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星野源さんの海外での聴かれ方をSpotifyデータで可視化してみる

世界には実にユニークな音楽があり、星野源さんはそうしたアーティストのリスナーから聴かれ始めている。その背景にはアニメーションとJ-POPの「幸せな結婚」があるように思えます。Spotifyのビッグデータで探ってみたいと思います。

グローバルチャートにランクインした星野源さん

Spotifyのようなサブスク型音楽配信プラットフォームで、日本語で歌うアーティストが「グローバルチャート」にランクインすることが増えてきました。最近では星野源さんがその一人です。

4月に配信リリースした新曲「喜劇」(TVアニメ"SPY×FAMILY"エンディング主題歌)が、世界のSNSで最も話題になっている指標であるSpotifyグローバル・バイラル・チャートでのランクインを皮切りに、台湾、韓国、香港でのSpotifyバイラル・ソング・チャートで続々1位を獲得し、ベトナム、タイ、マレーシア、フィリピンなどのアジア地域や、アメリカ、カナダ、チリ、ペルーなどの北南米エリアなど各国のバイラル・チャートでも上位を記録、同曲のミュージック・ビデオも1,000万再生を超えるなど国内外で盛り上がりを見せている星野源。

https://skream.jp/news/2022/06/hoshinogen_kigeki_remix.php

そんな星野源さん。昨年、当研究室にてSpotifyのビッグデータを使って藤井風さんのアーティストネットワークを分析した際、藤井風さんの聴かれ方に最も重要な役割を果たしていると思われたのは星野源さんでした。

他の日本人アーティストのネットワーク分析をしても、多くの場合、星野源さんは媒介中心性が高いノード(そのノードがなければネット全体がバラバラになってしまうような存在)として現れます。

今回はその星野源さんがグローバルチャートにランクインした現在、一体どのような聴かれ方をしているのかを、Spotifyの聴取データから可視化してみたいと思います。

Spotify WEB APIからPythonでコードを書いて星野源さんを起点としたアーティストネットワークのデータを取得し、ネットワーク図として描画しています。

密集のJ-POP大陸

まず全体像はこちら。真ん中の星野源さんのノードがあり、その周辺に濃密で広大なネットワークの塊が形成されています。さすがです!ここではこの固まりを「J-POP大陸」と読んでおきます。

ノードの大きさは媒介中心性の高さに対応してます。星野源さんおよび媒介中心性の高いアーティスト上位7組とその第一隣接ノードを黄色でハイライトしています。

ではこのJ-POP大陸を拡大して観察してみましょう。あまりに密集したノード群の中に「Gen Hoshino」が見えるでしょうか。

ではこの星野源さんのノードの第一隣接ノード(直接繋がっている=一緒に聞かれている度合いが強いと思われるアーティスト)をハイライトしてみましょう。

すると、22組のアーティストが現れました。媒介中心性が高い順にリストアップしてみます。

  1. miwa

  2. ayaka

  3. AAA

  4. FUNKY MONKEY BABYS

  5. SEKAI NO OWARI

  6. Official HIGE DANdism

  7. sakanaction

  8. Nogizaka46

  9. Leo Ieiri

  10. Shota Shimizu

  11. Kenshi Yonezu

  12. PornoGraffitti

  13. YUZU

  14. UNISON SQUARE GARDEN

  15. GReeeeN

  16. SPITZ

  17. Mr.Children

  18. Remioromen

  19. ARASHI

  20. Motohiro Hata

  21. YUKI

  22. The Sharehappi from J Soul Brothers III from EXILE TRIBE

ジャニーズさんからLDHさんまで、ソロからグループアイドルさんまで、実に多様なアーティストさんたちと一緒に聞かれていることがわかりますね。

この第一隣接ノードの中で最も媒介中心性が高いアーティストは、miwaさんです。miwaさんは今回のネット全体の中でも5番目に媒介中心性が高いアーティストでした。

ネットワーク科学において「媒介中心性が高いノード」というのは、「それがなければネットワーク全体がバラバラになってしまう」あるいは「それがなければすごく遠回りのつながりしかなくなってしまう」ようなノードのことです。

むちゃくちゃ簡単に言えば、「あの人がいなかったらウチら友達になってないよね」における「あの人」のように、色々な関係性を媒介している存在です。

つまり星野源さんからみた場合、miwaさんがいることによって、星野源さんのリスナーが広がっている、ということになります。

誰が星野源さんへ媒介しているのか?

