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アメリカの人気絵本が大炎上している件について考える


「なんでDr. Seussの絵本がこんな騒ぎになっているの?」アメリカの政治ニュースでも取り上げられています。「意味わからん!」と調べまくった、その顛末をご紹介します。


どんな人?どんな本?

 子供と一緒に読んだり、レッスンで生徒と使ったり。英語と触れ合う機会のある方の多くは、Dr. Seussによる絵本を一度は目にしたことがあるのではと思います。

コミカルな画風と、キャッチーな韻の使い方で、60冊もの絵本を生み出したDr.Seuss。もともとの名前はセオドア・スース・ガイゼルさん。医者でも博士でもありません。

父親が医者になることを願っていたそうで、ペンネームをDr. Seussにしたそうな。その後、これまでの功績を称え母校から博士号を授与され、「これからはサインを『Dr. Dr. Seuss』」しないと!」と言った、という逸話もあるお方です。

彼の著書は映画化も多くされています。人気なところだと、これ。

The Grinch (2018)  
How The Grinch Stole Christmas (2000)


出版自粛


そんなガイゼル氏による本のうち、「人々の表現に問題があり、傷つけるものがある」として、2021年3月2日にDr. Seuss’s Enterpriseが自ら6冊の出版中止を発表しました。

同社の見解はこのようなものです。 
要点
・私たちの書籍は、全ての地域や家族を象徴するものであるべき
・決定は昨年、何ヶ月にもわたる議論をもとになされた。
・読み手だけでなく、教師や学者や専門家などの意見を聞いた。
・その後さらに専門家と指導者と相談の上、取扱目録を絞った。
中止する本は以下
 “And to Think That I Saw It on Mulberry Street,” “If I Ran the Zoo,” “McElligot’s Pool,” “On Beyond Zebra!,” “Scrambled Eggs Super!,” and “The Cat’s Quizzer.”

さあ、その後どんなことになっているでしょう!人気の本はすごいね。


表現に問題がある、とされる6冊の販売中止がアナウンスされると、問題の本以外も売れに売れちゃってすごいことになってるよ、という記事。
販売中止の本「And to Think That I Saw It on Mulberry Street 」はアマゾンの転売で224ドルに!

差別的表現


では、一体どの本のどこが問題とされているのでしょうか。詳しくみる場合はこちらのサイトをどうぞ。「人種差別的」とされている表現や絵があげられています。以下は絵本に含まれるものではありませんが、同サイトから一枚写真をお借りします。

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パールハーバーの後に描かれた、ガイゼル氏による政治風刺漫画です。同じ顔をした日系アメリカ人がTNT火薬(trinitrotoluene トリニトロトルエン)を手にするために行列を作っています。タイトルは「本国からの指示を待つ。」

こちらのブログで絵についてさらにわかりやすく説明されています。


Dr. Seussの政治思想

ガイゼル氏はルーズベルト大統領支持者で、アメリカの第二次世界大戦参戦と、政府による日系アメリカ人の強制収容も支持していました。ファシズムに強く反対しており、ナチスのヒットラーやイタリアのムッソリーニを非難していました。ウィキペディアより

再びNBCニュースの記事に戻り、絵本の差別的表現に対する意見を抽出します。

「Dr. Seuss の絵や本の差別的な点に着目するのは重要だ。こう言った類の害は影に潜んでいるため、闘うのが難しいからだ。」という意見 

英文学者の意見「第二次大戦中の日系アメリカ人に対するガイゼル氏のプロパガンダは、長らく大目に見られてきた。『そういう時代だったからだ、』と。しかし同じ時代に生きていて、彼のように反日系米人として振る舞わなかった人もいる。理由にはならない。」


なるほど、なるほど。他にはどんな本を書いているのかなぁ?と調べを進めていきます。


すると、戦後日本に対する偏見を捨てて描いた本、「Horton Hears a Who!」があることを知りました。

別の参照がないので引き続きwikipediaを頼ります。

Geisel, who had harbored strong anti-Japan sentiments before and during   World War II, changed his views dramatically after the war and used this book as an allegory for the American post-war occupation of the country.[6]
His comparison of the Whos and the Japanese was a way for him to express his willingness for companionship. Geisel strived to relay the message that the Japanese should be valued equally, especially in a stressful post-war era.

Ron Lamothe noted in an interview that even that book has a sense of "American chauvinism". 

