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バリ島で感じた「懐かしい未来」

バリ島の棚田風景(筆者撮影)

オムロン創業者らが構築し、半世紀以上経った今もなおオムロン経営の羅針盤として活かされる未来予測理論「SINIC理論」の未来ダイアグラムでは、あと10年で100万年前からの人類史、社会発展の1周期が完了します。そして、新たな2周期目の「自然社会」が始まると予測しています。
 これは、農業社会、工業社会、情報社会という大きな社会区分レベルのまったく新しい社会の到来です。しかし、これまでのような産業区分で説明できた社会とは異なる自然社会のイメージは、なかなか想像したり具体化しづらいのです。でも、正月明けに旅行に出かけたバリ島の内陸部にあるウブドにて、それを少し感じ取れた気がしました。そこで今回は旅の備忘録として、走り書きのnoteです。

バリ島という世界

 バリ島は、ジャワ島の東に浮かぶインドネシアの島の一つであり、トロピカルリゾートとして有名です。私のようなジュリア・ロバーツファンならすぐに思い起こせる、映画『食べて、祈って、恋をして』、『チケット・トゥ・パラダイス』の舞台です。イスラム教徒の多いインドネシアにあって、バリ島はジャワ島から伝わったヒンドゥー教と、バリ島土着アニミズムが融和した、自然豊かな島ならではの独自の宗教文化が根付いており、島内の至る所で様々な神様と出会えます。単なるリゾートとは違うヒューマンルネッサンスが湧き起こる場かもしれません。そして、八百万の神と共に生きてきた日本とも似ているところです。

マナ・アースリー・パラダイス(筆者宿泊棟)

 その美しいバリ島の中で、今回の5日間は、海岸ではなく内陸部で王宮もあるウブドに滞在しました。滞在先のマナ・アースリー・パラダイスというエコホテルも、それだけでコラムを書ける素晴らしいホテルでしたが、今回のコラムでは、とにかく備忘録としてキーワードを並べたままのメモとなりますが、ご容赦いただければお付き合いください。

1.Tri Hita Karana(繁栄の3つの要素)

https://whatsnewindonesia.com/home/bali

 この「トリ・ヒタ・カラナ」という言葉は、バリ島の風土に根ざした日常の暮らしのフィロソフィーだそうです。バリ島にあふれる幸福観の源泉なのでしょう。その3つの要素とは、「神々」、「自然」、「人々」との関係という、生きていく上での3つの関係性です。これら3つの要素が豊かに調和して初めて平和と繁栄が達成されるという考え方です。そして、バリの人々はこのフィロソフィーを、日常の暮らしの中に習慣として大切に取り入れ続けています。

筆者撮影

 毎朝のホテルのレストランで、朝日の中、鳥のさえずり、豊かに繁る木々の葉、その間を舞い飛ぶ蝶や虫、気持ちよく朝食をとっていると、スタッフがホテルの様々な場所に花を飾り、祈りを捧げます。清々しい、心洗われる、神々しいシーンです。それを、日に数回行うのだそうです。驚いたことに、空港の荷物検査の設備にも花が飾られ、検査官が祈りを捧げていました。常に、神々への感謝、祈りを欠かさず、日常の暮らしの一部として習慣となっているのです。その日常さが私にとっては非日常で驚くほどでしし、その光景を目にする度に、とても幸せな気持ちになりました。

筆者撮影

 二つ目には自然です。自然は対峙するものでなく、文字通り自ずと然りなのです。今回の滞在は雨期でしたが、午後になるとスコールに見舞われます。でも、みんな慌てたりしていません。商店の軒先など、その時の居場所でゆっくり雨があがるのを待っています。他人が自分の家や店の前で雨宿りしていても、だれも咎めていません。また、ホテル滞在中には、いろいろな動物と遭遇しました。朝起きてドアを開けた目の前に50cmくらいのイグアナかカメレオンのような黄緑の動物や、一晩で現れる床の3cmくらい毛羽立ったカビ?これは、アースバッグ建築ならではの出来事なんだろうか?そんな珍事もおもしろがりながら過ごしました。人もそれ以外の生き物も互いに攻撃的にはなりませんし、私たち家族も笑顔で迎えられます。不思議でした。