ではその上で、もう一度ネットワーク全体を俯瞰してみましょう。

このネット全体において媒介中心性の高い7組を順にリストアップしてみます。

  1. BoA

  2. Hikaru Utada

  3. CHiCO with HoneyWorks

  4. HoneyWorks

  5. miwa

  6. TVXQ!(東方神起)

  7. Ghost and Pals

BoAさんが媒介する韓流島

最も媒介中心性が高いBoAさんを通じて、図の左上には東方神起さんをはじめとして多数の韓流アーティストから成る島が出現しています。

韓流島 拡大図

星野源さんはまずもって、BoAさんを媒介として多数の韓流アーティストさんのリスナーさんから聴かれている、ということが推察されます。

昭和歌謡/シティポップ半島

次に着目してみたいのは、広大なJ-POP大陸の上方にあるエリアです。

昭和歌謡/シティポップ半島 拡大図

ここには松田聖子さん、中森明菜さん、荒井由美さん、岩崎宏美さん、杏里さん、Hi-Fi Setさん、大貫妙子さん、EPOさん、佐野元春さん、竹内まりやさんなど、いわゆる近年のシティポップのオリジナルアーティストとして世界的に注目されている70年代から80年代のアーティスト群が存在します。

星野源さんはこれらのノードと直接の繋がりをもっていませんが、miwaさんやCHICO with HoneyWorksさんを媒介して、時代を超えて一緒に聴かれるケースが存在していると考えられます。

ラッパー/トラックメイカー島

また左下には、何と名付けるのか難しいですが、Awichさんをはじめとしたラッパーやトラックメイカーから成る島があります。

ラッパー/トラックメイカー島 拡大図

音楽性はかなり違いますが、おそらく、

星野源さん - サカナクションさん - Creepy Nutsさん

というようなつながりで、こうしたジャンルのリスナーさん達からも星野源さんは聴かれているケースがあると考えられます。

ネット出身海岸

そして右下にはまた違ったエリアが存在します。ここではネット出身海岸?と名付けています。

ネット出身海岸? 拡大図

この海岸にはキタニタツヤさんのような、メジャーシーンではなくインターネット上での楽曲公開やボカロPとしてのキャリアをスタートさせた若手のアーティストさんたちが含まれていると思われます。

ネット出身海岸「?」としているのは、現代ではほぼすべてのアーティストさんがネットでの作品発表を行うことから活動をスタートさせているため、わざわざネット出身と呼ぶことの意味がなくなるのではないかと感じるからです。

そのキタニタツヤさんと近接して繋がっているZUTOMAYO(ずっと真夜中でいいのに)さん、フジロック2022にも出演する前衛的なポップアーティストさん(上手い表現がみつかれませんが)。

ブラウン管テレビをパーカッションに使うなど、すごいフロンティア感です…!

海外ボカロP/ゲーム半島

さてその右上には、また別のエリアが存在します。ここでは海外ボカロP/ゲーム半島と呼びます。

海外ボカロP/ゲーム半島 拡大図

その突端に位置するJesper Kydさんは、デンマーク出身の作曲家で、ビデオゲームや映画の楽曲を手がけておられるようです。

海外独特世界観島

ここまで来ると私では全然わからないアーティストさんが増えてきますが、最後に残されたエリア、右上の大きな島になると、もうほとんどわかりません。

海外独特世界観島 拡大図

もはや何と呼んで良いかわかりませんが、海外独特世界観島?としています。この島の中で媒介中心性が高く、全体でも7番目に媒介中心性が高いGhost and Palsさんの楽曲を聴いてみましょう。

何とも不思議な、童話の世界に迷い込んだような世界観の楽曲です。

Ghost and Palsさんは、イラストレーター、音楽プロデューサー、映像編集者で、VOCALOIDやCeVIOなどのボーカルシンセサイザーを利用した楽曲を発表していて、独特の音楽性で知られるアーティストさんのようです。

この島にはGhost and Palsさんを媒介として、日本のリスナーにはあまり馴染みがないけど、実にユニークな音楽性をもつアーティストネットが広がっているようです。詳しい方おられたら教えてください…

