お引き取りください

実はまだ許してない。
不妊患者を見下して嘲笑した人のこと。

あたかも自分は一般的な、良識の有る人間だと示す文言を並べ
それでいて不妊でない自分は優位な立場にあって、不妊患者を馬鹿にすることは何ら問題のない行為のように。

私からすれば、そういった人間の方がよっぽど醜い。
不妊症を患い、心身を傷め、自暴自棄になって人を憎み蔑んでしまう人間より、
何も失っていないのに、何の被害もこうむっていないのに、
ただ苦しむ人間を嘲る人間の方が、何倍も、ずっとずっと、醜い。


不妊治療は辛かった。
これが地獄かと感じたものけど、自分が踏み入れるまで知らなかった。
知るはずもなかった。
子供が欲しいという単純な願いが叶わない現実なんて想像もしなかった。
何の成果も残さないのに大金が一瞬で消え去る治療の事なんて、
1か月に何度も何度も通院が必要な治療の事なんて、
不妊治療に否定的な人間がどれほどいるかなんて、
どれほど馬鹿にされているかなんて、
それらがどれだけ精神的負担になるかなんて、
患者になる前は、知るキッカケすらなかった。

それらがどう辛かったかなんて、いくら語っても、理解されないことがほとんど。
経験しないと分からない。あるいは
本気で理解しようと寄り添わないと、分からない。
多くの人間は理解しようとすらしない、でも、それでも、敢えて傷つけにはいかない。

それなのに、不妊治療を経験しない人間や、思いやりのない人間の中に、
何故か自分の想像力を過信していたり、自分を全知全能の神かなんかだと勘違いしている人間がいて、
自分には不妊患者をバカにする権限があるのだと妄信して
理不尽に刃物を振りかざすの。

医療関係者でもない赤の他人が、患者をこうだと評価すること自体、
おこがましい行為だと理解する知能がないことに、同情の余地はあるけれど、
どれだけ本人が無知で愚かな人間だとしても、
他人を傷つける免罪符にはならないのに。


「不妊患者は子連れに配慮しない」なんて妄想を言葉にして、
誰を幸せにするつもりで、どれだけの人を不快にさせたかったのだろう。

良識や思いやりなんて微塵も感じられない。
治療の苦しさを慮ったことなどない…文字通り“配慮”に欠けている。
不妊治療クリニックは、ただ子供が欲しくて、子持ちに嫉妬している人間が集うところだという偏見。
意味もなく不妊患者を見下す醜さが滲み出ている。


本当はそんな人間がいても無関係でいたい。
そんな醜悪な人間に対して割く労力も感情も勿体ない。
だけど、不妊治療を卒業して既にこの手で自分の子供を抱いた私よりもずっとずっと、
深く傷つき、治療に後ろ向きになってしまった人たちがきっといる。
本来傷つく必要なんてない、受け止めてやる義理もない。
でも受け止めてしまうし言い返せない、自分たちの醜さを、自覚しているから。

不妊患者の心は脆くて継ぎ接ぎだらけ。
知人友人の妊娠出産が憎い。おめでたいニュースで落ち込む自分が嫌い。
あるべき姿ではないと自分が一番理解している。
自分の苦しみに他人は関係ないと理性が訴えている。
人を祝福することができないのは苦しい。人を羨むのも苦しい。
だけどそれは理解されない。
人知れず泣いていたとしても、労われたりしない。
そして、心身の不調がより不妊に働く。

だからこそ許せない。
不妊なんて自分の努力ではどうしようもない現実に苦しめられ
毎日喘ぎながらなんとか乗り切っている患者を嘲笑するだけでなく
治療を後退させる人間なんて絶対に許せない。
そんな害悪はこの世から消えて欲しい。


“私には自分の子供をこの手に抱ける日が来ないのかもしれない”
考えるべきではないと分かっていても、どうしたって悲観する。
でも進まないといけない。通院することを辞めれば、それは望みを絶つことになる。
だから通うの。不妊治療をしに。クリニックに。
そこで子供の姿を目にしたら。胸がギュッと締め付けられる。
クリニックにいるのだから当然頭の中は自分の成績や妊娠に関することばかり。
報われない現実がずっとそばにある。今、現実を突きつけられている。
卵胞が全く育たなかったかもしれないし、
内膜が育たず移植が延期になったかもしれない。
採卵しても正常卵が一つもなかったのかもしれない。
流産を告げられた後かもしれない。
街中で偶然にすれ違うのとは全く意味が違う。
その場に子供がいたら、それは必然だ。

もちろん子供に非が無いことなど誰もが理解している。
子連れ患者も患者なのだから、よほど薄情な人間でない限り、他の患者がどう感じるか理解している。
だからこそ他の患者もほとんどが、自分の心が悲鳴を上げていることに気付きながらも、
歯を食いしばって、ワッと泣き出してしまいたい衝動を抑えながら、
子連れ患者にも理由があることに理解を示そうとしている。
でも子供の存在が患者の精神衛生上よくない、つまり治療にマイナスに働くことは明らかだと考えるから、
子供連れはご遠慮くださいというクリニックが多数ある。

それが現実。これが事実。
どこの馬の骨とも知れない愚か者のお粗末な妄想で語られるべき場所ではない。

大半の患者は“不妊様”などと揶揄される筋合いもないし
子供連れを見て心が深くえぐられたとしても攻撃することはない。

自分がいかに無知で、薄情で、醜い人間であるのか
恥知らずでみっともない発言をしているのか
不妊患者を嘲る人間は、鏡に向かって問うてほしい。

好き好んでこの地獄に足を踏み入れた患者なんていない。
不妊患者は今も、ただ自分の子供をその手に抱きたくて
クリニックに足を運び、自分に注射を打ち、戦っている。
どれほど儚い望みだとしても。
ほとんどの人にとって不妊治療は不要なものだと知りながら。

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