筆者撮影

 三つ目は人間関係です。神様との関係、自然との関係、人々との関係、言われてみると、ほんとうに幸せの関係性のトライアングルだと感じます。そういう中にいる自分も、とても幸せな気持ちになります。ついつい笑顔になり、ついつい穏やかになり、ついついゆっくりとしたリズムになるのです。幸せは豊かな時間とリズムの中からつくられるものなのだなと、つくづく感じました。

2.豊かな高周波の音環境

 バリでの朝は、午前4時頃の高らかなニワトリの声で始まりました。ニワトリに続いて、小鳥たちがそれはそれは喧しく元気にさえずります。そして、6時頃になると、近くのコミュニティから聞こえてくるマントラと唱える低い声、そして仕事場に出かける人たちのバイクの音という具合に続いていきます。夕方には、蝉の鳴き声とは思えないほどの不思議な高周波の音に満たされます。そして池のカエルたちの大合唱です。
 また、室内で毎晩聞こえる「カッコー、カッコー」という鳴き声が不思議だったのですが、じつはこれはトカゲの鳴き声でした。また、これらの自然の音だけでなく、ガムランやバリ舞踏の音環境もあふれています。働いている人たちも、日本であれば「仕事中は私語は慎め」と怒られそうなほど、楽しげなおしゃべりの声にあふれています。

筆者撮影

 東京の生活にあふれている、スマホや電子レンジ、自動レジなどのピピッという電子音ばかりが耳に入ってくる音環境とは全く異世界なのです。そんなことを思っている時に、思い出したのが30年前くらいにHRIで研究をお願いしていた大橋力先生のハイパーソニック効果でした。この研究は、「聴こえない高周波音が、脳の活性に影響を及ぼす」というものであり、バリ島の音環境が取り上げられていたのです。マントラの唸りからセミの鳴き声まで、低周波から高周波まで、とにかく音環境の多様性が豊かなのです。音によるコミュニケーションは、人間が言葉を持つ以前からあったもの。まさに、自然社会のコミュニケーション環境ではないでしょうか。

3.ノン・コントロールの中の流れ

 バリ島内は、ウブドのあたりでもクルマとバイクがかなり多く走っています。そして、信号がありません。そういう制御の無い道路上を、4人家族全員を乗せたバイクが、かなりのスピードでぐにゃぐにゃと走り抜けて行きます。

筆者撮影

 タクシーの運転手に「これじゃ、交通事故がかなり多いだろう?」と尋ねてみると、「いや、それほど多くはないよ。ほとんどないよ」と応えられて驚きました。彼らの運転の特徴は、クラクションの多用にあると感じました。車線を変える時、追い越しをかける時、なにか動きを仕掛ける前には必ずクラクションで合図してから動き出します。そういうコミュニケーションで、譲り合いが行われているのです。そして、ノーコントロールの道路でも事故が少ない。ここには、ノー・コントロールの自律社会のヒントが見つかるかもしれません。

4.渾然一体となった遊・学・働・美

 とにかく、現地の人たちの表情が柔和なのです。悲壮感が伝わってくることがありませんでした。働いているのか、遊んでいるのか、その区別さえも曖昧な感じでした。しかし、ちゃんと働いています。けれど、楽しそうな笑顔は絶えません。タイパとかコスパとか、そんな窮屈なパフォーマンスなど度外視のように見えるのです。もっと大きな「愉しさ」、まさにコンヴィヴィアルな生き方に見えるのです。
 それは、私がヒューマンルネッサンス研究所で仕事を始めた時に置いた、未来研究における大きな仮説としている「遊・学・働・美の渾然一体化」の姿だろうと感じました。

 ほんとうに書き散らかしの暫定版備忘録となってしまいました。申し訳ありません。今後、反芻しながら推敲を加えていこうと思います。とにかく、これは「自然社会のヒント満載!」と感じ取れるバリでの滞在、まさにジュリア・ロバーツのいた『チケット・トゥ・パラダイス』そのもの、『食べて、祈って、恋をして』、パラダイスでした。

ヒューマンルネッサンス研究所
エグゼクティブ・フェロー 中間 真一


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