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YOASOBIさん「アイドル」の記録的人気をリツイートネットワークから可視化してみる

赤坂アカさん原作、横槍メンゴさん作画の漫画のアニメーション化作品『推しの子』のオープニング主題歌『アイドル』が、配信開始数日で再生/視聴回数を伸ばし、各種記録を更新しつつあるようです。

YOASOBIさんの人気が広がるメカニズムについては当研究室でも、2022年12月のジャカルタ公演に関するTiwtterデータを元にしたネットワーク分析を行ったことがあります。

このときは「ファンダム」という観点から非常に興味深い現象が観察されたのですが、今回はどうでしょうか?

そこでYouTubeでの同曲MV公開日である2023年4月13日から、今回のデータ取得日である4月17日までの4日間の間に、「YOASOBI アイドル」を含み投稿されたツイートの、リツイートネットワークを視覚化してみました。

該当ツイート30,895件のツイートを行っているアカウントとそのリツイート元アカウントのデータから、Pythonを用いてエッジリストとノードリストを作成し、Cytoscapeでネットワーク図の視覚化と中心性の計算を行っています。その結果、次のようなネットワーク図が出現しました。

「YOASOBI アイドル」のリツイートヘットワークの主な部分

中央左下には、白い大きな打ち上げ花火のような多数のエッジをもつリツイートネットワークがいくつか存在します。これらのリツイートネットワークの中心にあるのが作品やアーティストの公式系のアカウントだと思われますが、それ以外にも外側に、まるで線香花火の煌めきのように無数の中小のリツイートネットワークが広がっていることがわかります。

この中で、作品公式アカウントやアーティスト公式アカウントなどが直接関与しているネットワークはどれくらいあるのでしょうか?

そこで公式系アカウントとして、下記7アカウントを設定し「そのアカウントのツイートがリツイートされていることを示すエッジの色」を水色に塗り分けてみましょう。

水色が、7つの公式系アカウントが他ユーザーから直接リツイートされていることを示すエッジ

このようになりました。やはり大きな打ち上げ花火のようになっている、エッジの多いネットワークの中心にはこれら上記の7アカウントが存在するようです。水色に塗ったこれら7アカウントが生んでいるエッジの本数は、17,327本でした。

一方で、ネットワーク全体に存在するエッジは30,895本でしたので、公式系7アカウントがカバーしているのは全体のエッジの56.1%となり、その外側では、43.9%が、データ対象期間中に直接公式系アカウントをリツイートせずに「アイドル YOASOBI」に言及しているということになります。

そこでは一体どんなアカウントがどんなツイートでどんな役割を担っているのでしょうか?  

まずネットワーク科学における「媒介中心性」に注目してみましょう。媒介中心性が高いノードは、それがなければネットワーク全体がバラバラになってしまうような存在、あるいは交通網の要衝のような働きをするとされます。

その媒介中心性を全アカウントについて計算してみると、ネットワーク全体で最も高い媒介中心性を示したのは、公式系7アカウントではなく、それら無数のエッジの中心にある、別のアカウントでした(ピンク色でハイライト)。

最も媒介中心性が高かったのは、公式アカウントではないアカウント

このノードのリツイートネットワークは公式系7アカウントのただ中に位置する一方で、右上に位置する、水色の公式系アカウントとのリツイート関係が及んでいない白色の外部のネットワークへの架け橋のような役割も果たしています。

右上に伸びているピンク色のエッジの先にいるアカウントから、さらにネットワークが広がっている

この中心の存在するノードは、同曲のMVアニメーション制作においてディレクターを務めた「よは」さん(naota0048)による次のツイートでした。

このよはさんのツイートは多くのリツイートを生み、次の図の中央少し右に位置する白色のネットワークへとリンクしていきます。

この白色のネットワークの中心に位置する大きめのピンク色ノードを確認すると、次のアカウント「なら」さんにツイートだったことがわかります。

ならさんは、同曲MVのアニメーション制作で原画を手がけたアニメーションディレクターさんのようです。

よはさん、ならさんともに、アニメーション業界のクリエーターであり、その活動をフォローしている多くのアニメーションファンの方々にリツイートされていると考えられます。

そして日本のアニメーションのファンというのは、一般的にJ-POPのファンに比べて比較的海外に多く分布していると考えられます。

このならさんのツイートは、ネットワーク全体中で、よはさんに次ぐ2番目の媒介中心性の高さを示しており、重要なハブのような存在を果たしているとみられます。

他にはどんなリツイートネットワークがあるでしょうか。左上のノードが形成しているネットワークに注目してみましょう。

このアカウントは、ネットワーク全体で9番目にたくさんのエッジ(843本)をもっている一方で、公式系アカウントと直接のリツイート関係になく、媒介中心性も低いので、ほぼ独立して同曲の認知を広めているような存在となっています

実際のツイートは、プロフィールに「ジャーナリスト」とある方のタイ語アカウント(hyggelabyrinth)による次のようなツイートでした。

アニメの第1話を見た後、アイドルのMVにハマってしまい、また泣いてしまいました。
可愛いMVですが、こっそりアイちゃんのコーナーのストーリーやアイドルの抱える苦しみを挿入。
くそYOASOBI、また泣いて踊らなきゃいけないの?🥹

