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立憲民主党はなぜ国民民主党と統一会派を組んだのか

立憲民主党が国民民主党を含む複数の野党系会派と統一会派を組むことになった。これまで立憲民主党は独自路線を強調し、党の合従連衡に対しては「永田町の論理に与しない」と否定的なスタンスで臨んでいたため、この方針を聞いたときは驚いた支持者の方も多かったのではないだろうか。立憲民主党はいったいどのような理由でこれまでの方針とは全く逆に見えるような動きに出たのか、それをこの記事を通して考察してみたいと思う。

立憲民主党が統一会派の結成に動いた理由は大きく分けて次の4つにまとめることができるのではないかと思う。そこで、そのそれぞれの項目ごとに立憲民主党側の思惑やそのメリット・デメリットについて考えていくこととする。

(1) 衆院選に向けての候補者調整の円滑化
(2) 国民民主党の独自行動の制限
(3) れいわ新選組に対する牽制
(4) 宙に浮いた希望の党の票の獲得

この中で自分が最も主要な理由として考えているのは(4)なので、文章を全部読むのが面倒な場合は(4)だけを読んでください。

(1) 衆院選に向けての候補者調整の円滑化


立憲・国民の双方にとって最も利害が一致するのはこの点であろう。立憲と国民は国会対応などでしばしば齟齬をきたしており、支持者同士も仲が良くないケースが多く見られるが、それでも小選挙区が中心となる選挙においてはどうあがいても候補者調整が必要になってくる。そのことは理解しながらも、やはりお互い自党の候補者を擁立したいという思いはあるわけで、調整は進めながらも対立する場面はどうしても出てくるであろう。

しかし統一会派を組んでいれば「1つの小選挙区に対して、1つの会派から2人以上の候補者が立候補する」ということはよりありえない選択肢となるため、立憲と国民の候補者調整はより円滑に進むことが期待できる。

もちろん候補者調整は共産やれいわ新選組との間でも必要となってくるが、最も調整に手間取るのは立憲と国民の2党間になるであろうことを考えれば、この点についてはメリットと言っていいだろう。

しかしながら、これが統一会派を結成した最大の理由であると考えるのは難しい。統一会派はたしかに候補者調整をスムーズに進める助けになりこそすれ、調整は統一会派を組むかどうかに関わらずどのみち行う必要が生じるものだ。統一会派の結成には様々なデメリットが生じるリスクもある中で、「候補者調整をスムーズに進める」の一点だけで突き進んだとは考えにくい。そうすると、実際には他により大きな理由があると考えるほうが合理的であると思われる。

(2) 国民民主党の独自行動の制限


立憲民主党の支持者が統一会派の結成に関して期待していることの一つがこの点なのではないだろうか。維新を除く野党の中で最も与党に近いスタンスを取っているのは国民民主党であり、国民民主党自身も「与党と建設的な対話ができ、提案もできる野党」という「与党とそれなりに距離感が近い野党」をアピールポイントにしようとしている節がある。ただし、それは言い換えれば与党の戦術にフラフラと乗ってしまいかねない危うさを持っているということでもあり、そうした不信感を他の野党やその支持者が少なからず持っていることは否めない。

たとえば参院選直後に玉木代表が「私は生まれ変わった。改憲議論を進め、首相と党首会談で協議したい」という趣旨の発言をしたときは野党支持者に強い疑念を抱かせたし、また国民民主党の参院幹部が維新に接触して統一会派を打診したという報道も大きな不信感を呼ぶこととなった。

しかし、ここで立憲と国民が統一会派を組むということになれば、自ずと国民がこうした独自性を発揮しようとする場面が限られてくる。立憲側が「原発ゼロなどの立憲の主要政策に理解と協力」を約束する文書を提示して、それにサインさせることで、立憲の指揮下で動くことを国民側に求めたのも、国民民主党の独自性封じとしての側面があったことはたしかであろう。

しかしながら、統一会派によって国民民主党の独自の動きを封じるという狙いはかなり難しい問題もはらんでいる。国民民主党も当然ながら独立した政党であり、立憲が望んでいるような「立憲の指揮下で、立憲の政策を受け入れて統一会派に参加する」ことを本気で受け入れる気は毛頭ないであろう。国民民主党の支持者の方からすると不快に思われるかもしれないが、国民民主党は統一会派結成のために交わした文書一枚で簡単にコントロールできるほど甘い集団ではないだろう。

