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ソロ暮らし社会が、そろりそろりとやってくる

いちばん確かな未来予測

 未来を完璧に予測することは不可能だ。しかし、それら数多の未来の見方の中でも、最も確からしさの高い未来予測は何か?お気付きのとおり、「人口動態」からみる未来の姿は、かなり高い確度の未来予測だ。
 WHOが発表している最新の世界の平均寿命(0歳時点での平均余命)を見ると72.5歳、また日本は世界1位の長寿国であり84.3歳である。それほどに寿命が長くなっているということは、今いる人々と、次世代として生まれる規模を推し計り易い。今後数十年間の世界の人口構造は、ほぼ予測可能になるわけだ。

13年連続で過去最大減少幅を更新した日本の人口減少

 そういう中で、つい先日2024年4月12日、総務省から最新の日本の人口推計(2023年10月1日時点)が発表されていた。外国人を含む総人口は、前年より59.5万人減って(日本人は83.7万人減、外国人は24.3万人増)、1億2435万2千人だそうだ。
 すでに、日本の人口は2011年から減少が始まっている。今回の推計で13年連続の人口減少も明らかになった。この結果は、あまり驚くものではない。当面はこのまま減少が続いていくのは間違いない。
 都道府県別に見ると、増加したのは、なんと東京都(1,408万人増)のみである。それ以外の46道府県はすべて減少だ。ちなみに減少率が最も大きかったのは秋田県で1.75%だった。概して東北地方の人口減少率が高い。既に少ない人口にもかかわらず、さらに減少率が高止まりしている。
 出生率の高さで話題となる沖縄県でも人口は減少している。沖縄で生まれても、そのまま住み続けるのでなく、県外に流出してしまうのだ。新型コロナの感染リスクによって、一度は大都市一極集中が反転するかという見方もあったが、やはり、パンデミック収束後は再び大都市、それも東京一極集中という日本の人の動きに戻りつつあることを今回の結果は明らかにした。

人口減少は子どもを産み育てる「コスト問題」?

 このような人口減少、特に生産年齢人口の減少は、従来どおりのGDPで測る「経済力」においては、ゆたかさの低下につながるから国家の大きな課題となる。
 だから、政府は躍起になって「少子化対策」を講じて、「お金のかからない子育て環境」を用意しようとしているようだが、本当にそれが有効なのか、子どもを産み育てる不安は、親の自分たちの不安と共に、生まれてくる子ども達の未来不安も大きい。そもそも、少子化はゆたかな社会に至ったことにより生じた社会現象でもある。さらに、そういうこれまでとは非連続な未来へと育つ場づくりこそが必要なはずだ。
 そういう、過去にも未来にも、より長期の見方で本質を問おうとすれば、これらの対策の有効性は、応急処置としか見えなくなる。出産・子育てコストの軽減で解決しようとするのは、本質的解決でないばかりか、負担が増えて、未来への力も準備できず、さらなるゆたかさの縮退につながるのではないかと心配になる。
 世界一の長寿国であり、超高齢社会の最先端を行く日本は、すでに今後ますます急増するに間違いない介護や年金等の社会保障コストの増大は免れず、それらは財政の負債となり、つまりは国民の負債、負担の拡大となって押し寄せてきている。

増えないばかりか、「抜けていく」人口

 抜けていく人口減少と言っても、ここで注目したいのは高齢者の死亡ではない。働き盛りの優秀な若手が抜けていくことだ。人口減少→少子化対策・出産子育て支援策→財政負担増→支え手の国民負担増→不公平感の高まり→ゆたかさ実感低下→未来不安→人口減少、こんな負のスパイラルに陥ってしまうことが心配だ。その兆しの一つと感じたのが、今年初めの新聞記事で確認した統計データ「日本人の海外永住者数」であった。
 案の定、日本人の海外永住者数は増え続けていた。海外赴任等での長期滞在者は微減であるのに対し、生活拠点を海外に移した永住者の数は、2023年時点で前年比3%増の57万4727人となっていた。そして、この増加傾向は、新型コロナによるパンデミックの影響もあっただろうが、ほぼ20年間続いている。
 さらに、その内訳を見ると、男性よりも女性が多い(6割超)のも特徴的だ。日本に住み続けることへの未来不安、損得で考えれば損、わかりやすく言えば「こんな日本で暮らし続ける、働き続けるなんて、アホらしい」のだ。最近の円安の加速も、この傾向を後押しするはずだ。すでに、ドル建てで給与を得られる海外法人での就業のために「出稼ぎ」どころか、どこにでも棲める時代の居場所選びとして、国外に出ていく優秀な若い人たちの増加もとても気になるトレンドだ。