Google翻訳による翻訳を当研究室修正

この方の過去ツイートを辿ってみると、マンガやアニメーションに関するものが非常に多いので、日本マンガ、アニメーションのビッグファンであるようにみえます。

もう少しだけ他のタイプのリツイートネットワークを探してみましょう。

水色の公式系アカウントの直接リツイートネットワークの右上に位置する、こちらのネットワークはどうでしょうか。

このアカウントも媒介中心性は高くないですが777本と、全体で10番目に多いエッジをもっており、かつ期間中には公式系アカウントと直接関与せずに同曲の認知を独立的に広めているような存在となっています。

こちらのアカウントとツイートを確認してみると、人気の歌い手さん、七海うららさんの次のツイートであることがわかります。

また七海うららさんの更に右側に位置するリツイートネットワークも、公式系アカウントと直接関与しない形で多くの被リツートを生んでいます。

こちらのアカウントとツイートは、人気の歌い手さん「ちぐさくん」さんによるカヴァー動画のツイートを起点にしたものです。

他にも多数のVtuberさんたちによる #歌ってみた 動画がネットワークの中に確認できます。


こうした無数の歌い手さんやクリエーターさんたちによる、スピーディーかつ同時多発的な「アイドル」への参加が、今回のリツイートネットワークの急速かつ大規模な形成の特徴のように思えます。

「歌ってみた」動画の増加は、ニコニコ動画やYouTubeにおけるボーカロイド楽曲のリリース直後にみらる現象ですが、今回はそうしたメカニズムに、YOASOBIさんというアーティストの国内外での人気の基盤、原作マンガ、アニメーション作品のファンネットワークが加わって、大きなケミストリーを生んでいるように感じます。

気軽に投稿できるYouTube Shortsなどを用いた動画の創作や、参加型の投稿の生まれやすい作品特性は、オリジナルアーティストや原作の元々のファン層以外にも短期間に認知を拡大し、再生/視聴回数を押し上げる要因になるのかもしれませんね。

===  2023年6月23日および2023年12月29追記 ===

YouTubeに投稿されている YOASOBIさん「アイドル」の、「歌ってみた」「踊ってみた」動画の投稿数推移を視覚化してみました。ほぼ毎日、1日あたり平均20本投稿され、1000本を超えている様子がわかります。

その動画本数は1000本を超え、総計視聴回数は1.8億回を超えています。

2023年6月13日現在で、YOASOBIさん「アイドル」の公式MV動画単体の視聴回数は2ヶ月という短期間で1.6億回に達していますが、「公式以外」1000本を超える同曲の「歌ってみた」「踊ってみた」動画の総計視聴回数は1.8億回を超えており、ほとんど同規模となっています。

マスメディアでもなく狭義のファンダムともまた違ったかたちで、公式以外で2億回近い視聴規模というのは、驚くべきことですね。

この1000本を超える「歌ってみた」「踊ってみた」動画を作成し投稿している人々は、単なる消費者でもないし、単なるリスナーやオーディエンスでもないし、インフルエンサーでもなければ単なるファンとも少し異なるように思えます。

また「歌ってみた」「踊ってみた」動画に限らず、リアクション動画なども含めて「タイトルに「YOASOBI アイドル(もしくはidol)」を含む動画」全体に対象を広げて分析すると、公式動画5本の合計視聴回数が5.8億回であるのに対して、ユーザー投稿動画の合計視聴回数は7億回と、オリジナルを大きく上回っています(2023年10月27日時点)。

言ってみれば、『推しの子』という作品とYOASOBIさんが行った「アイドル」という、総合芸術的な意味での表現に感応し、賛同し、それそれが同時多発的に行動を起こすことで連鎖的に形成された、共鳴表現型のアソシエーション(共通の目的や関心をもつ人々が、自発的に作る集団)のように思えます。

=== 追記ここまで ===

またTikTokでは「踊ってみた」動画が増加しているように感じます。YOASOBIさんが好きな人、原作マンガが好きな人、アニメーションが好きな人、歌うのが好きな人、踊るのが好きな人…様々な人たちが、自分の「好き」や得意分野を生かして表現を発信でき得る幅広い参加性が、同曲の認知を急速に、多様な層に広めるのに一役買っているように思えます。

既存の「ファン」あるいは「ファンダム」のネットワークに閉じずに、「非ファン」「非ファンダム」の高い参加性と瞬間的な情報の広がりが起きていることがポイントなのかもしれません。

今回のネットワーク分析でみえてきたことをまとめると次のようになるでしょうか。

  • 原作『推しの子』の元々の人気と読者の存在

  • 人気アニメーションクリエーターの方々のMVへのスタッフィングと、その方々による一斉ツイート

  • 国内のみならず海外にも広く分布する日本アニメーションのファンによる情報収集と発信

  • 多くの歌い手さんやVtuberの方々による、カヴァー動画投稿による自発的参加と拡散

  • 非ファンによる参加型と親和性の高い、歌詞、楽曲構成、振付

他にも劇場公開や4月24日に行われたTikTok LIVEなど色々ありますが、また機会をあらためてまとめたいと思います。

YOASOBIさん「アイドル」をめぐっては今後も画期的な現象がみられそうな気がしますので、引き続き観察していきたいと思います。

以上、徒然研究室でした。Twitterでもオープンデータとプログラミングで関心あることを分析してツイートしております。どうぞご贔屓に。


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