たとえば国民民主党の前身である希望の党への合流騒動では、希望の党に移籍する際に民進党時代に主張していた政策の多くを放棄するという、有権者に対する背信と呼んでいい行為をやってのけている。また今回の参院選で市民連合と交わした政策文書についても国民民主党所属の岸本議員が「約束してない。あれは要望書。受け取りのサインをしただけ。政策合意じゃない。全然政策違うし」と発言している。市民連合と交わした文書が実はただの「要望書」に過ぎなかったことは事実ではあるのだが、それでもサインした以上は「信義ベースでの約束」としての意味合いを持っていることはたしかである。そして今回の統一会派結成の際に立憲と交わした文書についても電力総連出身の小林正夫総務会長が「立憲が原発ゼロを考え方として持っていることは理解したという意味だ。(法案を)容認したわけではない。」と発言するなどしている。こうした経緯から見ても、国民民主党は「信義ベースの約束」については守らないことを躊躇しない性質を持っていると考えていいだろう。したがって、少なくとも立憲民主党は国民民主党と接する上において「それぐらい手強い相手である」ということを強く認識して臨まなければ、自分達の指揮下に置くつもりだったのに気付いたら振り回されていたということになる危険性は非常に高いと言えるだろう。

また、この統一会派はただ立憲の呼びかけに応じたものではなく、国民民主党側にも大きな目的があっての判断であることを強く意識しておく必要があるだろう。国民民主党にとって、立憲との関係のゴールにあるのは「両党の対等な合併による大民進党の結成」である。支持率が低迷している国民民主党としては立憲民主党との合併を望むのは当然のことであろう。しかしながら、原発ゼロをはじめとして立憲民主党の政策をそのまま全て飲むのは難しく、それゆえ政策面において立憲民主党に一定の譲歩をさせたうえで合併への流れを作りたいという狙いがあるだろう。そうすると、国民民主党からすれば、今後も立憲に対して政策面で様々な揺さぶりをかけたほうが今後の展開を優位に進めやすくなるという側面がある。「あまり揺さぶりをかけて立憲側から統一会派を解消されると国民民主党も困るのでは」と思われるかもしれないが、統一会派を結成したものの内紛によって解消するということになれば、当然ながら党支持率にもマイナスの影響が生じる。そうすると立憲民主党は必然的に大きな打撃を受けることとなってしまう。一方の国民民主党はすでに支持率が下がり切っているので、失うものがないという強みも持っているのだ。

(3) れいわ新選組に対する牽制

今回の統一会派結成について、最も指摘されている背景はこれではないだろうか。もともとは政党要件を満たさない泡沫扱いに近かったれいわ新選組が参院選で予想以上の得票を獲得し、野党共闘の枠組みに新たに加わることに前向きな姿勢を示しつつ、同時にその存在感を背景に「消費税の5%への減税を野党の共通公約に」と主張している。このれいわ新選組の影響力の拡大とどのように向かい合うかが立憲民主党の今後において大きな課題の一つとなっているのはたしかであろう。

次期衆院選はこのれいわ新選組も含めた5党(立憲・国民・共産・れいわ・社民)+1会派(社保)による枠組みの野党共闘になる可能性が高いが、このうちの4会派(立憲・国民・社民・社保)が統一会派に関わることになれば、必然的にその影響力は強まることが予想される。こうして先に野党共闘のうちのいくつかの党で枠組みを作っておくことで、残りの党(共産・れいわ新選組)の発言権を小さくする。こうした狙いがあることが考えられる。

しかしながら、個人的な見解としてはこの手法が立憲民主党にとって功を奏するかどうかについては少々懐疑的である。前回の衆院選後の希望の党~国民民主党との国会内での主導権争いのように、相手側が議席の「数」を武器に影響力を行使しようとしている場合には、対抗するために同様に「数」を利用するのは1つの有効な手段であろう。しかしながら、今回のれいわ新選組に関しては肝心の土俵が大きく違ってしまっている。れいわ新選組は国会内の勢力としてはたかだか参院2議席の弱小勢力である。したがって、国会内の「数」としての影響力はもともとほとんど持っていないのだ。

では、れいわ新選組が何を背景に影響力を行使しようとしているかというと、それは有権者からの支持である。戦略的な観点から見るなら、れいわ新選組としては自分達の独自政策のアピールなどを通じてその政策と党への支持率を高め、それを背景に「これだけ支持を受けてるんですから、この政策を柱にして戦うほうが与党に勝てる可能性が高まるのではないですか」という形を作ることを狙っているのだ。