Ghost and Palsさんの第一隣接ノードからなるネット

アニメーションとJ-POPの「幸せな結婚」

さて、Spotifyのビッグデータから星野源さんの聴かれ方を探索してきましたが、国内でも昭和歌謡からラッパーまで。海外にいたっては韓流はもとよりゲーム音楽や、独特の世界観の海外ボカロPまで、実に後半で多様なアーティストさんのリスナーから星野源さんが聴かれる構造が形成されている、ということが見えてきました。

別の言い方をすれば、星野源さんは、音楽ジャンルとしての類似性から聴かれているというよりも、ジャンルを超えた何かによって、Ghost and Palsさんようなユニークなアーティストさんのリスナーからも、国境を越えて聴かれている、ということが示唆されています。

特に星野源さんの場合は、やはり『SPY×FAMILY』のエンディング曲を歌っているということも大きな背景としてあるように思われます。

これは裏を返せば、それだけ日本のアニメーション作品の「国境突破力」が強いということでもあるように思えます。
(ちなみに同作の「世界の先進国の核家族にとって切実な悩みである『受験』というシステムをハックする」という物語構造も非常に秀逸だと感じます。)

かつて日本語で歌うことは巨大な海外市場に参入する上での大きな足枷になっていると思われていましたが、それはサブスクリプションというシステムの出現によって大きく変わろうとしています。

Spotify公式が出している興味深いファン研究レポートによれば、ファンダムにもはや国境はないといいます。

ファンは、素晴らしい音楽はどこからでも生まれると知っている。世界のリスナーは、毎月平均して14カ国のアーティストをストリーミングで聴いている。ヨーロッパのリスナーの場合、その数はさらに多く、毎月16カ国にも達する。(注:徒然研究室(仮称)訳)

https://fanstudy.byspotify.com/edition/global

そして現代では、海外での再生ランキングにランクインしている楽曲のその多くが、日本のアニメーション作品とタイアップしているとされます。

今や英語で歌わなくとも、優れたアニメーション作品の主題歌を歌うことによって、海外のリスナーに「発見」される可能性が高まっている。

「アニソン」というのは、既存のJ-POP市場のなかではある意味で特殊で限定的なカテゴリだったかもしれませんが、これからはJ-POPのメジャーアーティストが、海外のマーケットへ進出する最大にして唯一の、ホットなジャンルとして、大きく再定義されているように思えます。

つまり、アニメーションとJ-POPの「幸せな結婚」がある。

そしてアニメーションの主題歌を歌うことは、星野源さんのリスニングデータを分析する限り、海外の、ユニークな音楽性を愛好するリスナーたちから聴かれることを意味しているように思えます。

そのリスナー層は、特定の国の特定の年齢層に固まって存在しているわけではないけど、無数の国に散らばって存在していて、ネットワークで繋がっている。

そうしたリスナーさんたちからの聴取が積もり積もって、日本語楽曲でのグローバルチャートでのランクインを可能にしている。

アニメーションという、いわゆるオタクっぽいと思われていたコンテンツが、実は最も世界に通じる扉になっている。

なんともおもしろい時代になりました!

以上、徒然研究室でした。


以下余談です。

今回のようなサイズの大きんネットワークを分析するとき、端っこに出現する海外のアーティストの音楽性が一体どんなものなのかを調べるのが結構大変なのです。

でもよく考えたらSpotifyから取得しているデータの中に「ジャンル」というデータがあったので、アーティスト名とジャンルデータだけを抜き出して、アルファベット順に並べたCSVファイルが自動生成されるようにコードを追加しました。

おお…!これでざっくりと傾向をつかめそうです。

で初めて知ったのですが、Spotifyには「otacore=オタコア」というジャンルがあるんですね…

オタコアは日本のアニメ文化の影響を強く受けた音楽です。アニメに熱中する「オタク」を意味する日本語の「オタク」と、あらゆるタイプのハードコア音楽のラベルとして使用される音楽用語「コア」の略です。

https://www.musicianwave.com/what-is-otacore-music-a-clear-explanation/

そしてその左の「j-pixie」って何…

そんなj-pixieでありオタコアでアニメなジャンルのMYTH & ROIDさんの楽曲はこんな感じです。

たしかにJ-POPという呼び名では括りきれない魅力を感じます。

サブスクリプションの生態系の中で生まれつつある新しいジャンルですね。

おもしろい!


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