「ソロ暮らし社会」の到来

 さらにもう一つ、今回公表された人口推計で注目すべき大きなポイントがあった。「世帯」に関する推計結果だ。世帯の総数も2030年をピークに減少に転じるということが示されていた。人口減少に少し遅れての世帯数の減少なので、さほど驚く事実ではないのだが、問題は世帯構成である。
 世帯総数の中でも、単独世帯が2036年にピークを迎えて減少に転ずるという推計だが、単独世帯の全世帯に占める割合は、その後も上がり続けるということに注目すべきと感じた。単独世帯は2020年の38.0%から増加し続け、2050年には44.3%まで上昇するという見込みが示されている。そして、この傾向は推計のたびに上振れで加速していることがわかる。また、男女共の長寿化によって、今後の30年間では男性のソロ暮らし化の増大が、女性よりも大きくなる。
 もちろん、多様な価値観が許容されるようになる中で、自ら単独世帯という選択をする人もいる。人それぞれで幸せな状態が異なることは問題ない。しかし、単独世帯の大きな特徴の一つは、高齢者のソロ暮らし化である。また、若い年代層でも、やむを得ずソロ暮らしを強いられる人々が増す可能性もある。
 血縁、地縁、社縁、これまで確固たる社会単位として続いてきたものも、流動化が進むであろう。誰においても、望まないソロ暮らしの中に入ってしまう可能性は、高くなる方向だ。日本社会の平均値であっても、半数近い老若ソロ暮らしとなる社会である。そのような、家族、まちはどうなるのだろう。そのような中での働き方、遊び方、学び方、暮らし方、生き方はどうなるのだろう。まったく新しい、これまでの連続では考えられないようになるのではなかろうか。たとえ経済的な豊かさが担保されていたとしても、幸せな暮らしを持続できるだろうかと心配になる。

「集団中心」への価値観再転換を予測するSINIC理論

 ところで、ここでSINIC理論の未来予測の考え方を持ち出してみてみよう。この理論による未来ダイアグラム上では、現在の最適化社会の価値観は、これまでの人類史の中で最も「個」中心の価値観に至って、個性や個別性を大事にしようとする社会の時期に至っているという見立てになる。そして、その最適化社会を経て、再び「集団」中心の価値観へと舵を切るタイミングが、まさに今なのだ。つまり、日本の世帯構成において、単独世帯がピークを迎えようとしている現在に、驚くほどに符合しているということになる。
 そこで、SINIC理論のダイアグラムに沿って未来を見通し、未来創造を先駆けようとするならば、今ここで準備すべきことは、「ソロ暮らし」の不安解消という社会課題からのソーシャルニーズの創造だろう。これまでのソロ化に向いた動きから、逆方向のコレクティブ化に反転するというのは、大きなカオスも伴いそうだ。そういう中であっても、ソロ暮らしでも孤立に陥ることのない、家族、血縁、社縁など固定的な縁に頼らなくてもよい、様々なつながりの強さを確保できるような、新しい「つながりのデザイン」が必要とされるのではなかろうか。そして、貨幣経済の下でのサービス産業だけでは解決しない「お互い様のデザイン」も必要とされるのではなかろうか。

それこそ自律社会の創造だ

 SINIC理論では、原始社会から始まる人間社会の一つの発展到達点を「自律社会」と名付けている。そして、理論を読み解いた結果として、自律社会の3つの構成要件を明らかにしている。すなわち、一人ひとりが「自立」、「連携」、「創造」を目指して生き、そういう中で一人ひとりの最適な生き方が生まれ出す社会という考え方である。
 自分は何であれば立てるのか?不足を補い合える仲間たちといかに出会えるのか?そして、仲間たちといかに創造的に働き、遊び、学べるのか?そういう暮らしを、既存の「縁」や「枠取り」とは違う、新しい社会デザインによって創り出すことが必要となる。まさに、自律社会の創造だ。
 この実現に向えれば、ソロ暮らし社会も不安な未来ではなくなる。必要に応じてソロとユニゾンの間を自由に往来できる生き方が可能になる。それによって顕在化するソーシャルニーズは何か?このソーシャルニーズ創造こそ、じつは迫り来るソロ暮らし社会、人口減少社会を幸せにドリフトできる生き方への道筋ではないだろうか。こういう社会、じつは東京ど真ん中ではなく、既に人口が減り、ソロ暮らし社会が始まっている周縁の場では、たくさんの兆しが見つかることを忘れてはならない。周縁にこそ未来が見える。

ヒューマンルネッサンス研究所
エグゼクティブ・フェロー 中間 真一


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