援したい」っていう当事者意識を持てるような発信があるとよいのではないか…と思うのです。
その当事者意識が、「主体的にその盛り上がりに参加したい」、つまり、ライブに行くとかCDを買うとかチェキを買うとかの具体的な行動につながるのではないでしょうか。


極論すると、そのアーティストの「作品」が好きか、それともアーティスト「本人」が好きか、そういう話だけど、大抵の場合、両方を好き、ということになるのかなと思う。
作品を先に好きになって、そのあとにアーティスト本人を好きになるか、またはその逆か、その順番の違い。

きっと、理想的なのは、作品が先に評価されて、そこからアーティスト本人(たち)を知り、好きになっていく、そちらの順番なんだろう。
先に個人を好きになってしまうと、その作品がすばらしいから評価されているのか、それとも、個人が好きだから作品の良し悪しにかかわらず評価されているのか、そこがちょっと微妙になってしまう感じがあるから、アーティストとしてはもどかしい思いがあったりするのかもしれない。想像ですが。

でも、さっきも言ったけど、いくら人のよさで好きになったとしても、その楽曲や歌、ダンス、ライブに取り組む姿勢などが伴ってなければ、その後も継続して好きでいることは難しいはず。
ヲタクはそこまで盲目的じゃないし馬鹿ではない。
だから、まず人を好きになって、そのあとに作品だとしても、ちゃんと作品が評価されないと売れていくことは難しいから、逆に言えば、売れていったとしたら「人」と「作品」両方の評価だと言っていいはず。


じゃあ、その「人」としての魅力を伝えて、好きになってもらうにはどうしたらいいのか。

きのホ。さんのYouTubeチャンネルには、MV以外に、メンバーの日常や企画を行うような、メンバー個人の魅力が伝わる様々な動画コンテンツがあり、ファンクラブ会員でなくても観られるようになっている。
動画は個人の魅力を伝えるのにとても有効な手段。

文章も、個人の人となりを伝えるのにとても有効だと思っています。
前にも書いたけど、自分は推しの文章がとても好き。
というか文章に惹かれてその人を推してることも多い。
文章は偽れない、というか、わざわざ文章を書く人って、きっと、自分の本心を書きたいから書くわけですよね。なので、アーティストの人となりそのものが出る気がする。
やっぱり偽らない本音の気持ちはストレートに伝わるし、そうするとこちらも本音を返したい、返さなきゃって気持ちになる。

今まで何度も書いてる、大好きなBuddha TOKYOのライ(RÄI_Lie)さんの文章が、もう本当に、大好きって言葉では足りないくらい大好きなのですけど、この前の記事で書かれていた、ライさんに会いに来たファンの方たちの話、やっぱり自分だけじゃないんだなって思って本当にすごくすごくうれしくなりました。
これこそまさに「人」を好きになるってことだし、そうすると推し活が自分の物語になって、行動を起こしたくなるってことなんだと思うのです。
というか、まさに、ライさんを好きになったきっかけはnoteの文章なんだけど、その時はまだBuddha TOKYOはお披露目ライブもまだだったし、音源すらなかった段階でした。その時点でライさんのこと好きって思った自分を誇りたいけど、それはもちろん、ライさんが最初からそういう発信をしてくれていたからで…本当に感謝しかありません…好き…

ライさんのヲタク全員と友だちになりたい。泣きながら語り明かしたい。勝手に心の友だと思っています…

あと、もちろん、SNSでの発信も、そのひと個人の魅力を伝えるのにとても有効な手段だと思う。
でも、SNSはすごく手軽で多くの人に届きやすい反面、印象に残りづらい側面もあるし、競合する相手もとても多い(みんなやってるから)ので、それ単体ではなかなか難しいのかもしれない。あと、SNSはひとつひとつが短いから、1個の投稿ではとても人柄まで伝えられないことが多い気がする。
そして、発信のプラットフォームが多い。正直、twitterとinstagramで手一杯でTikTokまで手が回りません…

これら3つはどれも、世界中のどこからでも見れるところがよいですよね。
本当は現場に行って、ライブをみたり特典会に参加したりする機会が、間違いなくいちばん本人を好きになるきっかけにも理由にもなるんだけど、実際の話、そんなにちょくちょくライブに行ける人たちばかりじゃないし。


めちゃめちゃ長くなって、しかもまとまらない文章になってきた…


自分は、アーティストとしての価値は作品にこそあって、極論すれば、その人の人間性は作品の価値とは無関係だと思う人間なんだけど、でも、アーティストとしての「アイドル」って、そのキャラクターを含めて「作品」だと思うんですよね。
それが、意図して作ったものであるかどうかは関係ないし、その「作品」としてのキャラクターは、全くの素の本人というわけでもないし、100%作り物というわけでもないでしょうから。

だから、アイドルを人として好きになるっていうのと、アーティストの作る作品を好きになるっていうのは、全く違うものではないと思うのです。

そして、繰り返しになるけど、「人」を好きになると、その人のためになにかしたいと思って、自分の意志で行動を起こしたくなる、それが、ライブに行ったりグッズやチェキを買ったりといった主体的な行動につながるんじゃないかと。

だから、(売れることがすべてじゃない、と思うグループがいてももちろんいいのですが、)「売れる」ということを本気で目指すなら、やはり「人」としての魅力をわかりやすい形で積極的に発信していく必要があるんじゃないか。

…と、全くの素人アイドルヲタクが思うに至った、という話でした。


実は、本題は別のところにあったんだけど…
長すぎるので、それはまた別の記事にしたいと思います。


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