そうすると、立憲民主党がれいわ新選組の影響力に押されたくないと思うのであれば、必要なのは「有権者からの支持」という同じ土俵においてれいわ新選組に対して大きな優位を保とうと努力することではないだろうか。いくら統一会派で大きなかたまりを作ることで影響力を高めようとしても、それが逆に党の支持率の足を引っ張ってしまい、れいわ新選組に支持率で迫られるようなことになってしまえば、要求を飲まざるをえなくなり、れいわ新選組の戦略勝ちということになってしまうのだから。

前回の衆院選後に立憲は野党の中では圧倒的な支持率を確保することに成功していたが、希望の党~国民民主党が国会内での数合わせによって影響力を高めようと何度も対抗してきて、立憲民主党とその支持者はそのことで散々嫌な思いをしてきたはずである。それが今度は新興勢力のれいわ新選組に対して、当時の希望の党~国民民主党と同じような手法で対抗しようとしているのだとすれば、それは少々皮肉な成り行きだとも思ってしまう。そうした手法こそ、本来の立憲民主党のコアな支持者が最も嫌がっていたものの1つだったはずなのだから。

(4) 宙に浮いた希望の党の票の獲得

(1)~(3)で示した論点はこれまでも多くの人が語っており、話題としては決して目新しいものではなかったと思う。ただこの(4)の点は、不思議とあまり注目されていないような印象がある。しかしながら、今回立憲民主党が統一会派に動いた最大の理由はこれなのではないかと自分としては考えている。

先の参院選における立憲民主党周辺の票の動きは、簡単にまとめれば次の3点に集約できる。

・共産党への票の流出はあまり見られなかった
・れいわ新選組に多くの票が流れた
・前回衆院選における希望の党の票はほとんど流れてこなかった

この中で今回の参院選における立憲民主党の最大の誤算は「宙に浮いた希望票をほとんど取れなかった」ことにこそある。れいわ新選組が話題になったことで、「れいわ新選組に票が流れた」ということばかりが注目されているが、最大の問題点はそこではないのだ。

結党直後に躍進した前回の衆院選を振り返ると、このときは共産党に流れていたリベラル票を確保することができたのが非常に大きかった。民主党政権の失敗以降、リベラル票の少なくない部分(約150万票)が民主党から離れて共産党に流れてしまっており、これが再び旧民主党系である立憲民主党に戻ってきたのが、2017年の衆院選の大きな注目点でもあった。

そうした経緯もあり、この「共産党から回帰してきたリベラル票を繋ぎ留め続けられるかどうか」は今回の参院選における立憲民主党の課題の1つでもあった。そしてこの点については、共産党の比例票が前回衆院選からほぼ横ばいであったことを見る限りおおむね成功したと言うことができるだろう。今回の参院選で立憲民主党が夫婦別姓や同性婚などのいかにもリベラル的な政策を提示したのは、リベラル層に対して「我々はあなた達のほうを向いている政党ですよ」というアピールの側面もあっただろう。経済政策などよりもこうした主張に重きを置いた姿勢には、れいわ新選組に票が流れたこともあって否定的に語られることも多いが、リベラル層に対して一定の安心感を与えたこともたしかだったと思う。

そしてこの「共産党から回帰したリベラル票の確保」と並んで、立憲民主党にとって重要だったのが「前回衆院選で希望の党に投票した人達の票をどれだけ確保できるか」であった。希望の党に入れた人には小池百合子の個人的なファンもいれば、希望の党の保守寄りのスタンスに惹かれた人もいるだろう。後継政党である国民民主党にも何割かの票は流れるし、選挙協力関係にあった維新に流れる人もいただろう。しかし、衆院選後に希望の党の支持率が低迷し、後継政党である国民民主党も支持率が低いままであったことを考えれば、かなりの数の票が宙に浮くことは間違いなかった。また、前回衆院選では希望の党は紛れもなく自民党への対抗馬の一番手と目されていたことから、「自民党を倒すために野党側の最も強そうな対抗馬に入れる」という理由で獲得した票もかなりあったと見ることができる。そして選挙の結果、立憲民主党が野党第一党となり、その後支持率でも希望の党~国民民主党が低迷したことから、こうした「野党第一党票として希望の党に投じられた票」の多くは立憲民主党に流れるものと見られていた。