ガイゼルは戦中は反日であったが、戦後は思想を大きく変えた。アメリカによる占領下の日本を例え話にして作品化した。日本との親交を深めようとし、戦後の混乱時こそ日本は公平に扱われるべきとした。

ロン・ラモンテはあるインタビューで、それでもこの本(Horton Hears a Who!)はアメリカの優越主義が見て取れる、と述べている。


ふーん。戦後は反日でなくなったんですね。Horton Hears a Who!は初めてこのYoutubeで読んだけど、この背景を知らなければ、全く違った解釈で読んでいたと思います。

私は「どんなに小さな存在でも、一人一人が声を上げることの大切さ」にフォーカスしました。象のホートンの言う”A person is a person.  No matter how small.” は印象的です。

ガイゼル氏の著作には、はば広い社会的・政治的視点が見受けられます。以下もウィキペディアより

The Lorax (1971) 大量消費批判、環境問題
 The Sneetches (1961) 人種差別問題
The Butter Battle Book (1984)軍備増強問題
Yertle the Turtle (1958)ヒットラーと権力国家批判
How the Grinch Stole Christmas! (1957) 経済、物質主義とクリスマス時期の大量消費文化
Horton Hears a Who! (1954)反孤立主義と国際主義


「出版取りやめは解決にならない」という考え方

こう見ていくと、ガイゼル氏は作品に様々な思いを込めてきたことが見受けられます。再び「炎上」の火元を探りに、他の記事を読みすすめます。

こちらの記事では、「過去の誤った表現問題を取り除くことは、すなわち検閲につながる」「本の出版の取り止めは、問題解決にならない」という論調です。

 We don't have to tuck Dr. Seuss away in a corner. We can talk about him, the good and the bad: his light spirit of whimsy, and the dark racism that marred it. We are better than the censors think we are. 

Dr. Seussの本を隅に追いやる必要はない。悪いところも良いところも、差別の闇も、奇抜で明るい想像力も全てひっくるめて話そう。私たちは検閲官が思うよりももっと賢い存在だ。


よくわかります。目に見えないと人はすぐ忘れちゃう生き物です。ただ、それが人を傷つけることもあります。難しいところです。さらに別の記事へ。


「キャンセルカルチャー」を批判する考え方

この記事では、差別の解決を声高に叫ぶ革新的な人々を「エリート」と呼び、ポリティカルコレクトネスの過度な追求を批判しています。

そういった今日の社会的圧力の中で、今回の出版自粛が起こってしまった、と言っていると私は捉えました。「どこまで人種差別問題を「キャンセル」しなければいけないのか。その程度は?」と問うています。

また、こんな事例も書かれていました。

昨年、サンフランシスコの44校の学校名を変更する「キャンセル」の動きがあった。歴史上の人物からとられた名前だが、彼らに差別の歴史が見つかったためだ。しかし変更は棚上げになった。「永遠に名前を崇められる人間というのはいるのだろうか」「抑圧の歴史は名前を変えずとも明かである」という意見があった。


その他の記事も読み進めていくうちに「本6冊の出版自粛が政治論争になる」という、アメリカの手強い分断を感じてきました。


保守派が命名した「キャンセル・カルチャー」

では誰がこの6冊の出版自粛を「キャンセル・カルチャー」と呼び、批判しているのでしょう。

それは、これまでの白人主流のアメリカの歴史がキャンセルされることに反対している保守派の人々です。

彼らが批判しているのはDr. Seuss Enterpriseではありません。人種差別問題を取り上げて、ポリティカルコレクトネスを追求する新進的な人々です。


例えばこんな人がいるよ

自分が書いていないDr. Seussの本(アマゾンで$4.99)にサインをして、12倍の値段の$60で販売するテッド・クルーズ上院議員。
「革新派のキャンセルカルチャーに立ち向かおう!」と政治問題にしています。ハフィントンポストの記事参照

絵本の出版自粛を、全く関係のない政治問題に紐付けています。本の販売中止は1企業としての判断ですが、それがまるで民主党とバイデン 政権の仕業のように騒ぎ立てている、と書かれています。

ちなみにクルーズ上院議員はテキサス州選出ですが、この2月の大寒波で停電、水道のストップや破裂で多くの人が困っている時に、リゾートに逃げちゃった人です。 

それが見つかって全米中から大バッシングを受けたのですが、最初の言い訳は「娘が友達と旅行に行く予定にしていたから」でした。その後本当は寒かったから急遽リゾートをブッキングしたことがバレました。娘のせいにしちゃダメだよね。


炎上は話のすり替えだった


今の米国社会では話をすり替える荒技があちこちで見えます。

Dr. Seussを利用して炎上させているのは「キャンセル・カルチャー」を強調し、差別問題解消を訴える人々に刃を向けている保守派陣営と見受けました。

じゃあなぜこんなに大騒ぎをしているのか、と言いますと。

バイデン 政権がとてもうまくいっているからでしょう。

ワクチン接種は凄まじいスピードで進んでいます。ヒューストン 郊外のうちの学校区の教員、バスの運転手、給食のおばさんなどなど、教育に関わる人は三月中旬の今週末に全員接種が終わる、と言われています。

そして1.9兆ドルものスーパー大型救済法案が可決しました。これが可能にすることはそれこそびっくりするほど色々。

まず、子供の貧困を半分に減らすことができる!教育への支援も大きく、これで安全に全国の学校を開始できる、と言われています。

ということで、炎上しているその本質はDr. Seussの絵本ではなくて、

どうやら炎上させることで、政治的にわちゃわちゃ騒いで、現政権の邪魔をしたい人たちのようだよ、ということです。

ここまで長文にお付き合いありがとうございました。


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