これはある程度選挙マニア的な視点を持ち、支持率の変遷を見ていた人であれば大半の人が近いことを予想したのではないだろうか。特に立憲民主党が野党第一党になり、その後も支持率が上昇し、希望の党が低迷に向かったタイミングで「再来年の参院選の票の流れはどうなると思う」と問われれば、希望の党の票のうちの何割かが立憲に上乗せされると予想したであろう。しかしフタを開けてみれば、実際には希望の党に入れた票の多くは宙に浮いたままで、立憲民主党に流れることはほとんどなかった。

ここで実際に前回衆院選と今回の参院選の一部政党の比例票を見てみよう。

(左が2017衆院選、右が2019参院選)
立憲 11,084,890 → 7,917,721
希望 9,677,524 → 0
国民 0 → 3,481,078
維新 3,387,097 → 4,907,844
れ新 0 → 2,280,253

希望の党の得票のうち、まず国民民主党に約350万票が流れ、また維新の増分である約150万票も流れたとしよう。すると、宙に浮いた希望票は約450万票ということになる。一方の立憲は約300万票を減らしており、れいわ新選組への流出と投票率の低下を考慮しても、さらに少なからずどこかに流出したと考えれ、一方で他党からの大きな流入はほとんどなかったと解釈せざるをえない。宙に浮いた希望票から立憲に流れた票はゼロではなかっただろうが、数字の動きを見る限り可視化することが不可能なレベルに小さかったと結論付けるしかないだろう。

各政党は独自の情勢調査なども行っているので、前回希望に入れた人が今回の参院選でどのように移行したかなども調査したと見ることができる。それらの結果もまた、ここで推察したのと同様に非常に厳しい結果であったことだろう。

今回の参院選が終わった後、立憲民主党の幹部はこの結果を非常に重く見たのではないだろうか。野党第一党として活動してきたにもかかわらず、「とりあえず野党第一党に入れる」という票を吸収することができなかったのだ。そうなれば、ここで必要になるのは「立憲民主党こそが本気で自民党に対抗して政権を狙える第一候補なのだ」と有権者に思ってもらえるようになることだ。そう思ってもらうために立憲の幹部が考えたのが、これまで頑なに否定してきた「大きなかたまり」だったのではないだろうか。

独自路線の追求は立憲民主党の大きな個性でもあったが、それが「党勢拡大を目指さず、本気で自民党と対峙して政権交代を狙っているように見えない」と受け取られる要因にもなっていた可能性は否定できない。そこで「大きなかたまり」を作れば、本気で政権交代の受け皿を目指していると見られやすくなるのではないかという考えがはたらいたと見ることができる。

一方で独自路線を歩んでいたからこそ立憲民主党を支持していた人は非常に多かった。それこそが立憲民主党のアイデンティティの1つであったと言ってもいいだろう。そのため「独自路線を一定程度維持すること」と「自民党に替わる対抗軸と思ってもらえるような大きなかたまり」の2つを両立させる必要があった。その結果が「立憲民主党の指揮下に入るという形で他党に統一会派を呼びかける」ということだったのではないだろうか。

このように見ると、今回の統一会派の結成は理に適った判断であったようにも思える。しかし(2)でもすでに触れたように、ここには大きなリスクもひそんでいる。そもそも立憲民主党は結党時に何故あれだけのムーブメントを引き起こし支持を得ることができたのだろうか。それは「自民党でも民主党政権以降の民主党~民進党でもない第3の選択肢」であり、それと同時に「民主党よりも明確にリベラル的な志向性を持っている」と思ってもらえたからではないだろうか。だからこそ、民主党政権に失望して「もう共産党でいいや」と離れてしまった票が戻ってきたのではなかろうか。

しかしながら、今回の統一会派はどう取り繕っても「これじゃまた民主党じゃないか」と思われるのを避けることができない。そう思われてしまうということは、「第3の選択肢」として立憲民主党を支持していた人の心が離れていくことに繋がっていく。とりわけ民主党政権時代の政策の続きを進めていくべきであるとの姿勢を今も明確にしている野田佳彦氏との連携を深めることは、民主党政権時代の民主党への回帰をイメージさせてしまうことを避けられないであろう。

さらに(2)で指摘したように、国民民主党との主導権争いや政策面での妥協が今後も発生していくことは避けられない。そうした主導権争いの中で立憲がアピールしていた独自性は少しずつ削られ、そらにそうした内部対立が報道され続けることで支持率にマイナスの影響を与えることもあるだろう。

宙に浮いた希望票を取れなかったことが立憲民主党に大きな課題を突きつけたことは間違いない。ただしそこで立憲民主党が取るべき最善の道がこの統一会派の結成だったのかどうかは、今後の歴史が証明していくことになるであろう。

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